特級冒険者という人たち
「つーか、俺の話どうでもいいだろ」
クダンは絶対にこれ以上話さないと心に決めて、ひときわ険しい表情をしてみせたことで、昔話会は一時お開きになる。
そもそも今はエニシが真面目に話していたのだ。
本人の興味もあって、つい話がそれてしまった。
「なんだかよくわかんねぇけど、直接神龍に聞いて、【神龍国朧】の全土に言ってもらえばいいだろ」
「言う、というのは?」
話が飛んだせいで、誰もがよく理解できず、代表してエニシが尋ねる。
「だから、『もう時間切れだから、今更全国統一しても無駄だし、戦争やめろ』って言わせろよ。そんで、お前が助けたい巫女たちだけ引き連れて帰ってくりゃいいだろ。ハルカならできるんじゃねぇのか? でかい飛竜もいるし」
できるかできないかで言えば、できそうな範疇の話ではある。
ただ、先ほどのクダンの話と矛盾しているような気もして、ハルカは一応確認をする。
「…………それは、ええと、やってもクダンさんに怒られませんか?」
「なんで俺が怒るんだよ。お前がやりたいなら勝手にやりゃいいし、誰にも迷惑かけてねぇだろ」
「その、結構国政に関わっちゃってると思うんですけど……」
「いや、だから、国を使ってすげぇ悪さとかしてると、結局色々問題が起こって、戦争になって、強い奴ら同士の殺し合いになるだろ。そうすると人がたくさん死ぬだろ? わかるか?」
クダンも説明が得意なわけじゃないのだろう。
一応理解させるためにかみ砕いて説明してくれているようだが、とても分かり難い。
ハルカは真面目な顔で聞いて、真面目に返事をする。
「はい。特級冒険者みたいな強い人、特に魔法とか使う人が本気で戦うと大変なことになるって話ですよね」
「それだ。だから、個人の判断で問題にならないかよく考えてやれよ、って話。ユエルに権力者とかをばかすか殺すなって言ってるのは、こいつが何も考えないで気に食わないと殺すから」
「失礼ね。ちゃんと悪いか悪くないか考えてるわ」
「表面上だけな!」
ユエルの放った魔法をクダンが当たり前のように躱しながら答える。
「クダンさんってなんで治安維持みたいなことしてるんですかー?」
「あ? 頼まれたからだよ」
「誰にですか?」
「知り合い」
ハルカが尋ねると面倒くさそうにクダンが答える。
隠すから余計に気になったのか、モンタナまでもが、じっとクダンの目を見て更に尋ねる。
「知り合いって誰です?」
「お前らしつけぇな……」
クダンがため息をついているところで、ユエルがハルカの方を見て尋ねる。
「気になるの?」
「少し。でも言いたくないことならこれ以上は……」
「そうね、秘密」
その秘密、というワードを聞いて、ハルカは一つだけ思いついたことがあった。
ユエルはこれまで何度かハルカに秘密、と言ってきたが、その中に一つ、人物に関するものがあった。
まさかな、と思いつつ、一応口にしてみる。
「神様、とか、クダンさんたちならありそうですね」
ノクトの話を思い出して半分独り言のように呟くと、ユエルが目を細めて、にっこりと笑った。
秘密、とも言わなければ、違うとも言わない。
「……お前なんか知ってるのか?」
じろり、とクダンがハルカを見た。
ユエルとのやり取りが聞こえていたのだろう。
クダンが怒って睨んでいるのか、それとも普通に尋ねているのか、ハルカにはわからない。
「知っているというか……、神様と実際に会ったことがある、という話をいくつか聞いたことがあったので……」
「ほー……、お前も会ったことあんの?」
「あ、いえ、私は夢の中で見ただけで……」
「ふーん、夢ねぇ。相変わらずよく分からねぇ変な奴だなぁ……」
クダンは顎に手を当てながら体ごと首をかしげて呟いた。
体術が得意なわけでもないのに身体強化し続けていて、魔法も制限なくぶっ放してくるぽっと出の平和主義なダークエルフ。
そりゃあわけわからない変な奴としか、言い表しようがないだろう。
この世界にとって良かったことは、とにかく平和主義という点だ。
「まぁ……、さっきカマかけたのは俺が悪かった。そのことについてはもうあんまり気にすんな。考えてもみろよ、お前のやりそうなこと邪魔するくらいだったら、とっくにカナの邪魔もしてるだろ。あいつとも仲いいなら、何してるか知ってんだろ?」
「あ、そうですね……」
カナは破壊者の扱いの関係で、〈オラクル教〉と敵対し、南方大陸で【自由都市同盟】という国を立ち上げている。それこそ大問題になりそうなものだが、特に何をするでもなく静観している。
そう考えれば余程あくどいことをしていない限り、敵対するようなことにはならないのだろうと分かる。
「にしても……、今〈オランズ〉に神殿騎士が来てんだろ? あれ大丈夫なのか?」
「あー……、一応今は関係良好です。ちょっと前に少しいざこざがありましたが……」
「やっぱりか。あいつらやたらと破壊者を嫌ってるからな。どうせ〈混沌領〉から破壊者が攻めてくるとか言ってんだろ?」
「あ、はい、その通りで」
いくつかの情報を組み合わせて、現状を把握しているのだろう。
クダンは長年冒険者をしているだけあって、そういった状況把握能力には長けている。
聞いてなくとも何が起こっているのかはなんとなくわかっていた。
「なんか昔この国ができる時にも、商人と〈オラクル教〉がごちゃごちゃうるさくて、もう面倒くさくて面倒くさくて大変だったんだ。糞つまんねぇ会議毎日のように参加させられてよ」
「途中で逃げたじゃない」
「お前の方が参加してない日多かっただろうが」
クダンとユエルが、昔のことを思い出して互いの責任のなさを押し付け合う。
ハルカは、きっとこの調子だと、テトは当然会議に参加しておらず、カナだけが真面目に毎日出席していたのだろうなと思う。
冒険者は昔から冒険者らしい。
しょうもない言い争いを続ける二人を見ながら、なんとなく微笑ましい気持ちになるハルカであった。





