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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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武芸者なので

 障壁を使えないとなると、今度は岩の壁でも敷いてゆく手を遮ってもいい。

 ただ、それをすると障壁を使っているのとさして変わらないだろうとハルカは却下。

 空から魔法を使い続けるという手もあるが、それも訓練にならないので却下。


 魔法らしい魔法は致死性のものが多く、そうでない魔法となるとウォーターボールだが、これもなんだか戦っている感はない。

 最近では電撃の魔法も、鉄羊のヘカトルを参考にしつつ、野生動物相手に練習してみることがあるのだけれど、人間相手にどのくらい効果があるのかはまだ分からない。

 これもぶっつけ本番でやるべきではないだろう。

 

 とりあえず、プエルの使っているランスのような形をした岩を正面からポンポンと飛ばしておく。これはいつもアルベルトたちとやっている時と同じような魔法の使い方だ。

 時折死角からの攻撃も混ぜてみたり、別の魔法を混ぜてみたりもするのだが、プエルは器用に避けたり弾いたり、時に食らいつつもきちんと距離を詰めてきた。


 近付くにつれて魔法の勢いを増しつつ、ハルカは両手に巨大な岩を纏わせる。

 普通にパンチをしても、力ずくのダメージしか出ない。

 どうせならば岩を纏わせて重量も加えつつ殴り倒そうという、非常に脳筋な発想から生まれた攻撃法である。

 プエルの場合は躱すよりも受け流すことが多いので、受け流しにくいようにインパクト部分は平らにしておいた。


 最後の数歩、というところで、プエルは急激に加速。

 これまで見ていたよりもゆっくり進んでいるのは、魔法を警戒しているからか、と思っていたハルカだが、どうやらこの急接近を成功させるために力を温存させていたのだと気づく。

 ランスの先端がハルカの肩付近に近付き、プエルはそこでぴたりと攻撃を止めた。

 技量が高いからこそできる寸止めであったが、そこで勝利を宣言しようとしたプエルの右から、巨大な拳が迫る。


「む!?」


 盾で迎撃すると同時に、同じくぶん回しただけの拳が左側面からプエルに襲い掛かる。

 そもそも魔法使いが腕に訳の分からない重りをつけて何をしているのか、とプエルは思っていたのだ。だからこそその拳が動いたことで、脳が混乱し、一瞬の空白が生まれていた。

 何とか左拳の一撃を防ぎきるが、右からの一撃はもろに食らうことになる。

 ここにもプエルの油断があった。

 本来ならば迎撃が間に合うところを、まず左拳の一撃で完全に体のバランスを崩されたのだ。

 ありえない威力。

 まずい、と思ったときには左半身に右こぶしの衝撃。

 岩が崩れるほどの威力の一撃は、プエルの体をまっすぐ横に吹き飛ばした。


「むっ、む! むぅ!」


 二度三度横転して、何とか立ち上がるプエル。


「魔法……?」

「プエルさん、寸止めしないでも大丈夫ですよ。私、体が丈夫なので」

「丈夫……?」


 一応戦いのプロフェッショナルであるプエルは、ハルカの言葉の意味が理解できず混乱していた。まず魔法使いが、当たり前に自分を殴り飛ばした意味が分からないのだ。


「説明が難しいのですが……、ええと……、ああ、そうだ」


 ハルカは手のひらを何もない空間に広げると、先ほどまでプエルに放っていたのと同じランス型の岩を、そこに向けて発射する。しっかりと足を踏ん張って、体が飛ばないよう角度を調整しての発射だ。

 ハルカの手のひらに衝突した岩は、勢いのままに自壊し、やがて勢いをなくしてぽとりとその場に落ちる。


「こんな感じです」

「……魔法使い?」

「魔法使いですが……、力もありますし、体も丈夫です。だから遠慮せずにどうぞ」

「むむむ、わかりません! ハルカ殿、ちょっと力比べをしましょう!」


 のしのしと戻ってきたプエルは、手を差し出して握手を求めてくる。


「これで引っ張り合う、ということですか?」

「はい、お願いします!」

「いいですけど……、コリン、合図をお願いします」


 ハルカからすれば、プエルが納得した上で勝利をすればそれでいいのだ。

 納得いくまで付き合ってやるしかない。


「はーい、じゃあ両者構えてー……、はじめ!」


 掛け声とともに腕を引かれたプエルは、当然そのまま地面を引きずられることとなった。プエルはハルカの手を握ったまま、またもその状態で停止。

 目をぱちくりとさせながらしばし「むぅううう?」と唸ってから、ゆっくりと立ち上がり、自分の手を見て、鎧のほこりを払ってからペコっと頭を下げた。


「負けました」

「あ、いいんですか」

「手の骨、今折れたので治してください……」


 力を入れて引っ張った拍子にバキバキといったようだ。

 ハルカは手甲越しだったので気付いていなかったが、差し出された手を見れば、鋼鉄製の手甲が変形しているのが分かる。


「あ、すみません、すぐ治します。手甲も直します!」


 ハルカが慌ててどちらをもなおしたところで、テロドスがやってきてプエルの肩をポンと叩く。


「どうだった」

「……分からないことばっかりで、全然だめでした!」


 プエルはがっぽりと兜を外すと、にっこりと笑いながらハルカの方を見て堂々と宣言した。


「勝てる気しないです! 強いです! わかりません!」

「うむ。もう余計なことはしないように」


 やや興奮しているプエルに対して、テロドスの言葉は果たして届いたのか。

 プエルはハルカの方を見て、再び深く頭を下げた。


「また相手してください!」

「あ、はい、また機会があれば」


 プエルにとって力の奥が見えない相手と出逢うのは、およそ十年ぶりくらいのことだ。

 最近では相手がどんなに強くても、どう鍛えていけばそこに届くかが分かるような相手ばかりで、そのために鍛え続ける毎日であった。

 しかしハルカとの手合わせは、そんなプエルの価値観をひっくり返した。

 それでワクワクできるというのだから、プエルは随分と冒険者に向いた性格をしているようだ。


 どうやら【竜の庭】の威厳は保てたようだが、神殿騎士との間に、新たに妙な縁ができてしまったようである。

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― 新着の感想 ―
痛みに強過ぎるだろ君ら…
神殿騎士辞めてきたので宿に入れてください!なんて言いかねないな笑 究極言えば立ってるだけでも負けはしないのヤバすぎ
手合わせ希望にあ、はいって答えちゃダメよw この手合いは毎日くるぞw テロドスさんから余計なことすんなって言われた直後だってのに…w
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