ドラゴンポートの件
手合わせを終えたところで、騎士たちの駐屯地を後にして、普段はあまり来ない、街の北側の店で食事をする。酒に合う濃い味付けの食べ物が多かったが、体を動かした後にはちょうどいい。
ハルカは帰り際にレジーナの表情をそっと窺ってみたが、結構すっきりとした顔になっていたことにほっとした。ちなみにすぐに顔を盗み見ているのがばれて、「なんだよ」とすごまれたが、もうさすがに怖くない。
無事に一大イベントを終えて、そのままギルドへ向かい、一応ラルフに近況を報告する。【ディセント王国】の近況などを伝えると、頷きながら熱心にメモを取っていた。
どこよりも早い情報共有なのだから、当然のことだ。
ハルカと付き合いがあるだけで、ランダムではあるが遠方の情報が次々と手に入るのは、ラルフにとってはかなり助かることであった。
「……まぁ、色々あるみたいですが、王国もそのうちに落ち着くと思います」
「ありがとうございます。……一応万が一に備えるように、北方冒険者ギルド本部まで、情報の共有をしておいても?」
「王国西部で内乱が起こっていることについてですよね? その隙に【独立商業都市国家プレイヌ】が、王国の不利益になるような行動を起こさないのならば結構です。情報は国防のためだけに使ってください。万が一何か起こった場合は、その行動を起こした人に会いに行かなければならなくなるので」
あくまで国防という観点に限っての情報共有を認める形だ。
友人であるエリザヴェータに迷惑をかけるわけにはいかない。
エリザヴェータ側からしても、口止めしていること以外は、仲良くしているラルフと共有していることは分かっている。そもそも内乱の情報など遅かれ早かれ伝わるものなので、エリザヴェータとしても隠すつもりはないのだが、念には念を入れての忠告であった。
ハルカとしても、【竜の庭】や特級冒険者である自分の影響力を、だいぶ理解し始めた上での発言である。
ラルフもハルカの慎重な姿勢に気が付き、少しずつ変わっているのだなと感じながら力強く頷いた。
「もちろんです。約束は必ず守ります」
「お願いします。……それはそうと、港を作っている話をしていたじゃないですか」
一通り他の地方での報告を終えて、ハルカは最近の拠点周りの話に移る。
「ええ、【竜の庭】の拠点のさらに北にですよね」
「はい。今ですね、王国から移住してきてくださった方とか、前にお話ししたドワーフのアバデアさんや、小人のコリアさんたちが暮らしているんですが……、名前を〈ドラゴンポート〉にしようかなと思ってます」
「いいんじゃないですか? でもなんだかそれだと……、竜たちの発着場だと思われそうですね」
「確かにそうですね……」
「あ、でも全然いいと思いますよ!」
ハルカが考え込んでしまうと、ラルフが慌ててフォローする。
この辺りの関係は昔とあまり変わらない。
「それ、いいかも」
そんな二人を置いて何やら考えていたコリンは、ぽつりとつぶやいた。
「何がですか?」
「拠点は拠点で私たちの場所として確保しておいて、あっちをメインに街として発展させるの。その方がよその人も入りやすいし、商売とかもしやすいでしょ。竜便の支店もそっちに用意してもらってさ……。育てる場所としては、別に拠点を使ってもらってもいいけどね?」
「……確かに立地としてはかなりいい場所なんだよね。これまで色々噂があって入植者がいなかったけど……、【竜の庭】が後ろ盾になってるって知られれば、その街に住みたがる人も増えるだろうし……」
「商人たちも自分の船を持ちたいって人多いし、【独立商業都市国家プレイヌ】の唯一の港町として、そんなに時間もかけずに発展させられると思う」
「何か大きな話になってきましたね」
今の規模を知っているハルカにはピンと来ないけれど、コリンやラルフにははっきりと未来の〈ドラゴンポート〉の姿が見えているようで、楽しそうに盛り上がっている。
「もし国の支援を得たいのなら【プレイヌ】で議会の話として取り上げてもらった方がいいですよ」
「あー、そうなるのかー……」
【独立商業都市国家プレイヌ】の街として育っていくのであれば、どうしたって事後でいいので承認が必要になってくる。一応国内の土地であるので、国の所属としてやっていくしかないのだ。
そうなると支援が得られる代わりに、面倒な行政などにも携わらなくてはいけなくなり、あまり好き勝手なことができなくなってしまう。
「うーん、それはちょっと気が進みませんね」
「そうだよねー」
「【竜の庭】でしたら資金もありますし、噂が広がれば、国とは関係なくあの街で暮らしたい人も増えるでしょう」
「それって……、国にとっては都合が悪かったりしませんか?」
話が進むにつれて雲行きの怪しさを感じたハルカが尋ねると、コリンとラルフが素早くアイコンタクトを交わして気まずそうな顔をする。
「まぁ、そうなんだよね」
「国としての収益は得られませんから。それでも頭の柔らかい商人であれば、うまくやるとは思いますが……、色々問題は起こるでしょうね」
「しばらくはこそこそとやっていきましょう!」
ただでさえ問題だらけなのに、海千山千の商人や、癖の強い冒険者と敵対している場合ではない。
ハルカはのんびりと港を発展させていくことを決めて、きりっとした顔で後ろ向きな宣言をしてみせるのであった。





