思わせぶり
食事の準備をしてくれている三人に、一人増えますよと伝えたところ、コリンが「へー、誰がきたの?」とエントランスへ向かった。
ハルカが止める間もなくエントランスに顔を出し、ユエルを見て他と同様一瞬硬直。
しかしコリンの立ち直りは早く、「あ、お久しぶりです、ユエルさん! 嫌いなものとか食べられないものってあります?」とすぐに普通に喋り出した。
ハルカが客であると言っている以上、敵対しているわけではないと判断したらしい。
この反応は珍しかったのか、ユエルも数度瞬きした後に、フルフルと首を横に振った。
「じゃ、美味しいもの作るんで待っててくださいねー!」
元気に戻っていったコリンを見送ったところで、ユエルは顎のあたりに指を添えて呟く。
「あの子、かわいいわね」
「あ、コリンです」
「そう」
お気に召したようだった。
そのまま食堂へ移動して、ハルカがユエル来訪の目的を仲間たちに説明していると、扉が開いてレジーナが入ってくる。
レジーナは背中を向けているユエルをじろじろと睨みつつ警戒しながら、いつも自分が座る席の方へ移動していたが、途中でユエルがそちらに顔を向けると、ピタリと足を止める。
「……皆殺し女」
レジーナが真正面からユエルに言い放った言葉に、ハルカは肝を冷やしてユエルの顔色を窺う。
しかしどうやらユエルは、レジーナの言葉に腹を立てている様子はなかった。
「私のこと知ってるの?」
「あたしが殺し合いさせられてたところの奴ら、魔法で皆殺しにした女」
「南方大陸の子?」
「そうだ」
「元気そうね」
「まぁな」
レジーナは子供の頃、南方大陸の見世物小屋で殺し合いをさせられていたところを、冒険者に保護され、ノクトに預けられてから、〈ヴィスタ〉の孤児院に連れていかれたのだ。
そこもすぐ飛び出して冒険者になったのだけれど、その辺りの事情はともかく、最初にレジーナを助けたのはユエルだったということになる。
きっとユエルにとって、その見世物小屋の運営者は『悪い人』だったのだろう。
「こいつ仲間になんの?」
「あ、いえ、お客さんです。ノーレンさんを探しているらしいですよ」
「そうかよ」
レジーナはじろじろとユエルのことを見ているが、喧嘩を売るつもりまではないようであった。
しばらくすると今度はアルベルトが入ってくる。
アルベルトはすぐにユエルに気が付いて、「お!」と声を上げた。
他の面々と違ってどこか楽しそうである。
「ユエルさんじゃん! 何しに来たんだ?」
「人捜し」
「へぇ、誰捜してんだ?」
「ノーレン、元気ね。ちょっとうるさいけど」
「おう! 俺前より強くなったから、明日あたり手合わせしてくれねぇ?」
「嫌。クダン辺りに頼みなさい」
「えー、いいじゃんか、減るもんじゃないし」
「減るの、私の場合」
「何が?」
「秘密」
「秘密ぅ……?」
アルベルトは眉間に皺を寄せて、首をかしげながらしばし悩む。
ハルカの『頼むから大人しくしててほしい』という必死な願いが通じたのか、アルベルトは「じゃあ仕方ねぇか」と言って、手合わせをしてもらうことを諦めたようだった。
「でもいいよなぁ、ノーレンはクダンさんの娘だから、ユエルさんにも訓練つけてもらったりしてんのか。いいよな」
「つけてない。あの子魔法の才能ないから」
「あ、そうなのか。でも訓練つけてもらえば、魔法使いと戦う経験とかにはなると思うんだけどな」
「私あまり細かい魔法得意じゃないの」
「あー、そういえば変わった魔法ばっかり使うもんなぁ。ハルカとか参考になるんじゃね? あれどうやってるとか聞いたのか?」
ハルカはいたって普通に会話を始めたアルベルトを黙って見つめていたが、話を振られてフルフルと首を横に振る。
戦いの手段は冒険者にとって大事な秘密なので、おいそれと聞いたりできるわけがない。
「知りたい?」
話を振ったせいで、ユエルもハルカの方を見て尋ねてくる。
瞬間移動とかはすごく気になるけど、どう答えるのが正解かわからない。
「一応、その、気になります」
「そう」
ユエルはハルカの返事を聞くと、満足そうに鼻から息を吐いて、どこか誇らしげな顔をした。
自分の魔法について興味を持ってもらったことが嬉しかったのかもしれない。
ハルカはそんな当たり前の感覚を持っているらしいことに驚きつつ、話を続ける。
「あの、今日も急に私の前に移動してきましたけど……、あれとかは……」
「あれは駄目。教えない。危ない」
「あの、何が危ないのでしょうか?」
「試しに人に対して使ってみたら、消えてなくなったし、私は魔素酔いで倒れた」
「あ、はい……」
思った以上に危険な話だった。
というか、人に対して平気で試してるのがやばい。
「大丈夫。悪い人に試しただけ」
「そうですか……、はい……」
大丈夫かどうか微妙なところだが、それ以上突っ込む気にはなれない。
「……魔法使う時、人とか……、何かの名前呼んでたです」
「耳がいいのね」
モンタナの指摘をユエルは否定しなかった。
「障壁を使う時、ノクトさんの名前言ってたですよ」
「ふぅん」
「詠唱しているんですね」
「そうよ」
魔法を使い慣れた魔法使いは詠唱を破棄する。
ただ、ユエルのように多彩な魔法を使うとなると、多少の詠唱は必要なのかもしれない。効果もかなり特殊であったから、本人にしか使えない魔法であることは間違いないのだろう。
「あれはどんな仕組みなのでしょうか?」
「教えない」
「ええと、魔法について何か教えていただける、というお話では……?」
「そんなこと言ってないわ。私の魔法に興味があるか聞いただけ」
「あ、そうでしたか……」
言われてみれば確かに『知りたい?』と聞かれただけだ。
しかしこの感じ、ユエルとクダンって、もしかするとすごく相性が悪いのではないだろうかとハルカは思う。
喧嘩をしてたという話にも、なんとなく納得である。





