他の同行者
翌朝、一行は朝食をとって港へと向かうことになった。
ちなみにナギはここでお留守番だ。
流石に連れていくとなると、許可だとかなんだとかで大ごとになりかねない。
場合によっては、ナギの接近を感知した神龍が動き出した、なんてことになっては困ってしまう。
食べ物などに関しては、雑食なので何でも大丈夫ですと〈北禅国〉側には伝えてあるのだが、基本的には自分で狩りをすることになるだろう。
島にある森から動物を狩ってきてもいいと、一応行成からは許可を得ている。
ナギにも、退屈ならふらふらとお空を飛んでてもいいよと伝えてあるし、よっぽどのことがなければ問題は起こらないだろう。
ナギのサイズともなると、どうにかできる生き物など世界中を探してもそうはいないはずだ。
別れ際にハルカが、「何か困ったことがあったら、私のところか、ヴァッツェゲラルドさんのところに行くんですよ」と伝えると、ナギは曖昧に小さく返事をした。
ヴァッツェゲラルドの下へ行くというのが、気が進まなかったような反応だ。
ハルカは思わず苦笑してしまった。
ハルカにとってはナギも大事な家族なので、いざとなったら計画がぐちゃぐちゃになろうと、〈神龍島〉まで来てもらって構わないのだが。
鼻の頭を軽くポンポンと撫でてやってから、ハルカはその場に行成がやってくるのを待つ。
本来なら港まで送ってもらってもいいのだが、港にはナギが何も壊さずに降りられるような場所がない。
だからここからは障壁に乗って港へ向かう手筈になっている。
「ナギ、なんか海のでかい生き物とか捕まえてみたらどうだ?」
「船に間違えて攻撃されたら困るから、あんまり低いところ飛ばない方がいいんじゃないかなー」
ハルカの話が終わると、今度はアルベルトとコリンがナギに話しかけている。
時折どっちが大きな魔物を取ってこられるか勝負していたりするようで、二人は仲良しである。
ナギは仲間たちのほとんどみんなに甘えるような仕草を見せるのだが、アルベルトに関しては友達くらいに思っている節があって、ぎゃおぎゃおと抗議をすることがあるのが面白い。
先ほどの提案に関しても、あまり気乗りしていないようで、言い返していたところをコリンに庇ってもらったような形だ。顔をコリンの後ろにやって、横目でアルベルトのことを見ている。
さて、そんなやり取りをしているうちに、行成が兵士を引き連れてやって来た。
いわゆる精鋭たちに加え、今回は茂木老人も同行することになっている。
留守は大門が一手に引き受ける形だ。
「あ、その人たち……」
ナギの頭を撫でていたコリンが、兵士たちの中に混ざっているある人物を見つけて声を上げる。それは、ハルカも見覚えのある人物であった。
マグナスの護衛としてこの島までやって来た、浅黒い肌の女性と、筋骨隆々の男性の二人組である。
「彼らは大陸の遥か南の国からの逃亡者であるそうです。マグナスに庇われた恩義で手を貸していたそうです」
「それがどうして……」
一応彼らは行成からすれば憎き敵の一味であったはずだ。
当たり前のように兵士に混じっているので、ハルカは思わず尋ねてしまう。
「もしハルカ殿が控えるべきだと考えるのであれば……」
「あっ、いえ、そうではなく。どうして信用するに至ったのかなと」
ハルカが慌てて誤解を正すと、行成は苦笑した。
「彼らがあまりに投げやりで、もはや命などどうでもいいという態度をとるものですから……、腹が立って色々と聞いてしまったのです。……そうしているうちに、彼らの故郷の話を聞き、そうですね……、同情してしまったのです。私も、ハルカ殿に出会うことができなければ死んでいたかもしれませんし、もし生きていたとしても、とてもこの国に戻ることはできなかったでしょうから」
「……それに加え、こ奴らが凄腕であることは確かです。都落ちをしてきたマグナスに、最後まで忠誠を誓っていたことを見ても、逆に信頼できる性質を持っていることを示していると考えたのです」
行成の理由に、茂木がさらに言葉を付け足す。
「なるほど……」
基本的には行成の方の護衛になるはずだから、別行動しているハルカたちがとやかく言う話ではない。
行成が信用しているのならばそれでいいのだろうと、ハルカは納得して頷いた。
「……心配しなくても、私たちだってあんたとは二度と敵対したくない。頭を凍りつかされるのはもうごめんだから」
「あ、ああ……、あの時の話ですね」
〈北禅国〉で出会ったとき、ハルカはこの二人と戦っていない。
だがさらにさかのぼってみると、昔マグナスの居城に乗り込んだ時に、ハルカはこの二人とやり合っているのだ。
どちらとも戦闘に発展して、そしてどちらも同時に頭部を水球で覆い、そのまま凍り付かせて窒息させている。
「何々、何の話?」
あの時の一連の行動は、ちょっとやりすぎたかなと思っている節もあって、ハルカはあまり詳しく仲間たちに話していない。
しかし、コリンのこの興味津々な様子だと、この後話さざるを得なくなるだろう。
「ええと……、またあとで話しますので。それじゃあ、とりあえず出発しましょうか」
ハルカは皆を障壁の上に乗せて、〈北禅国〉の空に浮かび上がる。
港へ向かって飛び始めると、すぐに追いかけてきたナギが横に並んだ。
着陸はできないけれど、お見送りはしようという魂胆らしい。
ハルカたちがナギに手を振ってやると、ナギも楽しそうに声を上げて答える。
今回の目的は決して楽しいものではない。
それでも出立の時くらいは元気に楽しくやるくらいの方が、景気が良くていいというものである。





