言い訳材料
「なっ……、そっ…………!!」
あまりの蛮行に、後方でチヅルが目を白黒させながら言葉を失っていたが、タゴスたちは気にもせずにずんずんと先へと進んでいく。
そうしてエニシに隠し扉の開け方を聞いて、部屋の中をあれこれ弄くり回す。
いざ隠し扉がガコンと開くと、イーストンを除く男性陣は「おおー……」と感動の声を上げた。こういうギミックはどんな時でも男の心をくすぐるものであるらしい。
ちなみにハルカも内心で声を上げていたのは秘密である。
そのまま階段を降りて先へ進もうとすると、ようやく立ち直ったチヅルが声を上げる。
「エニシ様、これで良いのですか! あなたは仮にも……」
「チヅル」
エニシは振り返って老婆の名前を呼んで微笑む。
「お主は昔から我の提案にいつも難色を示していたな。しかし、我や巫女の心配をしてくれていたことも、〈奥宮〉をあるがままの形に保とうとしていたことも、我は分かっておった」
「〈神龍島〉には、〈奥宮〉には、数千年の歴史があるのです。巫女の身を心配するのは長老たる私の務めですから当然です」
「……だが、我が追い詰められた時には助けてくれなかった」
「それは……!」
チヅルならば〈千里眼〉で何が起こっていたか見えていたはずだ。
そしてチヅルは、きっとエニシが生きてこの島を脱出したことにも気が付いていたはずだ。
エニシが寂しそうに笑い、チヅルの言葉を遮る。
「よい。お主にも色々と思うことがあるのだろう。責めはしまい。……ミズホやホノカが生きていると聞いた。きっとお主の働きによるものなのであろう? ありがとう」
チヅルは何かを言いたげに視線を彷徨わせたが、考えた末に、おそらく言いたかったこととは違うことを口にする。
「…………神龍様に、ご無礼のないようお気をつけてください」
「それを言われるのは、巫女総代に就任した時以来だな。では、行ってくる」
エニシはチヅルのことを恨んでいない。
〈神龍島〉の巫女は、かつてエニシの家族のようなものだった。
右も左もわからぬエニシに、巫女として教育を施し、生き方を教えたのは先達の巫女たちだ。いわばチヅルはエニシにとっての、母や祖母のようなものである。
だが、同じ道を歩めぬのだろうことは分かっている。
だから、今の状況を説明もしないし、分かってもらうつもりもない。
エニシは振り返らずに階段を下りる。
暗い道をハルカが魔法で照らし、まっすぐに延びる長い階段を降りていく。
このまま一本道を進んでいけば、いずれ神龍の眠る洞へたどり着くようになっているのだ。
しかし、降りてほんのわずかで、先頭を歩いているアルベルトが不意に声を上げた。
「なぁ、どっち行くんだ?」
「どっち……?」
エニシが後ろから覗くと、踊り場のようになっている場所から横穴が延びているようだった。慌てて階段を降りてそこまで行って先を覗くと、奥がぼんやりと明るくなっている。
「これは、知らぬ……」
「誰かいるです」
「……見に行きましょうか」
モンタナの言葉に、ハルカが光の玉を通路に滑り込ませる。
角を一度曲がると、その先に太い木でできた格子が取り付けられて、地下牢のようになっていることが分かった。
ゆっくりと歩み寄るが、中からは人の声がしない。
ここからだと死角も多くて、中がどうなっているかよく分からないのだ。
「あの、誰かいますか?」
ハルカが声をかけると、ややあってからこちらからは陰になっている部分から「誰」と返事があった。
そこで我慢できなくなったエニシが、格子を掴んで声を上げる。
「ここにミズホかホノカはおらぬか? エニシが参ったぞ、助けに来たのだ!」
牢の中が少しざわついて、それからよろりと一人の女性が姿を現す。
「ミズホ!」
「エニシ様……、本当にエニシ様じゃないですか! 髪はどうされたのです、この方々は…………。……サイカ!」
エニシの姿を見つけて近寄ってきたミズホであったが、気絶して縄で縛られて運ばれているサイカを見て、というより、サイカを持っている人相の悪い大男を見て、ミズホは後ずさる。
「そ、その方々は……?」
「大陸で知り合った仲間たちだ。皆の救出に手を貸してくれているのだ」
「そ、その、救出というのは、ど、どのような……?」
そこでエニシははっと、何か誤解を受けていることに気が付き、何と説明すればいいのかと言いよどむ。
別に暴力を振るって乗り込んできたわけではないのだが、絵面がひどすぎた。
「あー、あなたたちもさっきの声聞いたでしょ?」
そこで前に出たのはよく口の回るコリンだ。
「え、ええ。だから、もしかすると何かが来るのではないかと、様子を見ていたの」
状況からして、彼女たちも先ほどの声を聴いていると判断して声をかけてみれば、どんぴしゃだった。
コリンはそれを利用して、とにかくこの場を速やかに収めることにした。
何せ下では神龍が首を長くして待っている可能性があるのだ。
「『その者を通せ』って言ってたでしょ、それがこのハルカ」
「え、あ、はい」
急に話を振られて、ハルカはとりあえず同意する。
『その者』が指すのが、おそらく自分であるのだろうという自覚もあるので、嘘ではない。
「助けに来たのがばれちゃったのかもしれないけどさ。とにかくそんなわけでこれから神龍様の所に行くの。悪さをしに来たわけじゃない、って言い訳もしたいから、ミズホさんたちも一緒に来てくれない?」
「ええと……、わかりました……?」
ミズホは素早く牢の中にいる他の巫女たちの様子を確認してから、理解に乏しいながらもコリンの誘いに同意するのであった。





