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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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思い出

 テネブは城の中を普通の建物と大差ないと言っていたが、どうしたって薄暗い。

 元々は吸血鬼が暮らすために拵えた城であったので、人が歩くようには作られていなかったのだ。

 ハルカは魔法で照らすことを提案しようとしたが、テネブがそこで「少々待ってもらえるかな」と言って、入り口近くに置いてあったランタンに手を伸ばし、かちりとつまみのようなものを回して火をつけた。


「これでよし」

「それって……、どんな仕組みで火が付いたんですか?」


 どこか嬉しそうにしているテネブに、コリンが質問を投げかける。

 普通は蓋を開けて直接か、魔法で火をつけるものなのだが、今の行動を見ると、明らかにつまみを捻ったことによって火がともったことが分かる。


「実はこれは千年前の技術を応用したものでね。ヴェラがこの城に暮らすようになった時に、倉庫の奥から見つけ出してきたんだよ。ああ、ヴェラというのは私の妻でね、イーストンの母のことだ」


 昔のことを、というよりも、今は亡き妻であるヴェラのことを語るのが嬉しいのだろう。テネブの声は幾分か弾んでいた。


「私たち吸血鬼と違って、君たち人は明かりがないと困るだろう? ヴェラが困らないように、こうして入り口にはランタンを。あちこちに燭台を用意してね……。勿体ないからランタンだけで十分だと言われてしまったのだけれどね」


 テネブが歩きながら昔のことを語る。

 見れば確かに壁には過剰なくらいの燭台が用意されていた。

 イーストンがよそ見をしているのは、父親が家族について語るのを聞いているのが、なんとなく気恥ずかしいからだろう。


「奥さん思いなんですね」

「そうだね。空回りすることも多かったけれど、楽しかったよ」


 すでに亡くなっている妻のことを語るには、テネブの口調は明るかった。

 千年以上生きてきた中での、ヴェラと生きたたった数十年が、テネブにとっては振り返って思い出すだけでも、とても明るく楽しい時間であったのだろう。


 テネブは城中にあふれる亡き妻との思い出や、イーストンの子供時代のことを語りながら城内を歩く。

 イーストンにとってはあまり楽しい時間ではなかったが、たまの客人に喜んでいる父親の邪魔もすまいと、大人な対応で黙り込んでいた。


 テネブは途中で厨房に立ち寄り、客人が来たことを告げると、その先にある扉を開けて、ハルカたちを中に招き入れた。

 テネブが壁に付けられているつまみを捻ると、天井に下がったシャンデリアがぼんやりとした灯りをともして部屋を照らす。

 先ほどのランタンもそうであったが、埃もなく、設備に異常もないのは、テネブがヴェラとの思い出を大切にしている証拠でもあった。


「さ、自由に席に座ってほしい。私は元々細かなことを気にする方ではないが、今宵は無礼講としよう」


 ハルカたちが顔を見合わせながら席に座ろうとすると、テネブが奥の方へ引っ込んで、小さな椅子を一つ持ってくる。それは座るために足を引っかける段が用意されている、子供用の椅子だった。


「これは昔イーストンが使っていたものだ。ユーリ君だったかな、君にはちょうどいいだろう」

「ありがとうございます」

「うん」


 ユーリが丁寧に頭を下げると、テネブは嬉しそうに微笑んで頷く。

 とても物持ちの良い吸血鬼である。


 全員が席に着いたところで、簡単な食事と様々な飲み物が運ばれてくる。

 本格的な食事を準備する間のつなぎということだった。

 イーストンと出会ってからこれまでのことを、ハルカたちは隠すこともなく話していく。伏せたのは、ハルカが他の世界からやって来たことくらいだろうか。

 話をしているうちに、食事が運ばれてきて、会話のペースはゆったりとしたものになっていく。


 島国だけあって、海の幸が豊富な食事は、実にハルカの口に合っていた。

 それに合わせて用意されたらしいワインは癖が強くなく、香りは高く、するすると喉を通っていく。

 イーストンの話が出てくる時も出てこない時も、テネブは楽しそうに話を聞いて相槌を打つ。島で暮らしていると外の情報は入ってこないので、話を聞くだけでも新鮮で楽しいようだった。


 話が北方冒険者ギルドへ行った頃のところに差し掛かると、テネブが今までとは違う反応を返した。


「そういえば、シルキーはそこにいるのだったな」


 シルキーというのは、北方冒険者ギルドで、ギルド長であるテトを甘やかしている吸血鬼の名前だ。ほとんどの仕事をテトではなくシルキーがやっているようで、正直なところ北方冒険者ギルドでは、何かを決める時以外はテトが必要ないような状態になっている。

 もちろん吸血鬼であることは伏せられているようだが、そのシルキーは、イーストンの母親のことを知っているようだった。


「シルキーさん、昔はここにいたです?」

「そうだ……。ふむ、ちょうどいいからこの島にあまり吸血鬼がいない理由でも話しておくか。いやなに、隠していてやましいことがあると思われても困るからな」


 テネブはそう冗談を言って笑い、ハルカたちに一つ質問を投げかけた。


「吸血鬼は自然には寿命が来ない生き物だというのは知っているかな?」

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― 新着の感想 ―
すごくこう、お父さんって感じの人ですね。人の雰囲気を文章から感じさせるのは本当すごい。
昼間でもランタンが必要な城とか掃除が大変すぎる…。
こうして見るとウルメアの一族が言ってたうちの一族こそが吸血鬼の王に向いてるみたいなやつ正しかった気がするな ああ言うのって大体自分達を持ち上げて周りを下げるパターンが多いけど本当にその通りなの珍しい
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