にょろにょろ
アルベルトが大剣をひらめかせる。
そうしてから、行儀悪く足で洞穴にはめ込まれた木枠を蹴り飛ばす。
すると見事に切断された木枠が、ずしんと奥側に向けて倒れた。
「おおー……」
ハルカが称賛の声を上げて拍手をすると、アルベルトは素直に「へへっ」と笑う。
先日のクダンとの一件から、色々と参考になるものもあったおかげか、どうやら剣の腕前がまた上達しているようである。
毎日の積み重ねがあった上での急成長なのだろうけれど、ハルカとしては本当に男子三日会わざればというやつだなと驚くばかりだ。
牢の中から閉じ込められていた巫女が出てくると、感動の再会もほどほどに、またすぐに階段を下っていくことになる。
そうしながら話を聞いていると、この地下牢はやはり最近できたもので、それまでは別の場所に閉じ込められていたのだそうだ。
「それは……苦労をかけたのう……」
エニシがほろりと涙をこぼすと、ミズホとホノカは顔を見合わせてから「どうでしょう……?」と返す。
彼女たちによればサイカは、閉じ込めた巫女たちが普通に生きていける程度には世話をしてくれていたのだそうだ。
もちろん、閉じ込められて自由がないことに関しては辛かったのだが、食事や水を断たれたり、痛い目に遭わせたりということはしてこなかった。
それどころか、自分の計画に賛同するように何度も何度も熱心に言い聞かせに来たのだとか。
一度はそれに乗って脱出しようという計画も立てたのだが、なぜかばれてしまい、それ以来閉じ込められた巫女たちも、頑なにサイカの勧誘を断り続けていたのだとか。
「……サイカは、何をしようとしておったのだ」
「……覚えておられますか、昔、サイカがエニシ様のやり方に対して『甘いのではないでしょうか』と不平を漏らしたことがあったのを」
エニシの質問に対して、ミズホが当時のことを語り出す。
サイカは真面目な巫女であり、当時エニシもそんなサイカの働き方自体は評価していた。だからこそ、自分の理想を語ったことがあったのだが、そんな風にぽつりと言い返されたことがあったのだ。
サイカはすぐにそれを撤回したが、それ以来、こそこそとした動きを取ることが多くなった。
言われて思い返してみれば、発端はそこにあったのだろうとエニシは思う。
「サイカは……、〈神龍島〉を独立した武装勢力にしようとしているのです」
「…………なるほど、そうであったか……。ならば確かに……、我は邪魔であったろうな……」
エニシはようやくサイカの行動の意味を知り、そして相いれない考えを持っていたということも理解した。
しかし同時に、サイカがなぜそう考えたのかも、なんとなく理解できてしまった。
その過程で一部の巫女の命が失われたことは許すべくもないが、それでも、私利私欲による意味のない反乱ではなかったと分かれば逆に辛くなる。
ハルカたちにはまだその話の本質的な部分は理解できていなかったが、そうこう話をしているうちに、階段の下までたどり着き、短い洞窟を抜けると、急に開けた洞に出ることになった。
そこはせり出した岩肌が広い祭壇のように整えられている。
「神龍いねぇじゃん」
アルベルトがそう言いながら、祭壇の端まで歩いていく。
そこから下を覗き込んでみても、ハルカが近くに光の玉を浮かせていても、真っ暗でよく見えない。
ただ、一本の太く長い石柱が、海の底からこの洞の天井まで伸びていることだけはわかった。
「普段の神龍様は、この石柱に巻き付いて眠っておられるのだ。お姿が見えないということは……」
エニシが喋っていると、水音がしてハルカたちの目の前に長い長い胴体を持った竜が浮かび上がってくる。
大陸で見た、いわゆるドラゴン型ではなく、蛇のような胴体に手足が生え、頭部には鬣と角が生えた、ハルカにとっては最も馴染みのある形をした龍であった。
そしてその長さはおそらく、ナギの全長をはるかに超える。
カメのような姿をしたグルドブルディンといい、ナマズのような姿をしたラーヴァセルヴといい、真竜の姿が一定でないことをまたも思い知らされた瞬間であった。
エニシと、気を失っているサイカを除く巫女たちが、その場で地面に平伏する。
『我が眠りを妨げたのはお主ら……、いや、お主だな……むっ』
ぎょろりとした目が動き、真っすぐにハルカの姿を捉え、それからぐっと顔を近寄せてきた。
『…………ゼスト様……ではない……な』
しばらくじっと観察したのちに、神龍は微妙な反応をしてみせる。
どうやらこの神龍もゼストと面識があるようだ。
「はい、お騒がせしてすみません。ゼスト様ではありません。……その確認のために呼ばれたという認識でよろしいでしょうか?」
『そうだ』
「では……用件はそれだけでしたか……?」
ハルカが当たり前のように会話をし始めたのを見て、巫女たちはぎょっとする。
彼女たちにとって神龍が喋っていることすらとんでもないことであるのに、当たり前のように交流を始めるハルカの気が知れない。
結局どこの誰かもよく分かっていないので、これからよからぬことが起きるのではないかと気が気ではなかった。
『いや……、神に近しい者よ。それではお主がなぜこの地に訪れたかを問う必要がある。この島は我の縄張り。荒らしに来たのであれば容赦はせぬ』
ハルカはその圧力を少しばかり恐ろしいと感じたが、それと同時に、この神龍もまた、やはり真竜なのだなとも感じていた。
言うことがよく似ている。
そして同時に、ヴァッツェゲラルドよりは面倒くさくなさそうな性格をしているし、開口一番『ゼスト様じゃないなら殺しておくか……?』と悩み始めた、ラーヴァセルヴよりは、穏やかな性格をしているなと思うのであった。





