上手くやる努力
竜たちは喋り出したりはしなかったけれど、年相応に賢く、一度安全だと理解してからは好き勝手に触らせてくれた。
ハルカたちも、ナギ以外の大型飛竜と触れ合う機会はめったにないので、ナギとの違いなんかを観察しながらのんびりとさせてもらった次第である。
その場でしばらく時間を潰してから街へ出て、それから夜になったらまた大陸の昔話を聞かせてもらった。
まず大陸の気候に関してだが、北方大陸は昔、もう少し寒かったのだそうだ。
特にくだんの竜が北へいなくなってしまってからしばらくは、北方大陸の中部辺りの冷害が特に酷く、飢饉なども発生していたのだという。
冬には降雪で家がつぶれたり、凍え死ぬようなものも出てきて、竜の神を怒らせたせいだと、大竜峰付近にあった国は他国に攻められて滅びてしまったのだとか。
元々大竜峰に派遣した精鋭部隊が返り討ちに遭っていたのもあって、酷くあっさりとした幕引きだったという。
ちなみにクガネとトツカを育て始めたのはその前のことなのだそうだ。
それからも百年近くその気候が続き、ある時ピタリとそれが収まったらしい。
それからは北方大陸の気候も安定して、技術の進歩が顕著になり、やがて人族の技術的な発展が著しい時代に移行したのだとか。
その技術が劇的に発展したのは、神人時代の最後の二百年ほどであるらしく、それまでは今ハルカたちが過ごしている時代とそう変わらないような暮らしをしていたらしい。
多くの破壊者の種族が人の近くに暮らしたり、人を従えていたりしたのだけれど、技術が発達するにつれて人族は便利なものを次々と開発した。
病を治し、生産性を高め、数を増やし、いつのまにやら他種族よりも圧倒的に数が増えていたとか。
人族は数が増えるにつれて、他種族が怖いから排斥しようとする。
そんな流れを、テネブは百年、二百年と感じ、やがて人族が決定的な力を持った段階で、これはまずいと判断したのだとか。
実際テネブが退避を判断するまでの過程で、人族と敵対することの多かった巨人族が、人族と戦争をして北方の大地に退避したり、原因は定かではないが、他の種族たちも人族と戦いを繰り返していた記憶があるという。
神人戦争と一口で言うと短い時代のことに思えるが、実際に人族と、今破壊者と呼ばれるような種族がこまめに戦争をしつつ共存していた時代が百年も続いていたということだ。
最後には比較的温厚に過ごしていた種族も、人族の街に近付くことを避けるようになって、そのうち人族同士での戦争が始まるようになったようだった、と、テネブは最後に伝聞のように語っていた。
その頃にはテネブはすでに島へ渡り、大陸の情報があまり入ってこなくなってしまっていたのだとか。
「だから私は、どうしても大陸の人族と交流することに躊躇してしまうのだ。島で暮らしている人々まで、いずれ戦禍に巻き込んでしまう気がしてね」
「少し分かるような気もします……」
いつか世界中を巻き込むような大きな争いに発展するくらいならば、小さな世界を守り続ける。理屈としては間違っていないし、テネブのその考えを否定できるものは誰もいなかった。
「……【はみだし会】の発表は、いつ頃のことだったです?」
「そうだね、だから危ないなと思った中盤頃の話で……、私が島へ退避する数十年前のことになるかな?」
「結構昔です」
「そうだね。でもそこから一気に技術が進歩してね。時折クガネやトツカに乗せてもらって情報を仕入れていたのだけれど、街に埋め込んで破裂させることで全てを弾き飛ばすような兵器や、魔素を変容させて散布することで、それを吸い込んだ生き物を好戦的にする毒のようなものが振りまかれたようなこともあったそうだ」
聞くだけでも恐ろしい兵器だ。
そんなもので殺し合っていたと聞くと、人が減り、地形が変わったのも納得である。
「まぁ、色々とあったわけだが、今の人族の一部は、魔法や身体強化を身に着けた。つまり生身でも我々に比肩する実力を手に入れたわけだ。これが吉と出るか凶と出るかは、私には想像がつかない。……君たちが、私たちや〈混沌領〉に暮らす種族に好意的であるように、人々があまり怖がらずに、仲良く接してくれることを祈るばかりだ」
「……そっか。俺たちが強くなれば、破壊者が怖い、って感覚もなくなるってわけだな」
「うん、そう考えることもできるかも」
「ふーん、じゃ、やっぱ強くなった方がいいよな」
自分なりに納得のいく結論が出たアルベルトは満足そうにうなずいた。
ここ数日難しい話をしていることが多かったので、すっきりとした結論にたどり着いたことが嬉しいのだろう。
「〈混沌領〉のこともさ、なんとかしてうまく開示して、受け入れてもらえるようにしたいよねー」
色々と考えることがあったのか、コリンも唇のあたりに指をあてながら少し首をかしげながら呟く。
「【自由都市同盟】も色々やってるはずです。話聞きに行った方がいいかもです」
「そうですね……。少しずつやっていきたいですね……」
ハルカたちが真面目な顔をして考えるのを聞いていたテネブは、ちらりと息子であるイーストンの方を見る。
そしてイーストンが、ハルカたちを見ながら静かに微笑んでいるのを見て、同じように穏やかな表情で微笑むのであった。





