すぐに出発
翌日にはすっかり準備を終えたハルカは、そのままナギに乗って旅に出発することになった。
同行するのは今の【竜の庭】のフル戦力だ。
ハルカ、アルベルト、モンタナ、コリンの初期組。
それにレジーナとイーストン、更に今回は珍しくタゴスまでついてきている。
【神龍国朧】と言えば戦の国だ。
どんなにコッソリと乗り込もうとしたって、どこかで争いになるのは目に見えている。それだったら最初からそうなった時の想定をして臨むべきだということで、タゴスにも事情を説明してついてきてもらったのだ。
それにエニシと、エニシを抱えているカーミラ。
こちらには流石に留守番を頼むつもりであったが、忍び込んだり誤魔化したりするのであれば力になれるかも、と珍しく自分から同行を決めてくれたカーミラである。
エニシとは仲良く二人でマスコットをしていることが多いので、放っておけなかったのだろう。
今回は流石にユーリはお留守番。
一緒に行くとも言い出さなかったのは、危険な場所で、エニシの大事な用事であると分かっているからだ。
さらにもう一人乗っているのはノーレンだ。
こちらは同行するのではなく、〈ドラゴンポート〉に寄り道をして、リョーガと護衛の入れ替えをしてもらうつもりである。
平時でさえ低い腰を更に低くして、ハルカがノーレンにお願いをしたのだ。
あまりに前置き長く頼んだせいで、ノーレンの方がどんな難事を頼まれるのかと緊張していたようだが、内容が村の護衛だと知ってほっとしたようであった。
そんなわけで、拠点をクダン、村をノーレンに任せて【神龍国朧】へ殴り込みである。
軽く事情を説明すれば、リョーガは大きく頷き同行を承諾してくれた。
ノーレンはノーレンで、明るい性格をしているのですぐに村に馴染むことができるだろう。
時間も惜しいということで、すぐに出発。
いよいよ乗り込むメンバーが揃ったところで、エニシが真面目な顔をして立ち上がり、ハルカたちに頭を下げた。
ずっと何か言いたげにしていたので、その動きをハルカたちは邪魔しない。
「もとはと言えば勝手に協力を求めた我のために、皆が手を貸してくれること、本当に感謝することしかできぬ。本来ならば〈神龍島〉を取り戻して、【神龍国朧】に平和を、と考えておったが、クダン殿の喝で気付くことができた。我はまず、我を助けてくれた者たちの無事を信じて、すぐにでも助けに向かうべきであった。迷ってばかりで力もない我には、何を返したらいいのか分からぬが……」
エニシが長々と話をしていると、アルベルトが「今更だろ」と口を挟み、言葉を遮った。そこにエニシを叱るような様子も、馬鹿にするような節もない。
「そうそう、今更そんなに言わなくても大丈夫。できるだけたくさん助けて、またしっかり計画練り直して、で、改めてまた【神龍国朧】が平和になるように頑張ろう! 今回は、第一回【神龍国朧】遠征ってことで」
コリンが引き継いで、アルベルトの少ない言葉の補足をしたところで、ハルカが微妙なニュアンスに首を捻る。
「それだとなんか……、私たちが【神龍国朧】を統一したがっているみたいに聞こえませんか……?」
「大丈夫大丈夫。向こうに言わなければ角も立たないから」
コリンはエニシの重たい雰囲気を努めて明るくしようとしているのだろう。
笑いながらハルカの言葉を否定する。
「もう何度も、頼まれたですよ。任せるです」
さらに言葉を重ねようと迷っていたエニシに、モンタナが先回りして声をかける。
「……頼む」
先回りして言われてしまったが、エニシが改めて頭を下げると、皆がそれぞれの言葉で返事を返す。レジーナなどは腕を組んだままチラリと一瞥しただけであったが、それはそれで彼女らしかった。
「さて、計画はどうなっているでござるか?」
話が落ち着いたところで切り出したのはリョーガであった。
軽く事情を説明したと言っても、リョーガが聞いたのは、今から【神龍国朧】へ乗り込むということだけである。
よくもまあそれだけでしっかり決意してくれたものだ。
「基本的には〈北禅国〉で情報を得てから作戦を立てるつもりです。エニシさんによれば……、今は新年を祝う使節が各国から送られる時期なのですよね?」
「うむ……、これまで通りであれば」
ハルカが説明をすると、エニシが大きく頷く。
「できれば、それに乗じて島に乗り込みます。そもそも他国からの使者が多い時期だから、その中に紛れていても特別目立つことはないでしょう」
まずは内部に入り込むことこそが肝要で、そこからはエニシの判断や案内に従いつつ、臨機応変に動いていくつもりである。
つまり強く当たってあとは流れで何とやらというやつで、言い換えるならば作戦などない、ということだ。
「第一の目標は、エニシさんを信じて逃がしてくれた人たちを探して救出することです。まず生存の確認をしないといけないのですが、それに関しては一人、エニシさんに有用な人物の心当たりがあるそうです」
「そうなのだ。年老いた巫女なのであるが、長く〈神龍島〉に住んでおってな。我のことも厳しく指導した長老的な存在で、自分からの半径数十メートルを、壁など関係なく透かしてみることができる能力を持っておる。さぼるとすぐに見つかってこっぴどく怒られたものだ」
「その長老さんはエニシさんの味方なのかしら?」
カーミラが首をかしげて尋ねる。
そもそもエニシを手助けして逃がした派閥であれば、こちらもまた捕まっている可能性はある。
「正直、分からぬのだ。長老は誰の味方もしていないように思う。だが、頼み込んででも、脅してでも協力してもらう。我を助けてくれた人たちを救うためには、必要なことなのだ」
「まずは生きていることを祈るべきでござるな」
「……うむ、そうだな」
エニシが島を出てすでに数年。
状況は大きく変わっていることだろう。
そういう意味でも、島の様子を見ずに計画を立てるのは難しいことだ。
一行は、ああだこうだと相談しながら、空の旅を続けていく。





