お目覚めの時間
「でも別に、もう話はついただろ。放っといてさっさとエニシの仲間集めたらいいんじゃねぇの」
流石のアルベルトも、今の話を聞いた後に殺せばいいとかなんだとかは言わないらしい。『わけわかんねぇ』と言いながらも、多少真面目に話は聞いていたのだろう。
「少し、話をしてもいいか」
エニシが立ち上がって、転がされているサイカの前へと歩いていき、そのまま地べたに正座して向き合う。サイカが目をそらしたまま黙り込んでいるので、やがてエニシが困った顔をしてコリンに声をかけた。
「コリン、すまぬがサイカを普通に座らせてやってはもらえぬか?」
「はいはい」
縛られているサイカは自分で座ることもできないのだ。
コリンはひょいっと縄に指をかけて、体を浮かすように持ち上げ、サイカを立ち上がらせる。
人を転がす技術に優れているコリンは、重心を把握するのが上手いので、これくらいのことは朝飯前だ。
妙な浮遊感と共に立ち上がらせたサイカは驚いて固まっているようだった。
「座って話をせぬか」
「なぜここに」
「ああ、そうか。お主は我が来たことも知らなんだな。……お主、ハルカに対して能力を使っただろう。ハルカというのは……、あそこのダークエルフのことだが」
「……そうだった……、ような気がします」
衝撃に記憶が曖昧になっているらしいサイカが、自信なさげに答える。
余程のダメージを負ったらしいが、これに関してはエニシも経験があるので気持ちはよく分かる。
頭が爆発したかと思うような衝撃だった。
「我もハルカの未来を覗こうとして、同じような目に遭ったことがある。お主は死にかけていたところを、ハルカの魔法で助けられたのだ」
「…………まさかエニシ様はそうなることを狙って、あの者を私の前に連れてきたのですか?」
「いや、それは本当に偶然だ」
「…………そうですか」
気まずい沈黙。
勝手に罠にはまって勝手に死にかけていたと分かれば、言葉が出ないのも無理はない。
それから何か黙ってしばらく考え込んでいたサイカは、その場に座り、静かにエニシに問いかける。
「……では、私に復讐を?」
「いや、それもない。ただ、志を同じくする者を取り戻しに来ただけだ」
「……なぁ、エニシ」
「なんだ?」
エニシが真面目に話しているところに、空気を読まずにアルベルトが話しかける。
「よく考えたら、今ならお前、巫女総代に戻れるんじゃね?」
「…………確かに」
「戻ればよくね?」
現状神龍はエニシを応援してくれていて、敵の頭であるサイカはこの様だ。
じゃあ今日からまた自分が、となるのは何も難しいことではない。
しかしエニシはしばらくじっくり黙り込んで考え込んだ後、首を横に振る。
「……いや、やめておくべきだろうな」
「ふーん、なんでだ?」
「巫女総代には役割がある。そして、あまりに自由がない。もし本気でこの国を変えようと思うのであれば、巫女総代のままでいることは難しいだろう」
「なんか窮屈そうだもんな」
「そうだ、窮屈なのだ。お主らのような自由を知ってしまうと、余計にできることの少なさを思い知る。そしてきっとこの窮屈は……、神龍様に守られている、ということなのだろうなぁ」
アルベルトの素直な言葉に、エニシは思わず苦笑した。
話を聞いていなさそうで聞いているアルベルトの言葉は、意外なほど真理を突くことが多い。
「のう、サイカよ。お主は確か、どこかの領主の出であったな。それで侵略をされて、少しばかり大きくなってからこの島に来たのだったか。お主はきっと、我よりもずっと外の厳しさをよく知っておったのだろう」
サイカは黙り込んで答えない。
「我が求める平和も、お主には酷く甘い妄想に見えていた。違うか? 我と話した後の大名が帰りしなに、我のことを馬鹿にしていると、いつも報告をくれていたな」
「……何度もご忠告いたしました。このままでは、利用され、侵略されかねないと」
「だからそれを聞かぬ我を追い出して、この島の守りを強固なものにしようとしたのか。……今となっては、その気持ちも分からないでもない。我はここを追い出されるとき、誰が首謀者かも知らなかった。だからこそ、波に揺られる間に幾度も後悔をした。もっとお主の言葉を聞いて、向き合っておくべきだったのではないかと」
エニシは目を伏せて言ってから、苦笑しながら顔を上げ、再びサイカのことを見る。
「まさか、お主本人が主導していたとは思いもよらなんだが。聞いた時には随分と驚いたし……、〈神龍島〉がまだ巫女によって保たれていることに少しばかりほっとした。その後すぐに、我に協力したものが命を落としたと聞いて酷く落ち込みもしたが……」
エニシは振り返って地下牢からついてきた巫女たちを見て、首を横に振る。
「それも、本当ではなかったようだが。……しかし、この島を出る時に犠牲者が出たことも、また事実か」
反乱の際にエニシに味方した者の幾人かは、エニシの目に見えるところで命を落としている。それを考えれば犠牲者が出たことには間違いなかった。
しかしそれを聞いたサイカは眉間に皺を寄せて首を横に振る。
「…………あれは、当然の報いです」
「……どういうことだ」
これまで大人しかったサイカが突然強い反論をしたことに、エニシは驚きながらも、少しばかり憤りを交えて問い返した。
今日も多分漫画更新です……!





