〈オランズ〉における、神殿騎士の方針
「申し訳ない。手合わせするという条件で許していただけると聞いたが、改めて私からも謝罪をさせていただく」
「すみません……、休みの日だからと目を離したのが失敗でした。普段は話のわかる部下を付けるようにしているのですが……。今後は休日も必ず誰かを付けるようにします」
「あ、もう本当に大丈夫ですから。今日はよろしくお願いいたします」
テロドスから謝罪の後、デクトからも今後の対策まで伝えられてしまって、腹を立てているわけでもないハルカはすぐにそれを受け入れた。
この二人から頭を下げられると、なんというか、上司とか、先輩とか、取引相手とか、本来謝らせるべきではない相手に謝られている感じがして、とても居心地が悪くなるのだ。
「プエルは基本的に人助けが好きで、何でもかんでも首を突っ込んでいくのだ。思慮に欠ける部分が多く、何度も言い聞かせてはいるのだが……」
「どうでもいいから早くそいつ殴らせろ」
レジーナが肩に〈アラスネ〉を担いだまま言ったところで、ハルカも頭を下げる。
「あ、すみません。こっちもこんな感じで、ちょっと態度が悪いこともあったりして……」
「いや、それも分かっていたことだ。こちらから余計なことをしたのが悪い。プエル、外で手合わせだ」
「はい!」
「では訓練場の方へ案内しよう」
テロドスの案内に従って一行は開けた訓練場へと移動する。
今日はこのために騎士たちを近づけないようにしているのか、拠点ですれ違うことはあっても、訓練場にはひとけがなかった。
到着したところで、プエルががっぽりと兜を嵌め、右の腕に上半身全てを隠せそうな盾を取り付ける。それから左腕に円錐状のランスを構えると、正に【鉄壁】にふさわしい様相となった。
〈アラスネ〉一本に修道服という身軽な装備のレジーナとは対照的だ。
「……その、プエルさんは強いのですか?」
「心配は無用だ。性格はともかく、その腕と防御力の高さは神殿騎士の中でも最上位に近い。あの【深紅の要塞】の再来とも言われている」
「カナさんの……。そんなに強いのですか?」
「……知り合いだったか、あの方と」
テロドスは難しい顔をして呟く。
カナは元々神殿騎士で、破壊者関連の話で、教会とケンカ別れをしているのだ。
ハルカのつぶやきは迂闊であった。
「冒険者なので」
「……そういえばカナ殿は、ハルカ殿の師であるノクト殿とも懇意にしているのだったな」
「テロドス殿も、お知り合いなんですか?」
「私が彼女の戦いを見たのは、彼女が教会を離れた後のことだ」
「カナさんは教会と揉めてやめたと聞きます。教会内でいまだにカナさんの話をする人がいるんですか?」
「いや、今はもうほとんどいない。だが、噂は残っている。強く、要塞のごとく傷つかず、変わり者であったと。そこだけ取れば似ているのかもしれぬな」
テロドスは何があっても、もうハルカたちを追及するつもりがない。
それこそ破壊者と手を組んで街を襲ってくるというのならば、戦うしかないと考えているが、穏やかな性格をしているハルカがそれをするとも思っていない。
だからこそ、この街にこれ以上過激なものを連れてこないようにして、平和な関係を維持していくのが自分の役割だと考えている。
破壊者のうちにどれほど強い者がいるか知らないが、少なくともテロドスは、ハルカの異様な強さの雰囲気を肌で感じ取っている。これは長年旅をしながら各地の戦いに巻き込まれ、冒険者をたくさん見てきたテロドスだからこそ持っている感覚だ。
敵に回してはいけない。
相手から友好的に接してくれているのだから、その手を取らぬ理由はない。
まだ存在してもいない、『破壊者の侵攻』という脅威のために、特大の敵を作り出す理由などありえないのだ。
「もしプエルさんにも怪我とかがあればちゃんと治しますので。お忙しいでしょうに、わざわざ時間を割いていただいてすみません」
「……いや、問題はない。私は【竜の庭】とは穏やかにやっていきたいのだ。それこそが今の私にとっての最重要事項だと考えている」
「ありがとうございます。……ご迷惑をおかけするつもりはありませんので、見守っていただけると助かります」
「〈ヴィスタ〉では色々と動いている者もいるようだからな。何か変わったことがあれば、報告はする。今日一緒に来ているレオンとテオドラに情報を持たせればよいのだろう?」
「……そうですね」
ハルカは何も否定せずに頷いた。
テロドスが様々な状況を理解したうえで、本気で自分たちとの争いを避けようと気をもんでくれていると判断したからだ。
それはきっと、デクトも同じなのだろう。
何かあるとしても、この人たちには筋を通すことにしようと考えているうちに、「じゃ、はじめー」というコリンの掛け声とともに、レジーナとプエルの手合わせが始まった。
レジーナに向けて、『勝ってもいいんですか?』と尋ねてきたプエルの実力が見られる時だ。
ハルカは内心でレジーナを応援しつつも、あまり無茶苦茶しないように祈りながら、二人の戦いを見守るのであった。





