意外と続く会話
森の中を歩きながらも会話は続く。
実は夜になってから空を飛んで帰ればいいか、くらいで歩いていたので、結構遠くまで来ているのだ。
夕暮れ時に帰れるか怪しいところである。
「そういえば……、先日エルフの国【テネラ】へ行ってきました」
「そう。何をしに?」
何か共通の話題はないかと話し始めたけれど、そういえば【テネラ】の方では、ユエルの話題はあまり出てこなかった、というか、意図的に避けられていたことを思い出す。
しかしすでに返事は来てしまった。
それにしても簡単に話が終わるかと思いきや、ユエルの方から話を広げてくるのは意外である。
「数年前エイビスという友人に、そのうち遊びに行くと約束していたんです」
「そう。……閉鎖的な国だったでしょう」
どうやらユエルはあまり故郷のことが好きではないようだ。
返ってきた言葉は否定的だった。
「……どうでしょう。若いエルフを大事にしているように見えましたが」
「そうなの。私の時はあれもダメ、これもダメ、ってうるさかった。だから飛び出してきたのだけれど」
「そうですか……。今は王国とも国交を持って、段々と開けた風土になってきているのかもしれません」
「いいことね」
ハルカの話を聞いたユエルは、これも意外なことに前向きな返答を寄越した。
先ほどの返答から分かる通り、ユエルは故郷のことがあまり好きではないはずだ。
しかし別に、故郷を滅ぼしたりはしていない。
すなわち、気に食わなくても、即座に『悪い』とはならないということだ。
そう考えると、ユエルのことを過剰に恐れているような気がしてくるハルカである。
「ユエルさんは、百年ほど前にクダンさんたちとチームを組んでいたのですよね?」
「そうね」
「失礼に当たるようなら答えていただかなくて構わないのですが、おいくつくらいになるのですか?」
「二百とちょっとかしら。数えてないからわからないわ」
そうなるとノクトよりも年上だ。
その時点でチームの中では最年長だったのだろう。
「国を出てすぐに冒険者に?」
「しばらくふらふらして……、……南方大陸で変なのに誘われて冒険者になったの」
「変なの、ですか?」
「そう、変なの。その時集められたのが、私とクダンとカナとテト。他にも何人かいたけど」
「……すごく見る目があったんですね」
「どうかしら。でもお人好しで、ちょっと抜けてるところもあったわ」
こうして話を聞いてみると、ユエルにもたどってきた道のりがあることが分かる。
以前会った時のユエルは、どちらも依頼を受けている最中のユエルだった。
得体の知れなさは今もあまり変わらないが、あの時ほどピリピリした様子はない。
「ユエルさんにも、人に世話になった時代があったんですね」
「あたりまえでしょう。変な子ね」
しみじみと呟くと、特別変人であるユエルから変な子扱いされてしまった。
あまり変である自覚はないハルカである。
「……ユエルさんの言う、悪い人の基準とかって、何かあるんですか?」
「感覚、かしら。そうね……」
まったく参考にならない答えを返したユエルであったが、それからしばらく黙り込んで真面目な顔をして何かを考えているようであった。邪魔しない方がいいかとしばらく黙り込んでいると、数分してユエルは再び口を開く。
「やっぱり感覚かしら」
待ち時間は意味がなかったようだ。
説明するのが面倒くさくなったらしい。
「そうですか。……そういえばユエルさんって、〈オラクル教〉の騎士に、ラクトという知り合いがいたりしませんか?」
「南方大陸で一年くらい勝手についてきていた子がそんな名前だったかしら。最後は〈オラクル教〉に預けたのだけれど」
「あ、そうなんですか……」
「ラクトが何?」
ちゃんと知り合いだったようだ。
あちらが悪いとはいえ、魔法で凍らせて帰してしまったのでちょっと気まずい。
「あ、いえ、今は神殿騎士の第七席としてご活躍みたいです……」
「そう、なんで私に聞いたの?」
「私たちに『悪い人か』と聞いてきたので」
「真似してるのね。喧嘩になった?」
「……少しだけ」
「そう。よくあることね。私もクダンが回りくどいことをしてて、よく喧嘩になったわ」
結構勇気を出して答えた割に、あっさりと許された。
やはり仕事モードでない時のユエルは案外許容範囲が広そうだ。
しかしノーレンから聞いていたが、ユエルは本当にクダンと喧嘩をしていたようだ。
その光景はあまり想像したくない。
しばらくして森の中に一本通っている、ハルカが整備している道に出ると、ユエルは空をちらりと見上げて尋ねて来る。
「ハルカちゃんは、〈忘れ人の墓場〉にでも住んでいるの?」
「あ、そうです、はい。以前アンデッドが溢れて討伐して、その後特級冒険者になって〈忘れ人の墓場〉に拠点を置いてます」
「そう。大変そうね」
「それほど……、大変なことはありませんが……」
「そう? だってアンデッドがいなくなったら、〈オラクル教〉が〈混沌領〉の破壊者への対策のために乗り込んでくるでしょう? 協力してるの?」
「あ、してません……」
「そう。だから神殿騎士のラクトと喧嘩になったの。ハルカちゃんは〈混沌領〉の破壊者と仲が良いみたいね」
「え、あの、どうしてそう思うのですか?」
「だってそう説明していたじゃない」
していない。
ユエルの方で勝手に情報を整理して、答えを出しただけだ。
その時ハルカはユエルの特性をなんとなく理解する。
きっとユエルはこの調子で、相手の情報から勝手に正しい状況を判断して、効率的に動いているのだ。
これは中々他人と理解し合うことが難しいタイプである。
クダンと喧嘩になった原因も、この辺りにありそうだ。
話をしながら歩いているうちに、日が暮れ、少しずつ拠点が近づいてくる。
二人で歩く時間は意外なほど充実していたし、ほんの僅かも戦いになりそうな気配はなかった。
途中からは本当にただ世話になりに来たようだと判断したハルカは、ようやく肩の力を抜いて話ができるようになっていた。





