頑張りすぎた
「ハルカ殿、申し訳ござらん。一応止める努力だけしていただけないでござるか……? この通りでござる」
ハルカたちの注目を集めたリョーガは、表情をひきつらせながら手を合わせて頭を下げた。
「リョーガさんがやればいいんじゃない……?」
こそこそとコリンが言うと、リョーガは苦り切った表情で首を横に振る。
「拙者が出たら、ハルカ殿たちもライゾウ殿の仲間と認定されるでござる。サイオン家と〈御豪泊〉は不倶戴天の敵同士……! そうなれば収拾がつかんでござるよ。今ならまだサイオン家も、我らを〈北禅国〉の者と見ている。やりようによっては引く可能性もあるでござる……!」
「……やってみます」
はっきり言ってまったくもって関わりたくないけれど、リョーガには色々と世話になっているし、これからも世話になる予定だ。
「駄目だったら諦めてくださいね」
「無理なら諦めるでござるよ……」
「あのおっさんに味方して戦った方が早くね?」
アルベルトが面倒くさそうに言うと、リョーガが深くため息を吐く。
「流石にライゾウ殿の喧嘩の売り方が雑過ぎて、〈御豪泊〉が各国から非難されるでござる……!」
なんだかリョーガが哀れになってきたハルカは、仕方なく一歩前に出て注目を集める。睨み合いの最中に動いたら、そりゃあ皆気にするだろう。
ちなみにライゾウの両腕にはそれぞれついてきている侍がしがみついて「ライゾウ殿、喧嘩の売り方が雑すぎるでござる……!」とか、「いくら見栄っ張りの糞裏切り者相手とはいえ、建前というものが……!」とか言っている。
後者の発言はどう考えてもサイオン家を煽っているとしか思えない。
当然それもサイオン家の者に聞こえていて、全員が刀の柄に手をかけて顔を赤くして目元をひくつかせている。まさに一触即発状態だ。
なんでそんな集団の仲介をしなければならないのだろう、とハルカは天を仰いだが、小さく息を吐くと同時に小さくもろ手を挙げて降参のポーズをとる。
「私たちはこのまま栄えている街の方へ戻ります。サイオン家の皆様、ご忠告ありがとうございました。そしてホオズキ殿……、右も左もわからない私たちのことを庇ってくださり、ありがとうございます。ここは一つ私たちの顔に免じて引いていただけないでしょうか」
「……〈北禅国〉の者たちはこう言っておるが……、ここまで愚弄されて手を引くわけにもいくまい」
「そんなこと言われても、あんたらはただの喧嘩の理由だからなぁ……」
もう双方完全にやる気である。
こりゃあ駄目だと思いつつも、ハルカはさらに続けてみる。
「……この〈神龍島〉では殺し合いになってはまずいと伺っているのですが」
「安心しろよ、俺の武器はただの棒。なぁに、むこう三日は飯が食えないくらいに、優しく伸してやる程度だ」
ライゾウは持っている棒をくるくると器用に回し、とん、と地面を突く。
その先端には布が詰められており、確かに刃による殺傷能力はない。
それはそうとして、言葉の刃はサイオン家のプライドをずたずたにえぐったようであるが。
「殺せ……!」
一斉にサイオン家の侍が走り出し、ライゾウが悠々と棒を振り回して迎え撃つ。
ライゾウに付き添っている二人の侍も、仕方なく刀を抜いて迎え撃つ構えだ。
説得は失敗。
リョーガも周りの皆も諦めていたが、『駄目だったら諦めてください』と言った当の本人であるハルカは諦めていなかった。
一度引き受けたことは、できる限りちゃんとこなそうという、ハルカの真面目なところが出たようである。
両者がぶつかり合う前に、その中心に障壁を発動。
わざと不透明な真っ黒な色で作ったその壁を前に、サイオン家の侍たちはどよめきながら足を止める。
同じようにライゾウも鋭い目をしてハルカのことを睨みつけた。
「やめましょう。私たちのせいでけが人が出ることも、死人が出ることも、私は望みません。この場はこのまま解散ということでお願いできませんか」
じろりじろりと殺る気満々の視線が集まって、本当にもうさっさとこの場から立ち去りたいばかりのハルカであったが、見た目だけは凛としたまま両陣営へ交渉を投げかける。
随分とたくさんの鉄火場を経験し、偉い人たちと話す場が増えてきたおかげで、見た目だけは取り繕うのが上手になってきている。
「力尽くで止めると申すか……、その意気や好し」
まずサイオン家のまとめ役のような、眉間に皺だらけの侍がハルカを称賛した。
とても嫌な予感がしたハルカが、助けを求めてちらりと横にいるモンタナに視線をやると、モンタナは静かに首を横に振る。
どうやら対応に失敗したらしい、とハルカはそこで気が付いた。
「なかなか面白そうな奴じゃねぇか……!」
ライゾウがにやりと好戦的に笑ってハルカを見る。
これはいけない。
ハルカはこの表情を知っている。
アルベルトが『手合わせしようぜ』と吹っ掛けに行くときの目にそっくりであった。





