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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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鬼灯磊三

 この〈神龍島〉には、巫女の他に、巫女についてやって来た世話係のような女性がそれなりの数暮らしている。彼女たちは主にこの下の街で、外から来る者たちを迎え入れるために働いているのだ。

 これまでこの下町には幾度も各国の密偵が忍ばされてきたが、すぐに見つかり本国へと送り返されている。巫女はそれぞれ特殊な能力を持っている者ばかりであるから、彼女たちの目を誤魔化すのは酷く難しいことなのだ。

 今も時折密偵は送られてくるそうだが、駄目で元々、ほとんどの者は送り返されるか、そのまま巫女たちに利用されるようになっている。


 そんな理由もあって、〈神龍島〉に住まう女性たちの巫女への忠誠度は非常に高い。裏切ることはまずないし、積極的に客人同士の争いに介入することもない。

 ただそんな様子を見かければ、粛々と巫女の方へ報告を上げるだけだ。


 だからハルカたちが、リョーガの案内に従って街から離れていったところで、その後ろ姿を目で追いかけることはあっても、ついてきたり声をかけてきたりはしない。

 そんな者がいるとすれば、〈神龍島〉の住人ではなく、よそからやって来た客人である。


 一応背後の警戒をしつつも、ハルカたちは島の中心部の御殿を眺め、その作りを覚えながら散歩を続ける。何か咎められることがあっても、『見学してました』ですむ程度の距離感は常に保ちつつである。


「山に同じ種類の木がたくさん植わっているのが見えるでござるか?」


 リョーガが山の方を指さして言う。

 今はまだ寒い時期で寂しい景色であるが、確かにたくさんの木が植わっているのは見て取れた。


「そうですね、結構立派なものも多いようで……」

「あれは春になると、満開の花を咲かすのでござるよ」

「……血を吸うやつです?」


 いつだかカオルにされた説明を思い出したモンタナが確認をする。

 カオルによれば、【神龍国朧】には『お花見』の文化があるのだ。

 花見合戦で殺し合いも起こる程で、その木の近くで流れた血が多ければ多いほど、見事な赤色の花を咲かすらしい。

 完全にホラーである。


「よく知ってるでござるな。しかし〈神龍島〉のあれは、白にほんのり薄桃色が乗るくらいの、淡い色をした美しい花を咲かすでござるよ。平和でござるなぁ」

「ほんのり薄桃色が乗ってるってことはよ、誰か血を流してんじゃないのか……?」


 冷静に話を聞いていたタゴスが突っ込みを入れると、リョーガは一瞬黙り込んでからニカッと笑った。


「それは拙者のあずかり知らぬところでござる」

「……一本くらい拠点に持って帰って、真っ白な花を咲かせてみたいものですね」

「うーむ、風土的に合うかわからんでござるなぁ。なにせ【朧】は大陸と違って、雨が多いでござるからして……」


 そんな雑談をしていると、早足でハルカたちに近付いてくる集団があった。

 皆すぐにそのことに気が付いたが、振り返ってみたりはせずに、足を止めずに意識だけをそちらに向ける。

 相手方も接近を隠す気がないようで、早足でざっざっ、と地面を蹴っているから、気配を察するのがうまくないハルカでも距離感はまるわかりだ。

 こっそりと襲ってくるのでない分、話の分かりそうな相手だ。


「お主ら、見かけぬ見た目であるが、いったいどこへ行こうというのだ?」


 少し離れた場所から声をかけられて、ハルカたちはようやくそれで気付いたかのように振り返って相手を見る。

 まともな格好をして、胸の辺りに家を示す紋まで入っている侍の集団であった。


「サイオン家でござるな、西の園、とかいて西園家でござる。拙者の知っている限りは、西の島を二つに分けて争っている、千年ほど続く名家でござる。……拙者の家とは相性が悪い故、後ろの方に隠れているでござる」


 ぼそぼそっとリョーガがハルカに情報を吹き込んだ。

 一応相手をするのはハルカということになっているので、前に出て応対をする。


「島の見学を。初めてやって来たので、物珍しく思いまして」

「そうであろうな。しかし無闇に島をうろつくものではない。この島には神龍様と巫女様たちがお住まいなのだ。まったく……、〈神龍島〉は大陸の者をあまり招かぬはずなのだが、どこの国の者だ?」


 そう責められると名乗りづらくなるが、こういう場合は名前を使ってもいいと言われている。


「大陸出身で、今は〈北禅国〉のお世話になっております。御忠告ありがとうございます。店も見かけなくなってしまいましたし、しばらく歩いたら戻ろうかと」

「〈北禅国〉のう……。よそ者に乗っ取られたという情けない噂を聞いておるが、かように面妖な輩を連れて来るとは……。今すぐ戻られよ」

「今すぐですか?」

「さよう。神龍様のお膝元で怪しい動きをするものを放っておくわけにもいくまい」


 絶対に喧嘩を避けるべき、というわけではないが、だからと言って積極的に争いたいわけでもない。外から御殿を見ていても、結局今一つ作りは分からないし、得られた情報もそれほどない。

 ならば黙って言うことを聞いておくかと、ハルカが返答しようとしたところで、さらにもう数人、追加の侍が姿を現した。


「待たれい! 珍しい集団がいるから何かと思い追いかけてみれば、こりゃあ西園家のお歴々じゃあないか。おたくらってのはいつもそうだ。偉そうに踏ん反りがえって、従わぬ者には武力をちらつかせる。いやはや恥ずかしくないのかねぇ!」


 現れたのはたった三人の侍。

 そのうち大音量で口上を述べたのは、身の丈二メートルを超す大男。

 この寒いのに派手な着物を肩まで脱いでおり、剃ってからしばらく経ったらしい頭も顎も、薄く毛が生え始めて青くなっている。


「貴様は……、鬼灯磊三ほおずきらいぞう……! 何のつもりだ!」

「なんのつもりだって、いやいやそんな……」


 鬼灯磊三と呼ばれた男は、片手に持った長い棒で、トンと地面を叩いてにやりと笑った。


「てめぇらが気に食わねぇから、喧嘩売ってんに決まってんだろうが」


 ハルカたちはそろってじとりとリョーガの方を見る。

 鬼灯磊三。

 南西に位置する小さな島を治める〈御豪泊〉の主であり、【一身槍いっしんそう】と呼ばれる槍の名手であり、そして、リョーガ=トキの主君にあたる人物である。




PASH!10周年のクラファン始まったようです。

なんだかとんでもない値段の商品もあるのですが、へーこんなものがあるんかーってな具合で見ていただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
なんか知らんけどリョーガさんに向けて合掌しておこう
リョーガさん何とかしてよ主君でしょ。 なんて。いたたまれない顔してそうw
拠点の訓練場所にでも植えておけば真っ赤に咲きそう。
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