がばがばな判定
「先日ちょっと、【神龍国朧】の〈北禅国〉という国の奪還に協力してまして……」
「奪還?」
クダンがすごむように言うが、これはすごんでいるのではなく通常の問い返しでしかない。いちいち怖がっていては話が進まないことは分かっているので、ハルカもぎゅっと眉間の辺りに力を入れる形で、ひるまずに話を続ける。
「はい。外部から来た者に、〈北禅国〉の北城家が乗っ取られてしまって、その後継者の北城行成さんに協力して、国を取り返しました。元々は〈ノーマーシー〉に、行成さんの船が難破してきたところから始まるんですが……」
「……それは仕方なくねぇか?」
「あ、そうですか」
クダンの判定によれば仕方ない、に入るらしい。
一応国関係のことに首を突っ込んでいるからと思って話したのだが、どうやら結構がばがばな判定であることが分かった。
「あの、参考までにどんなのが駄目なんでしょうか?」
「いや、だから例えばあれだよ……。国を乗っ取って、王族皆殺しにして、国民を奴隷のように働かせつつ、そいつらを捨て駒にして他国に侵略しに行くとか、そういうのだな」
「それはなんか、あからさまに駄目ですね……。なんかあの、もっと微妙なところの話はありませんか?」
あからさますぎて参考にもならない。
困った話である。
「あ? 難しいこと言うなよ。……例えばこいつ」
「指差さないで」
クダンがユエルを指さすと、そこに向けて当たり前のように魔法が飛んでいく。
危なすぎるやり取りだが、クダンはその一連のやり取りには触れもせずに話を続けた。
「こいつは気に食わないって思うと、普通に相手をぶっ殺す。例えばそいつが、ユエルにとって気に食わないやつだったとしても、実は意外と政治はまともにしてたりして、こいつがその統治者をぶっ殺したせいで、近隣で戦争が巻き起こったりした。そういうことが何度かあったから、俺たちの中では、ユエルはもう偉い奴に勝手に手を出すなって話になってる」
「あ……、はい……」
なんだかすっかり馴染んでいたが、やっぱりちゃんとやばい奴である。
改めてユエルの危険度を思い知ったハルカは、これまでの態度を振り返りつつ、ユエルと敵対しないように改めて気をつけようと、神妙な顔で自省する。
「普通は殺さない程度に痛い目に遭わせるとか、色々やり方があるんだろうが。俺だって我慢して話聞いてんのに、こいつの場合、殺すか殺さないかの二択しかねぇんだよ。だからめんどくせぇの」
「ちゃんと考えてる。クダンは細かい」
「お前が大雑把なだけだ。後始末する方の身にもなってみろ! いいか、お前が一番迷惑なんだよ! 次があちこちで捕まったふりしてへらへらしてるノクトな!」
「あ、すみません、ホント」
今は近くにいない師匠のことについても謝罪をするハルカ。
するとクダンは変な顔をしてハルカのことをフォローする。
「いや、お前の師匠になってから大人しくしてるから、それは助かってる。……そういやノクトはいねぇのか?」
「今はリーサの戦争に付き添ってます。ちょっと心配だったみたいで」
「ああ、なるほどな。早く手元に戻して監視しておいてくれ」
「別に監視してるわけではないのですが……」
「お前のところにいると大人しいから、あまり野放しにするな」
「一応、気にしておきます……」
ここまで聞くと、どうやらクダンが本当に他人の尻拭いで全国を奔走しているのではないかと思えてくる。
最初の孤高な印象は随分と薄れて、すっかり世話焼きなお父さんのようだ。
そんな話をしていると、ぞろぞろと散らばっていたはずのアルベルトたちが集まってくる。
「……なんかあったです?」
「いやなんもねぇよ」
「お話をしていただけですが……?」
真っ先にやって来たモンタナが、尻尾をピンと立てたまま尋ねるが、クダンもハルカも何を言われているかわからずとぼけた返事をする。
「いや、でもちょっと前にすげぇ変な感じしたぜ」
「……多分、クダンさんの殺気につられて集まって来たんじゃないかな」
「手合わせでもしたのか?」
「いや、話の流れでちょっとクダンさんが試しただけ」
「そですか、ならいいです」
イーストンのお陰で納得したらしい面々は、やって来たその場に腰を下ろす。
訓練の継続どころではなくなってしまったのだろう。
話が途切れ、一度落ち着いたところでハルカはエニシをちらりと見てから次の話題に移ろうとする。
「あの、あとですね」
「あー、今度はなんだよ」
「実はそこにいるエニシさんがですね……」
「それは我から話そう」
ハルカが【神龍国朧】の件について話し始めようとしたところ、きりっとした顔のエニシが言葉を引き継いだ。
すっかり精神的に摩耗しているハルカの横顔を見て、申し訳なく思ったらしい。
「あ?」
ジロリとクダンからの視線を受けて、思わずカーミラの胸に背中を預けたが、カーミラもまた視線を彷徨わせている。こちらはとばっちりだ。
当然クダンは怒っているわけではない。
「わ、我は……、【神龍国朧】の神龍島で巫女総代を務めていた、エニシ=コトホギというものだ」
「巫女総代? そんな奴が何でこんなところにいるんだよ」
「嵌められて追い出されたのだ。我が気に食わなかったのか、それとも何か目的があったのかはわからぬ。しかし、神龍島にはまだ我を慕ってくれていた者が残っておる。【神龍国朧】には、我が少しでも戦が減るよう協力を求めた者たちが生きておる。だから我は戻らねばならぬ。その手助けを、ハルカに頼んでいるのだ。それは……、クダン殿にとって問題のあることであろうか」
クダンは少しばかり考えてから、首を捻りながらさらりと答えた。
「……いや、好きにすりゃあいいんじゃねぇのか?」
「ありがたい」
「別に礼を言うようなことじゃねぇだろ。本来俺に許可を求めることでもねぇし。それを手伝って、ハルカが【朧】を牛耳って悪さするってんなら話は別だぜ」
クダンに視線を向けられたハルカは、ふるふると首を横に振る。
そんなことは一切企んでいない。
希望があるとすれば、ちょっと美味しいものが食べられて、普通のお花見ができたらいいなくらいで、大それた野望などかけらも持っていなかった。





