訓練見学会
あっという間に訓練が始まってしまった。
クダンを見つける、すなわち訓練を見てもらえる、がアルベルトの中での公式として成り立っているらしく、何のためらいもなく挨拶からスムーズに訓練が始まった。
アルベルト、モンタナ、レジーナ、タゴス。
近接戦闘をする一級冒険者たちが実に楽しそうにクダンを交えて訓練を始めた。
ハルカが参加すると訳の分からないことになるので見学。
珍しいことなので、色んな人が集まってきて一緒に訓練を見守っている。
カーミラがエニシを抱え、ハルカがユーリを抱え、ユエルがノーレンを抱えている。最後だけサイズ感的にあまり合っておらず、ユエルは体を傾けてクダンたちがいる方を見ている。
ノーレンも恥ずかしそうにしているが、ユエルは至って機嫌が良さそうだ。
あぶれた形になるコリンは、「仕方ないなぁ」と言いながら、嬉しそうにハルカの髪をとかし始めた。
こちらも機嫌が良さそうなのでハルカは好きにさせている。
ついでにイーストンも近くで座って眺めており、訓練に参加するつもりはないようだ。
「あれがクダン殿……」
ほぅ、と息を吐いて熱い視線を送るのはエニシ。
「知ってるの?」
「うむ。数代前の巫女総代を攫って逃げたのがクダン殿なのであろう? 我もそんな情熱的な男性に出会ってみたいものだ」
「へー、父ちゃんってそんなことしてたんだ」
「【朧】で指名手配されてる」
横並びで話を聞いていたノーレンが感心したように言うと、ユエルがずばっとクダンの行いを一言で切り捨てた。
「いや、でもほら、色々事情があったと思うんだよね! あ、ということはもしかして、僕のお母さんは偉い人だったりしたのかな?」
流石に娘として庇わざるを得なかったのだろう。
ついでに話題を逸らすところまでやってのけるのが、ノーレンが意外と苦労して育ってきたのをうかがわせる。
「あれ、ノーレンさんってクダンさんのことは父ちゃんって呼ぶけど、お母さんのことはお母さん、って呼ぶんだね」
呼び方が気になったコリンが口を挟むと、ノーレンがユエルに頭をかき回されながら頷く。
「お母さんが『母ちゃんはちょっと、ね?』って言うから」
「周りにいた冒険者が教えた。教育に悪い」
「あー、なるほど……」
あまり行儀のよくないしゃべり方をする冒険者がたくさん周りにいたのだろう。
トットたちみたいなものかと考えると、ハルカはなんとなく想像ができた。
しかし教育に悪いというのならば、すぐに魔法をぶっ放すユエルも相当教育に悪そうだが、その点は上手い具合に反面教師になっていそうだ。
なんとなく雑談が続いていた見学組だが、いざ訓練が始まると、皆一斉にそちらに目を釘付けにされてしまった。
「うーむ……、それにしても強い……」
「なんか……、すごいわよね……」
「あれはちょっと、強すぎるね」
クダンが四人を同時にあしらっているのを見て、エニシは思わずうなった。
カーミラも、そしてイーストンすら感心して目が離せなくなっている。
仲間だからこそ、ハルカたちはアルベルトたちの強さを知っており、だからこそ手も足も出ないことが信じられない。
「……結構強くなったわね」
しかしそれを見ながらぽそりと呟いたのはユエルだった。
前に手合わせをしてから数年。
そのユエルが褒めるのだから決して腕が上達していないわけではないのだろう。
ただ単純に、クダンがまだまだ遠くにいるというだけの話だ。
「うぅむ……、実はクダン殿にお聞きしたいことがあるのだが、聞いてもらえるだろうか」
クダンの強さを思い知って不安になってしまったらしいエニシが、感嘆のため息交じりに呟く。
「父ちゃん、割と何でも話聞いてくれるよ」
「それで余計な依頼を受けてくるの」
ノーレンが嬉しそうに父親自慢をすると、ユエルがすぐさま悪い方の話を追加で教えてくれた。怖い顔をしていて、行動も至って乱暴だが、それはそうとしてお節介焼きなのだろう。
そういえば初めて出会った時も、ノクトの護衛を押し付けられていたことをハルカは思い出す。
「ちなみに、何を聞くの?」
ユエルがさりげなく尋ねる。
「うむ……、巫女総代を攫ったときの話が真実ならば、クダン殿は神龍様とお会いしているはずなのだ。……我は神龍様と話すことで解決できる問題もあると考えている。だから、神龍様がどのようなお方であるか、話を聞かせていただきたいのだ」
「ああ、それは必要な話かもしれませんね……」
「ふーん」
ユエルは興味があるのかないのかわからないような返事をした。
意図が分からないのがユエルの怖いところであり、深掘りすると面倒ごとが湧き出してきそうなのでそれもできないのがさらに難しいところだ。
いったん全員が武器を飛ばされ、どうやら手合わせは終了したようである。
クダンが攻撃の際には武器を使わず拳や蹴りばかり使っているのが印象的だった。
剣士だとばかり思っていたが、どうやら殴り合いも相当強いようだ。
「あ、ちょっと怪我を治してきます」
「そのままでいいんじゃない?」
ハルカが立ち上がろうとすると、ユエルにそれを止められる。
「えっと、そう……ですかね?」
「ええ。すごく集中してるから、向こうから言ってくるまで放っといてあげたら?」
そう言われて改めて見れば、四人はクダンの言葉に真剣に耳を傾けており、怪我を気にしている様子はまるでない。
「……ありがとうございます。そのようです」
水を差すところだったか、とハルカはイヤーカフを指先で撫でながら、ユエルに礼を言うのであった。





