〈北禅国〉の協力具合
ナギに乗って〈北禅国〉上空へたどり着く。
屋敷の上をぐるりぐるりと回ってみると、やがて兵士たちがわっと現れて、城の一部分に作られた大きな広場で松明を振り始めた。
まだまだ昼間なので見えにくいが、そこに降りろという合図なのは分かる。
ナギに頼んでゆっくりと着陸をすると、すぐに行成らが家臣を連れ立って迎えに出てきた。
「よくぞいらっしゃいました、ハルカ殿! いついらっしゃるのかと首を長くして待っておりました!」
好青年の行成が大歓迎で声を上げるのを聞くと、なんとなくハルカは犬の耳や尻尾を幻視してしまう。なんというか、本当にただただ二心なく歓迎してくれているのが一目でわかる程の喜びようであった。
一国の主がそれでいいのだろうかと思うのだが、家臣たちもそれで納得しているようで、誰も注意する者がいない。
ハルカはすーっと息を吸ってから、一応丁寧に頭を下げておく。
「突然の訪問ですのに、歓迎ありがとうございます」
「いえ、今こうしてこの城にいられるのも、全てハルカ殿のお陰ですから。我が家と思って遠慮なくいつでもお越しください」
本当に大歓迎である。
あれよあれよという間に大広間に通され、やれ飲み物だ食べ物だと、慌ただしく準備が始まる。
そんな中でもハルカが、「あの、大事なお話が」と言えば、行成に大門、それから茂木老人という、〈北禅国〉トップスリーだけを残して、即座に皆が部屋から立ち去った。
「あ、すみません、色々準備してくださっているのに……。あの、全然御膳運んだりはしていただいて構いませんので……。食事がてら聞いていただけると……」
「なにかございましたか……?」
「ええとですね、ちょっと〈神龍島〉の方へこっそり入島することはできないかなと考えておりまして……」
そんな感じで目的から始まった説明をすべて聞き終えて、行成は少しばかり難しい顔で考え込む。
「やはり、復興でお忙しいでしょうか?」
「実際乗り込んで回収したとして、その後に手を貸してくれた〈北禅国〉には迷惑もかかる……。やはり難しいか」
ハルカとエニシが交互に述べると、行成は「いえ、そんなことは一切お気になさらずに!」、と勢い込んでやや前のめりになった。
「ご心配をおかけして申し訳ございません。既に、先のことを考えて悩んでおりました。もし祝いの船として乗り込み、ぎりぎりまでこっそりと潜入するのであれば、急がねばならぬなと。安全に帰れるかも難しいところですから、精鋭を乗せていく必要があります。それに、今から出発となると、新年を祝う使節としてはやや遅くなってしまいます。できれば数日中には到着したいのですが、風によっては間に合うか……」
「悩むよりも今はまず、人を揃えるべきでしょう。儂は直ちに兵を厳選いたします、しからばこれにて。明日の朝一番で出立できるよう準備してみせましょう」
そういうと茂木はすぐに立ち上がり、そのまま部屋から出て行ってしまう。
あまりにもフットワークが軽い。
「行成様、ハルカ殿。航海日数に関しまして、この大門に良案がございます」
「申してみよ」
「何でしょうか……?」
「行成様、お忘れでしょうか。初めてハルカ殿とお会いした日のことを」
行成とハルカは、二人同時に天井を睨み当時のことを思い出そうとする。
思い出すも何も、行成の方は意識も朦朧としていたのでろくに覚えていないのだが。
「そう、ハルカ殿であれば、大型船であっても、空を飛んで押したり引いたりできるのです。あれが継続して可能ならば、大幅に航海日程を短縮することが可能です!」
「あ、そう言われればそうですね」
言われてみればその通りである。
風が駄目ならば、動力源をハルカにすればいいだけだ。
いっそ帆など張らない方が早い可能性すらある。
「流石に島が近くなれば控えなければなりませんが……、いかがでしょうか、ハルカ殿!」
「い、いや、しかし、ハルカ殿にそれはあまりに……」
「わかりました、それでいきましょう」
行成が恩人にそんな力仕事をという当たり前の言葉を口にしようとしていたが、ハルカはあっさりと了承した。ハルカからすればやらない理由の方がない。
「そもそも……、〈北禅国〉は此度の新年の祝いに参加するつもりはなかったでござるか? すでに使節を送っているとなると面倒でござるが」
「それは問題ございません。本年は控えるつもりで書状を送っておりました。とはいえ、その書状にも、状況が落ち着けばご挨拶に伺わせていただくと記しております。向かうこと自体には特に問題はないでしょう」
リョーガの質問に、きりっとした表情に戻った行成が答える。
「ふむ、祝いの品の方はどうでござるか?」
「それに関しては……、ハルカ殿には申し訳ないのですが、ハルカ殿のために用意してある最高級品をいくらか回させていただこうかと」
「……あの、量とかは大丈夫ですか?」
〈神龍島〉への奉納品となると、それなりの量になりそうだが、自分たち向けに用意したものくらいで足りるのか心配になって尋ねるハルカ。
「普段〈神龍島〉へ奉納している分の五倍は用意してありますので、ご心配なさらずに。その中から特に厳選してお持ち帰りいただこうと、日々厳しい審査を繰り返しております!」
「あ、そうでしたか……、ありがとうございます。……あの、お土産とか、そんなに気にしないでも大丈夫ですからね……?」
そこまでやられると逆に訪問するのが申し訳ない気持ちになってきて、頻度が下がりそうである。
「ハルカ殿はお気になさらずに! 好きでやっていることですから!」
「あ、はい……」
そうはっきりと宣言されてしまうと、ハルカはただ、自分たちへの土産の出費のために、国が傾かないことを祈ることしかできなかった。





