表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1557/1625

ずっとずっと先の話

「ハルカさんはきっと、長生きをするのだろうね」

「おそらく、ですが」

「テトさんや、君の師匠であるノクトさんとやらの話を聞く限り、私たちと同じように、老いぬ存在になっている可能性もあるだろう」

「はい」


 テネブは絵画を優しい目で見つめたまま尋ねる。


「大丈夫そうかい?」


 何をとは言わなかった。

 質問の意図はもちろん、『君は王として長い年月に耐えることができるのか』というものだ。

 テネブはハルカがそれを想像をしたことがあると確信しているようであった。


「……正直なところ、まだわかりません」

「そうか。……必ずしも私のようである必要はないと思うが、辛くなるようなことがあれば相談するといい。ハルカさんは大事な息子の友人だ。その時は決して無下にしないことを約束しよう」

「ありがとうございます」

「幸い、息子の他にも長命な友人が多いようだ。あまり無理をせず、頼れるものはなんだって頼るのがいいだろう」

「はい」


 何度も考えてきたことだったが、同時にまっすぐには向き合えていないことでもあった。これから先もうまく未来を直視できる日が来るとは限らないけれど、そんな時に頼れる先達がいることは心強いことだった。


「随分と先のことだ。気分を沈ませてしまって悪かったね」

「いえ、少し気が楽になりました」

「それなら良かった。そろそろ朝食にしようか」

「はい」


 コツコツと音を立てながらゆっくりと歩き出したテネブに続き、ハルカは城内を歩いていく。

 ハルカは、この島に来て良かったと思う。

 イーストンの実家に挨拶のつもりだったが、他にもいろいろな収穫があった。


 ハルカは途中で部屋に立ち寄るためにテネブと別れる。

 声をかけに行くと、どうやらモンタナ以外はもう起きているようだった。

 挨拶をしながらしなだれかかってきたカーミラを背中に引っ付けつつ、そのままモンタナが丸まっているベッドへ向かう。


「モンタナ、朝ごはん食べに行きましょう」


 とんとんと肩を叩くと、モンタナは丸まっていた体を、ゆっくりと逸らすように伸ばした。それからごろりと仰向けになると、腹筋の力だけでゆらっと上半身を起こす。

 特に文句も何もないが、目は半分以上閉じていて眠たそうだ。


「ハルカー」

「はい?」


 コリンに呼ばれて振り返ると、櫛が放物線を描いてポイっと投げられる。

 落とさないように慎重に受け取った時には、コリンは「よろしくー」と言って部屋から出ていく途中であった。


 いつもモンタナが寝ぼけている時には、ハルカやコリンが軽く寝ぐせや尻尾に櫛をかけてやるのだ。ちゃんと尻尾もとかせるモンタナ専用の櫛である。

 ハルカは目の前にぬるま湯のウォーターボールを浮かせて、チョンと櫛の先に付けてから、寝癖を直していく。

 やわらかい毛質をしているので、直すのにはさほど時間もかからない。

 尻尾も同じように軽く櫛をかけてやれば、すぐにいつも通りの毛並みに戻った。


「お姉様、私も」


 ハルカが櫛を片付けに行こうとすると、大人しく待っていると思っていたカーミラが自分の櫛を両手に乗せて差し出してくる。当然やってもらえるものと思い込んでいるようで、ニコニコと嬉しそうだ。


 期待を裏切るのも気が引けて、ハルカはすでに整っているカーミラの髪を、少しだけとかしてやることにした。


「朝、どちらへ?」

「少し城内の探検に。途中でテネブさんと会って話をしていました」

「あの方、朝に強くて羨ましいわ。私もそのうち慣れるかしら?」

「時間はかかるかもしれませんね」

「うーん、でも最近は、昼間にちゃんと起きていた方が楽しそうだと思うの」

「無理せずに」

「お姉様は私が昼間に起きていた方が嬉しい?」


 欲しい返答が分かりやすくて、ハルカは微笑みながらそれを答えてやる。


「嬉しいですよ。でも無理はしないでください」

「そう……! 少し頑張ってみるわ。……テネブ様と何をお話ししたのかしら?」

「……長生きについて、ですかね」

「お姉様はきっと長生きよね」


 カーミラはそれがさも当然かのように言ってのけた。

 実際のところはさっぱりわからない。


「おそらく、ですけれど」

「うーん、長生きだと思うわ。長生きしてくれると嬉しいから」


 テネブほどではないにしても、カーミラもまた、たくさんの人を先に亡くしてきた吸血鬼だ。

 ハルカに長生きを期待するのは当たり前のことであった。

 カーミラの気持ちを考えれば、ハルカだって長生きすることも悪くはないかなと思うことができる。


「そうですね……、そのうち神様に聞いてみましょう」

「そうね」


 『神様に聞く』なんて、おとぎ話の中の台詞のようだったが、ハルカたちにとっては実際にあり得ることである。

 笑いながらそんな話をしていると、モンタナがゆっくりと向きを変えて足をベッドから降ろしてハルカとカーミラの方をじっと見た。

 そして相変わらず眠たそうな目をしたまま口を開く。


「僕も長生きする予定です。クダンさんたちみたいにたくさん強くなると、長生きするですよ」

「……そうですね、そうなったらきっと楽しいと思います」

「そです。…………ご飯行くですか」


 モンタナは頷いた後、長く沈黙してからのそのそと動いて立ち上がる。


「そうですね。今日は大型飛竜たちにも会わせてもらう予定ですし」


 ハルカも、手を止めてカーミラに櫛を返してその後に続く。

 カーミラは少しばかり残念そうにしていたが、素直に櫛を仕舞い込むと、二人の後に続いた。


「……皆長生きすると私も嬉しいわ」

「そですか、頑張るです」


 カーミラが後ろから話しかけると、モンタナはこくこくと頷いて答える。

 二人のやり取りを横目で見ながら、ハルカは穏やかに微笑む。

 親戚の家に遊びに来たような、家族旅行に来たような、ちょっと新鮮で穏やかな時間。

 ほんの数分の仲間とのやり取りは、先ほどの話で少しだけ寂しくなっていたハルカの心を、あっという間に癒してくれたようであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
モン君いい子...
ハルおじはそもそもそのまま神になりそう。
ハルカは自死すら難しそうだし、場合によっては宝石の国みたいな最期になる可能性もあるんだよなぁ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ