第53話 お泊り会編⑬ 混沌の宴
未成年飲酒は駄目です
真似しないように
「ということで、飲んじゃうよーん!」
「待ってましたー!」
「全部安物だけど色々な種類のお酒があるよん! どんなのが飲みたい? 私はハイボール!」
「じゃあ僕もそれで!」
レイナは缶を開けると氷の入ったグラスを二つ用意して、そこにハイボールを注ぐ。
「どうしてよ……どうしてチカは……」
ユリは何かをぶつぶつと呟きながら、人差し指を動かして床に円を描いている。
「いじけてないで、ユリも飲もうよん!」
「……」
「ほらほら、何飲む?」
「じゃあワインで……何かお洒落そうだし」
ユリは周りの雰囲気に流され渋々酒を飲むことにした。彼女は正義感が強い人間なのだが、強引に押されると弱い性格の持ち主なのだ。
「赤と白どっち?」
「赤で……」
「はい、どうぞ!」
レイナはグラスに赤ワインを注ぎ、ユリに渡した。
「よし、全員に行き渡ったね? それじゃあ、乾杯をするよん! ユリ、乾杯はイタリア語で何て言うんだっけ?」
「えっと、確か……チンチンね!」
「いきなり下ネタ言うのやめてよ……」
「あなたが言わせたんじゃないの!」
「それじゃあ気を取り直して、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「乾杯……」
レイナの音頭に合わせて三人はグラスをぶつけ、カチンと心地の良い音を響かせる。
「ぷはー! このハイボールって言うの、ほんのりとレモンの味がして炭酸ジュースみたいな感じで美味しいね!」
リョウコはグラスを傾け、ハイボールをぐびぐびと飲み干した。
「でしょでしょ! 私も大好きなんだよね! もう一杯飲むかい?」
「うん、お願い!」
リョウコが差し出したグラスに、レイナが素早くお酌する。
「でもさあ家のお酒を勝手に飲んだりして、親にバレたら大変なんじゃないの?」
「お父さんもお母さんも中学生の時から飲んでたらしいし、多分大丈夫だよん!」
「そっかー。昭和生まれってそんな感じだもんね!」
「昭和生まれが皆そうな訳じゃないわよ! うちの両親は若い頃からちゃんと真面目だったわよ!」
「だからユリみたいな堅物が産まれたのか〜」
レイナの軽い気持ちで発した言葉がユリの心にチクリと刺さる。
「悪かったわね! 堅物で!」
「まあまあ、そんな怒らないでよん。さっきからユリ、一口もワイン飲んでないじゃん。早く飲みなよ!」
「あー、もう! わかってるわよ!」
ユリはヤケクソ気味に赤ワインを口に流し込む。するとその直後、ゲホゲホとむせてしまった。
「何よこれ! 喉の奥を焼いて溶かされてる感じがするわ……」
「赤ワインはアルコール度数が高いから初心者には難しかったかもしれないねぇ。特に安物は」
「それを早く言ってちょうだいよ!」
「んじゃあ白ワインにしてみるかい?」
「赤も白も変わらないでしょ!」
「いや、だいぶ違うよん。飲んでごらん!」
レイナは空いたグラスに白ワインを注ぎ、ユリに渡した。
ユリは受け取った白ワインを恐る恐る口の中はと運ぶ。
「赤ワインよりもさっぱりしていて優しい味わいね……けっこう美味しいかもしれないわ」
「でしょ! やっぱり、ワインを初めて飲む人には白ワインの方がおすすめだね! 赤ワインは、ブドウを皮や種も一緒に発酵させたものでね、白ワインは、ブドウの皮や種を先に取り除き、果汁だけを発酵させたものなんだよ! 赤ワインには白ワインにはない独特の渋みがあるよね。これは、黒ブドウの皮や種に含まれるタンニンと呼ばれる成分が原因で、このタンニンが赤ワイン独特の渋みを生み、味に奥行きを与えているのだ!」
「あなた随分と詳しいわね。もしかしてしょっちゅう飲んでるんじゃ……」
「さーて、何のことかなー?」
レイナはそっぽを向いて下手な口笛を吹き始めた。
「レイナ、僕にも白ワインちょうだい!」
「はいはい、どうぞ!」
「リョウコ、飲み過ぎて酔っ払ったりしないでよね。あなたが暴れだしでもしたら、誰も手をつけられなくなるんだから!」
「平気平気! 僕、お酒に強いから!」
「その自信はどこから来るのかしら……」
「リョウコは体が丈夫そうだし、きっとお酒にも強いでしょ! 私、つまみになる物とってくるね!」
レイナは再び部屋を飛び出し、台所へ走っていった。
「おっ、白ワインも美味しいね! ユリもハイボール飲んでみたら?」
「じゃあ少しだけ……」
「はい、どうぞ!」
「意外といけるわね」
「でしょー!」
レイナの帰りを待つ間、二人は色々な種類の酒を楽しんだ。
「たっだいまー!」
「おかえりー!」
「おかえりなさい」
「素晴らしいおつまみをもってきたよん!」
レイナはおつまみの乗った大皿を部屋の真ん中に置いた。
「それは何?」
「これはねえ……先祖代々受け継いできた丹羽家の伝統食、伝説のぬか漬けだよん!」
「伝説のぬか漬け! 名前からしてすごそうだね!」
リョウコは口からヨダレを垂らして、ぬか漬けを見つめる。
「うん、超美味しいよん!」
「どの辺が伝説なのかしら?」
「秘密のレシピと秘伝のぬか床を使った、伝説のぬか漬けなんだよん!」
「だからその秘密のレシピと秘伝のぬか床がどんな物なのかを……」
「細かいことは分からんよん! いいから食べて食べて!」
ユリの言葉を遮り、レイナは箸を差し出す。
「あ、はい……じゃあいただくわね」
「僕もいただきまーす!」
ユリとリョウコは箸をもらうと、大皿に手を伸ばした。
「このみずみずしいきゅうりと、甘味と酸味のあるぬか漬けがマッチしてすごく美味しいね! お酒が進んじゃう!」
リョウコはグラスの中に酒をどんどんついでいく。
「ナスも良いわよ! ぬか漬けにすることにナス独特の苦味が引き立って、深い味わいになっているわ!」
「美味しいでしょ、美味しいでしょ? 他にも白菜とか大根とか色々な種類のぬか漬けがあるから食べてね! アボカドなんて変わり種もあるよん!」
「いいねー! 酒もぬか漬けもじゃんじゃん行ってみよー!」
「今日は、私も飲んじゃうわよー! 明日から優等生キャラに戻れば良いわ!」
女子高生三人の飲み会は、ここからどんどんペースアップしていくのだった。




