タゴスの冴えたやり方
神龍のもとへたどり着くためには、サイカと話した部屋を通らなければならない。
もはや真面目に考えて立ててきた作戦など、すっかり意味がなくなってしまった。
真正面から乗り込んで何とかするしかない。
ハルカたちが先へ進んで障子を開けると、薙刀を持っている巫女たちも困った顔をしてついてくる。この部屋を守らなければならないという役割を与えられているが、それはあくまで巫女総代であるサイカからの指示だ。
先ほど聞こえてきた声が神龍のものだとするならば、巫女としてはそちらに従わなければならない。
一応戦うことのできないエニシはできるだけ真ん中に置いて、後方はリョーガとタゴスが牽制するような布陣だ。
暗い大広間に入ったハルカは、前に来た時も見通せないことが気になっていたため、即座に光の魔法を各所に発動させる。
照らされた大広間は、そこで運動ができるほどに広い畳敷きの部屋であった。
欄間には年季の入った木彫りがされており、普段見えていないのがもったいないと思うほどである。
サイカがいるはずの御簾のかかった小部屋には、今は数人の巫女が入っているようで、何やらバタバタと慌ただしく動き回っている。
何やら妙な雰囲気だが、アルベルトとレジーナはお構いなしでずんずんと先に進んでいく。
「なぁ、神龍がいる所に行くには、あそこの先の階段降りるんだろ?」
アルベルトが御簾の方を指さして確認を取ると、エニシがこくりと頷く。
今更存在がばれたところでどうということはないのだが、今はまだ、声を出すべきかどうか迷っているのだろう。
「よし、んじゃあ……」
確認を終えたアルベルトがそこを目指そうとすると、いつの間にかレジーナがさっさと先へ進んでいた。そうして御簾へ手をかけて、上にまとめたりはせず、思いきり下に引っ張って引きちぎった。
ハルカはその破壊行為に思わずひゅっと息をのんだが、レジーナは御簾の使い方など知らないものだから仕方がない。
『邪魔だ』、からのノータイムでの引きちぎり実行である。
「サイカ様、サイカ様……! ひっ」
そこではサイカの他に巫女の姿が三つあった。
一人は倒れているサイカを介抱しており、残りの二人はおろおろと歩き回っているだけだ。
「どけ」
そしてレジーナはもちろんそんな状態はお構いなしに、サイカをこの場所から退けるように要求した。レジーナからすれば、知らん奴が白目をむいてぶっ倒れて息も絶え絶えになっていようが、知ったことじゃない。
「これはいったい……」
急いで駆け寄ったハルカたちに対して、世話をしていた巫女たちはサイカの体を守るようにして前に出ていく。
「な、何事ですか。ぶ、ぶ、無礼ですよ……!」
とんでもない裏切り者とばかり思っていたサイカであったが、どうやら巫女たちの一部からは体を張って守ろうと思うほどには支持されているらしい。
「通しなさい、まだ話があるのです……!」
遥か後方から、息を切らしながらチヅルが追いかけてきて、サイカの姿を見ると表情をゆがめた。
「やはりこんなことに……! 声を聴いて神龍様のご様子を窺う際に見えたのです……。いったい何をしたらこんなことになるのですか!」
サイカの前で震えている巫女たちにチヅルが問いただす。
「わ、わからないのです……。お力をお使いになるので、周囲を見張っているように申し付けられて控えていたところ、突然うめき声を上げてこのようなことに……!」
「あっ……!」
それを聞いたエニシは思わず声を上げる。
白目をむいてぶっ倒れている状態に、エニシは覚えがあったのだ。
「まさかサイカ……、ハルカに能力を使ったのではないか……!?」
そう、エニシは一度、ハルカの未来を無理やりに見ようとしてぶっ倒れたことがある。サイカの今の症状は、その時の状態にそっくりであった。
今にもとまってしまいそうなほど、呼吸は浅く、目や耳、それに鼻からも血が流れ出している。
本来であれば美しい容姿をしていそうなのに、完全に台無しだ。
「ふーん、先に行こうぜ」
だがそれはそれ。
レジーナ同様アルベルトには関係のない話だ。
さっさと先に進むように仲間たちに促すが、ハルカは口に手を当てて止まってしまった。
別にサイカを哀れに思って助けなければと考えたわけではない。
いや、ほんの少しもないとは言い切れないが。
それよりもハルカが懸念したのは、巫女総代が傷ついて死にかけている、という状態である。
「治した方が、いいですかね。このまま放って進むと、神龍様に誤解をされるかもしれません」
「…………僕たちが巫女総代を殺して乗り込んできた、って?」
「あー……、ありえるかもー……」
イーストンがハルカの言いたいことを察して翻訳すると、コリンもそれに同意する。しかし、元気になってあれこれされても、とハルカが悩んでいると、タゴスが腰に付けていた縄を取り出して、普通に巫女たちを押しのけて白目をむいて死にかけているサイカを縛り上げた。
「な、何を、何をしているのですか!」
思わずチヅルが悲鳴のような声を上げると、タゴスは「うるせぇなぁ」と言い返す。そう、この男もすっかり大人しくなっているが、元々は一人で冒険者を続けてきた、生粋の荒くれ者なのである。
高貴そうな老婆が何を文句言おうが、『うるせぇ』の一言で済ませてしまう。
「これで治してくれりゃ、俺が担いでくぜ。こいつ人質にしときゃあ、他の奴も余計なことしないだろ」
「お、頭いいな」
「だろ」
アルベルトが称賛すると、タゴスは鼻の下を指で擦って照れてみせた。
今のところ乗り込んできたハルカ一行は、巫女たちから見れば完全なる蛮族である。
ハルカは本当にこんなやり方で良いのだろうか、と葛藤しながらも、より良い方法が思いつかず、速やかにサイカに治癒魔法をかける。
〈奥宮〉で最も偉く、エニシの因縁の仇であるはずのサイカは、相変わらず白目をむいたまま、山賊のようにも見える男、タゴスによって肩に担がれて神龍と対面することになりそうである。





