クダンのハルカへの評価
一度動きを見た後、クダンはそれ以上手合わせをしようとしなかった。
四人共が何やらアドバイスを受けたあと、散り散りにどこかへ行ってしまった。
今聞いた話を参考に、一人で黙々と訓練に励みたい気分なのだろう。
戻ってきたクダンも、割とすっきりとした顔でハルカに話しかけてくる。
「ちゃんと成長してんな。やっと経験が体に追いついてきたってところか」
「経験が……ですか?」
「おう。訓練はちゃんとしてんだろうけど、実戦経験がたりねぇんだよ。あれだろ、どうせお前ら相変わらず馬鹿みたいな訓練してんだろ。身体強化しまくって治癒魔法かけて、馬鹿スカ怪我して治癒魔法かけて」
「あ、そうですね」
「悪くねぇけど、どうしても体の能力に技術と経験がついていかねぇんだよ。ま、ついてくりゃ相当なもんになるけどな。十年後くらいにはいい感じに手合わせできそうで楽しみだ」
クダンはからからと笑って言い放つ。
十年でまっとうに手合わせができるようになると思われているのならば、相当期待されているのだろう。
「あ、これあいつらに言うなよ」
じろりと睨んで忠告されたので、ハルカは大人しく頷く。
睨んでいるというより、この目つきがクダンのフラットな状態なのであるが。
「ママはやらないの?」
さらりと爆弾発言を放ったのはユーリだった。
ハルカとしては訓練でもクダンとやり合うのはもうだいぶ怖い。
ユーリが期待しているのならばやるべきなのだろうかと、頭の中でやるやらないを考えていると、クダンの方が「やらねぇよ」と言い放った。
「ある程度マジでやらないと訓練にならねぇし、大規模魔法使えるような魔法使いがマジでやると地形が変わる。面倒くせぇし訓練にならねぇし場所もぐちゃぐちゃになるしマジでいいことねぇんだよ」
「ユエルさんとはたまに砂漠で喧嘩はしてたけど……」
ノーレンがぼそっと呟く。
「あれは喧嘩だから」
「訓練じゃねぇだろ」
すると、ユエルとクダンからすぐに息の合った返答が戻ってきた。
長年一緒に活動していただけあって、実はやっぱりそこまで仲が悪いわけではないのかもしれない。
「前の時は手合わせしてくれてましたよね?」
「ああ、あれな」
実際前にアルベルトたちが訓練をつけてもらったときは、ハルカが魔法を駆使してクダンに挑んだことがあった。
その時は一枚の障壁を時間内で斬られないように守れ、というルール付きではあったけれど、確かに手合わせをした。たったの一分持たせるだけであったのに、ハルカが耐えることができたのは僅か十四秒であった。
「あれは実力見るためにやっただけで、訓練にはならねぇだろ。それに俺は魔法使いにできる助言なんかねぇし、そもそもこいつ、あまり戦闘の才能ないだろ」
「あ、はい、仰る通りです……」
クダンはハルカを指さして、はっきりと戦闘の才能がないと言い放った。
「あんだけ自由自在に魔法が使えるのにあれだからな。才能だけで十分戦えるし、俺から何か言っても実行できるとは思えねぇ」
反論もしてないのに更に畳みかけられて、ハルカが乾いた笑いを漏らすと、ノーレンが立ち上がってクダンに抗議する。
「父ちゃん、今の良くない!」
「何がだよ。才能は死ぬほどあるって言ってんだろ。俺より能力高ぇぞ。つーか、今まで見てきた中で才能だけは一番ある。ダントツである。褒めてんだろうが」
「あっ、父ちゃんもう黙った方がいいって!」
「なんでだよ……、戦闘の才能が壊滅的にねぇって言ってるだけだろ」
「また言った!」
「ノーレンさん、大丈夫です……、自覚があるのでその辺にしておいてください」
ノーレンが庇おうとしたことで繰り返し現実を叩きつけられる形となったハルカは、苦笑しながらノーレンの方を止めた。
クダンに悪気はないのだ。
ノーレンの反応から、クダンの奥さんは、人に気を遣えるしっかりとした人なのだろうということが分かって何よりである。
「ほら、本人もそう言ってるじゃねぇか」
悪気はない。
それからクダンはさらに続ける。
「それに万が一こいつがマジで人を滅ぼすとか言い出したとき、下手に手の内ばらしてると対抗できねぇからな」
「いえ、そんなこと絶対に言いませんよ……?」
「おお、やっと父ちゃんが分かってくれた」
ハルカは即座に否定。
一方でノーレンはその言葉をクダンのお世辞だと思ったらしく、ほっとした表情になる。
自分の父の最強を一切疑うことなく信じているのだろう。
「万が一ってこともあんだろ」
「え、父ちゃん本気で言ってる……?」
「おう」
「うぇえ、そんなに強いんだ……」
ノーレンが驚いた顔をしてハルカの方を見る。
ハルカには戦ってクダンに勝てるビジョンが一切湧かない。
ありえない話だと首を横に振る。
「いえ、全然そんなに強くないと思いますけど……」
「わかってねぇだけだろ」
ハルカの否定はクダンに更にバッサリと否定された。
自分より上だと思っている相手にそう言われるとぐうの音も出ない。
「そんな奴に俺が訓練つけるってのもおかしな話だから」
「そうね」
気楽な同意をしたのはユエルだけで、他は黙り込んでハルカの方を見たし、ハルカ自身もクダンの発言をやっぱり信じられずにいた。
「何とぼけた顔してんだ、お前ら。……ああ、そうだ、思い出した。俺その関係でお前に話があって来たんだよ、いいか?」
「は、はい、なんでしょうか」
クダンたちのような特級冒険者にとっての当たり前は、他の者にとっての当たり前ではない。
『その関係』なんて言われると、何か悪いことでもしたかとドキドキしてしまう。
ハルカは我に返って、慌てて返事をするのだった。





