海を滑る船
港に到着して着陸すると、ナギは空をぐるりぐるりと大きく旋回しながら待機を始める。船が出るまではそうして見守っているつもりなのだろう。
乗り込む予定の船へ向かうと、その目の前で腕を組んだ巨漢がじっと船を見上げていた。
「オオロウさん、お久しぶりです」
「来たか」
ハルカが挨拶をすると、オオロウはのしりのしりと足を踏みかえてハルカに向き合う。普通の人が相対すれば恐ろしいほどの上背であるのだが、巨人たちとも向き合ったことのあるハルカは慣れたものだ。
そもそもハルカは最近、普通に会話できる相手ならば、それほど恐ろしいと思わなくなっていた。
「一緒に〈神龍島〉まで来てくださるのですか?」
「他にすることもない」
もともと住んでいた島に戻らず港に残っている辺り、まだ仲間の鬼たちとの折り合いはついていないのだろう。向こうがどう思っていようと、オオロウの方が拒んでいるような節もある。
「ええと……、よろしくお願いします」
仲間たちのことは本人が決めるべきことだ。
共に旅をすることで、オオロウの中の罪悪感のようなものが拭えたり、何か変化のきっかけになるのならばそれも良いことだろうとハルカは思う。
だから余計なことは言わず、改めてオオロウに頭を下げて話を切り上げた。
船に全員が乗り込んだところで、ハルカは空を飛んで外へ出た。
少し離れて全体を眺め、それから底面に差し込むように障壁を生み出して、そこから船を囲っていく。
当初はハルカが船をけん引していくという案が出ていたが、それでは船旅の間ずっと一人だけ船の外にいなければならない。流石に何というべきか、寂しいような悲しいような気分になるなとハルカが頭をひねって考えた結果のやり方である。
船が海面を滑るようにして動き出す。
かなりの速度で海を突き進んでいるため、帆はたたんだままである。
実際は障壁が動いているだけなのだが、外から見たら不思議な動力を使って動いている船だろう。
他の船とすれ違う可能性がないわけではないが、それに関しては見られても問題がないらしい。むしろハルカが引っ張るのでないのならば、他国への牽制になるから積極的に見せていきたい、というのが行成の判断であった。
どうせ航路の途中で見つけたところで、それらの情報が〈神龍島〉まで届くのは事が全て済んだ後だ。
ハルカたちが〈神龍島〉で行動を起こすまでに悪目立ちしなければ、それでいいのである。
はたして、航海は順調に進んだ。
船酔いするものもなく、各国の間をすり抜けて〈神龍島〉へと向かっていく。
大海原を抜けるとまるで大河のようにも見える、島と島の境にある長い海峡に入る。その海峡の半分ほどまでを、ハルカの推進力によって進んだところで、そこから先は潮の流れに乗ることになった。
時間で言えばおよそ五日ほど短縮できた形になる。
本来順調にいって一週間はかかる行程を、半分以下に短縮したような形だ。
普通であれば他国の船に嫌がらせのように取り調べを受けることもあるのだが、今回の船は速度があまりに速かったために、それらすべてをぶっちぎっての航行だ。
あとで文句を言われたとしても、行成は知らぬ存ぜぬで通すつもりでいた。
きっと他国は〈北禅国〉が謎の技術を手に入れたと、気味悪く思うことであろう。
それから二日ほどかけて通常の航行を続け、ようやく〈神龍島〉が見えてきた。
中心部に向かってなだらかに高くなっていくような作りの島で、その丘に沿うようにして、朱塗りの建物があちこちに建てられていた。
まるで島全体が巨大な神社のようだと、ハルカはその威容に圧倒されていた。
【神龍国朧】は、数千年の間殺し合いを続けているとんでもない国だ。
しかしそれは同時に、裏を返せば数千年の時を積み重ねてきた大国であることを意味していた。
髪を染め、頭に布を被り、そこから垂らされた薄い絹のような布で顔を覆ったエニシが、船のへりに張り付いて、じっと〈神龍島〉を見つめている。
まるで占い師のような恰好をしたエニシに、後ろからやって来たコリンが話しかける。
「あの赤っぽい建物が、エニシさんの住んでたところ?」
「うむ、そうだ。外から見ると、なんとも美しいものだ」
エニシは小さなころからずっと〈神龍島〉に閉じ込められるようにして生きてきた。
そして離れる時は命からがら逃げだすような形であった。
こうして遠くからゆっくりと神龍島を眺める機会もなかったのだろう。
しみじみと呟くさまは、感傷に浸っているようでもあった。
「んー、そうだね。すっごいお金かかってそう」
「コリンはそればっかりだ」
コリンが冗談めかして言うと、エニシはそれに乗って笑った。
少しばかり沈んだ気持ちを引き上げてやろう、というコリンの優しさを察しての笑いであった。
港が見えてくると、朱塗りの建物の裾に、外から来た者たちを歓待するための港町が用意されているのが見えてきた。
たくさんの大きな船が停泊しており、それぞれの国の旗がなびいている。
〈北禅国〉の船乗りたちは、迷うことなく空いている場所にゆっくりと船を進めていく。
「各国が船を停めるべき場所が用意されています。到着したら、逗留するための宿探しから始めましょう。急に決まったことですので、伝手のある場所を当たることになります」
「分かりました。船で待っていた方がいいですか?」
「そうですね……、本来ならその方が良いのですが……」
行成は顎に指を添えて考えてから首を横に振る。
「今回の目的を考えれば、島の形やどこに何があるのか把握されたいでしょう? 日が沈む前までに、船の前に集まることにしましょう。何か問題が起これば〈北禅国〉の者だと名乗って構いませんので」
「分かりました、それではお言葉に甘えて」
揃って船のへりの方へ集まっていた仲間たちは、振り返ったハルカに向かって頷き、承知の意思を示すのであった。
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ハルカさんの正装姿のイラストも見られますので、それだけでもぜひ。





