竜たちとお話し
「クガネとトツカに会うためには、山を登る必要があるね」
クガネというのは赤茶色の大型飛竜で、トツカというのが灰色の方の大型飛竜の名前らしい。城の前に立ったテネブは、じっとこっちを見ている二頭の竜と見つめ合いながら呟く。
「しかし山を登るのには、少しばかり時間がかかる」
「……父さんはハルカさんの障壁に乗って空を飛んでみたいらしいよ」
「うん、お願いできるかな」
「あ、はい、もちろん」
遠回しに障壁を出してほしいと要求されていたらしい。
ハルカが気付かなそうだと判断したイーストンが代弁してくれた。
自分も変形によって空を飛ぶくらいはできるはずなのだが、魔法があまり発展していない時代から生きているので、話に聞いていた障壁が気になったのだろう。
地面に障壁を生み出すと、テネブはにっこりと笑う。
「乗っても大丈夫かな?」
「どうぞどうぞ」
「ほう、丈夫そうだね」
足の裏でトントンと音を立てて、テネブは興味深そうにしている。
その間に全員が障壁に乗り込んだところで、ハルカは四方に壁を設ける。
「動かしても?」
「お願いするよ」
許可を取ってゆっくりと浮かび上がっていくと、テネブは「おお」と声を上げたが、それきり街の方を向いてニコニコとしているだけだった。
順応性の高いことである。
竜たちがいる場所までたどり着く。
ハルカを警戒しているのか、竜たちはじりじりと後ろに下がっていくが、少し距離をとったところでぴたりと動きを止めた。大型飛竜としての矜持が、二頭をそこにとどまらせたようだ。
「クガネ、トツカ、お客様だ。イーストンの友人だから警戒する必要はないよ」
長生きをしているから、もしかしてヴァッツェゲラルドのように喋り出すのではないかとも思っていたハルカだが、二頭は黙りこくったまま、唸り声も上げずに不審そうな上目遣いをしている。
「ホントに友達だから、そんなに警戒しないでよ」
イーストンが続けると、二頭はアイコンタクトを取りながらしばし唸ってから、諦めたようにその場にべったりと寝そべって、鼻から大きなため息を吐いた。
一応テネブたちの言葉を受け入れることにしたようだ。
「僕も昨日初めて聞いたんだけど、この二頭は父さんがすごく昔に大竜峰から卵をとってきて、一人で育てたんだってさ」
「へぇ、冒険者みたいなことしてたんだな」
「昔は私もあちこちに出かけていてね。とはいえ、領主になる前だから、本当に大昔のことだよ。当時の大竜峰には一頭の巨大な竜が住んでいてね。それを悪神だ、なんて言って退治しようとした人がいたんだけれど、結局返り討ちにあってね。その竜は北の山々へ飛び去っていってしまったんだ。それ以来北方大陸はしばらく吹雪に襲われて大変で……と、話がそれたね」
「あの、すごく気になるので、そのお話後で聞かせていただけませんか?」
「あ、そうだね。そうか、君たちはこういう話が好きなのだね」
ハルカ含めた皆が、キラキラとした目つきで自分を見ていることに気が付いたテネブは笑って快諾した。
「それっていつ頃です?」
「そうだな……、千四百か、千五百年くらい前かな。その話を聞いてから私は竜に興味が出て、この子たちの卵を取りに行ったんだけれどね」
「ということは、クガネさんとトツカさんは、ヴァッツェゲラルドさんより年上かもしれませんね」
ハルカが名前を口にすると、二頭はまたアイコンタクトをしつつガウガウと話をして、にじりにじりと距離を詰めてきた。どうやら話の内容をきちんと理解しており、警戒心を少しばかり下げたようだ。
「ハルカ=ヤマギシです。クガネさん、トツカさん、お会いできて光栄です。うちにも大型飛竜のナギという子がいるんですよ」
話を聞きながらも、二頭はじりじりと距離を詰めてきている。
尻尾まで含めて三十メートル近くありそうな大型飛竜がにじり寄ってくるのは、慣れていなければ恐ろしいものだろうが、いつもナギを見ているハルカたちはあまり気にしていない。
「ナギの方がちょっとでかいけどな」
「ほう、そうなのか。この子たちも随分大きな方だと思っていたのだけれどなぁ」
「ヴァッツェゲラルドさんが、ナギは特別大きいって言ってたです」
「そうかそうか、次は連れてきてほしいものだ。そう思わないかな?」
テネブが二頭に問いかけると、短く返事が二つ返ってくる。
「同意してくれたよ。次は気にせずに連れてくるといい。どこにおりてもらおうか。この辺りでもいいかな?」
二頭の大型飛竜がいる場所は、崖の上。
ずっとここで暮らしているのか、この辺りだけ、木々が生えておらず、代わりに苔や草が生えており、過ごしやすそうな環境になっている。
テネブがしばらく二頭とやり取りをしているうちに、ハルカたちと二頭の距離は随分と近くなった。数歩歩けば手が届くような距離になったところで、ユーリが話の切れ目に、控えめに二頭へ問いかける。
「触ってもいいですか……?」
「はは、君は私じゃなくて、彼らにそれを問いかけるのだね」
「あ、ごめんなさい」
テネブはユーリが直接竜たちに語り掛けたことを笑ったが、それは別に非難するつもりで言ったわけではない。
単純に、本当にナギと仲良く過ごしているのだろうと微笑ましく感じただけだ。
「いいんだよ。どうなんだい?」
テネブが二頭に問いかけると、二頭からは短い返事が返ってくる。
ユーリにはそれが承諾の返事だというのが、聞いてすぐにわかって、一歩足を踏み出した。
小さな手を伸ばしてごつごつとした鱗を撫でると、二頭がユーリをじっと見つめる。
「すごいね。あの子は竜の言葉が分かるのかい?」
感心したように呟いたテネブ。
「なんとなくだと思います。よくナギと話をしているのも見かけるので」
ハルカも嬉しくなって誇らしげにそう答えるのであった。





