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フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
3/311

1-03 集結 2

 リークは期待していた。リークはとてもとても期待していたのだ。

 一体どんなマシーナを自分のためにマイケルじいちゃんは用意してくれているのか、リークはと~っても期待していたのだ。


 マシーナにはランクがある。

 第一世代(ファースト)が持ち込んだマシーナは『オリジナル』と呼ばれ高い性能を誇る。『オリジナル』はさらに『プロトタイプ』と『スタンダード』に分類される。『プロトタイプ』は採算度外視で造られているため破格の性能を誇った。フォルデベルグ王国の『レッドゴート』、フェルミール王国の『ブリュンフィーダ』、モルーグ王国の『ガルーダ』、フリーの傭兵の『シャドウクレス』などが有名処だ。

 『スタンダード』は量産を前提としているため性能は『プロトタイプ』に劣るがそれでも優秀なマシーナである事に違いはない。


 『オリジナル』を模倣してこの世界で造られたマシーナを『レプリカ』と呼んだ。マシーナを造るには数々の精密な部品が必要であるが、第一世代(ファースト)の教えを受けたとは言えこの世界ではまだ作れないものが多かった。そのような部品は墜落した『天の街船』から発掘して利用されたが、『オリジナル』で使用している様な高度な部品は貴重であった。『レプリカ』は貴重な部品の使用を押さえ代用品を用い構造を単純にする事で『オリジナル』には劣るもののそれなりの性能を出す事に成功したのだ。


 さらに、第一世代(ファースト)の手を出来るだけ借りずに廉価な部品と簡単な製造工程で造る事を目指して設計されたマシーナを『ディフューザ』と呼んだ。『ディフューザ』は安かろう悪かろうであったが、ないよりマシという事でそれなりの需要があった。


 リークは悪くても『スタンダード』を与えられるのではと期待していたしそう考えたくなる理由があった。マイケルに与えられたシミュレータが『オリジナル』のものである事はバイザーモニターが使用されていた事から明らかだ。

 バイザーモニターはサンバイザーに透明なバイザーシールドが付いた形で外の様子がそこに映される。しかも顔を向けた方の景色が映るため全天が確認出来るのだ。このシステムは高度なコンピュータ制御が必要なため『オリジナル』以外では使用されていない。


 この日、リークはマイケルに倉庫に連れて行かれた。この倉庫は今まで立ち入りが禁止されていた場所だ。倉庫に行く途中で、ここにあるマシーナの名は『シューティングスター』である事、このマシーナの騎士としてフィリア姫に仕えるためにはフィスリニア王国の建国祭の武闘会で名をあげなければならない事を告げられた。


 マシーナが『オリジナル』なら余裕でマシーナ騎士として登用されるだろう。リークは意気揚々とワクワクしながら倉庫に入った。

なのに、なのに・・・


「・・・これ、『ドドー』じゃん・・・」

 リークの落胆は激しかった。

 そこにあったのは、『ドドー』であった。

 『ドドー』は『ディフューザ』の中では出来が良い方で、外観もある程度自由に出来た事から、最も普及しているマシーナのひとつであった、が、所詮『ディフューザ』である。


 この『シューティングスター』とマイケルじいちゃんが呼んでいる『ドドー』は全身カーキ色でずんぐりしており、とても騎士と呼ぶにはおこがましく工事用と言った方がしっくりきた。それでも辛うじて戦闘用と認識出来たのは、左腕に固定された方形の大型盾と、何故か両ふくらはぎの外側に付けられた方形の盾の様なものの存在のおかげだった。人型マシーナの場合にまず人の目が向けられる頭部は・・・めんどくさいのは嫌だと言わんばかりの造形であり、取り敢えず頭部と認識出来る最低限の形状の正面にカメラが付いていた。

 他の『ドドー』と異なる点がまだあった。全ての関節が厚手の布で覆い隠されていたのだ。マイケル曰く、「砂が噛まないように」とのことだった。


「色々と、何か、格好悪いよ」

「馬鹿もん。騎士とは格好でなるものではないわ。どんなマシーナでも操れてこそのマシーナ騎士じゃろ」

 リークは落胆しながらもマシーナ騎士になる機会を与えてもらった事を感謝する事にした。

 早速コックピットに乗り込んでみる。胸の位置にあるハッチは外のハッチと中の白いハッチの二重構造になっていた。コックピットのつくりはシミュレータと同じ見慣れたものだった。違うのは正面にモニターが付いている事と、シミュレータだとバイザーモニターが納められたケースが開かない事、それから・・・

「じいちゃん、この赤いボタン何?」

 見慣れない赤いボタンを指差すと、

「あぁ、自爆ボタンじゃよ。もしもの時は見事に散ってみせるのも騎士の務めじゃて」

 と、とんでもない事をサラリと言いのけた。


 それから3日程実機訓練を行った。

 最初に感じた重さや鈍さは払拭する事は出来なかったが、慣れる事は出来た。


 そして出立の日。

「じいちゃんは来ないの?」

 マシーナをトレーラー積み込みながらリークは尋ねるが

「爺離れせんかい」

とにべもない。

「建国祭には世界中から技術者(テクノマイヤー)も訪れる。よいか。『シューティングスター』の良さを判ってくれる技術者(テクノマイヤー)に出会えれば、きっとマシーナ騎士の道はひらけるぞ」

「はぁ、じいちゃん、よく言うよ。まぁ、取り敢えず頑張ってみる」

 と旅立って行った。

「おぅ、頑張るんじゃぞ」

 マイケルは、手を振りながら(全く、若者をからかうのは面白い)と意地悪く笑った。


 リークはトレーラーで学び舎のそばを通りかかった時、一人の少女が立っているのに気が付いた。

「リサどうした?」

 リークはトレーラーを降りながら声を掛ける。

「今日、行くって聞いたから・・・」

 リサは俯いたままでリークの顔を見る事が出来ない。

「もう、帰って来ない?」

「騎士になれなかったら帰って来るしかないさ」

 リークはリサの言葉の真意を理解しないまま返事をする。

「頑張ってね。きっと大丈夫だよ。お弁当作ったから食べて」

 リサは勇気を振り絞って顔を上げ、最高の笑顔でそう言って弁当の包みを手渡すと走り去って行った。


リークは首を傾げてトレーラーに乗り込むと、一路フィスリニア城を目指して走り始めた。






 フィスリニア王国の南にあるダリスタン共和国との国境沿いの山道を1台の大型トラックが荷台を幌で覆って走っていた。しかし今は真夜中でありこんな時間帯にこの道を行くのは後ろめたい連中、密輸業者くらいしかいない・・・はずだった。


「連中、釣られてくれますかね?」

片眼が潰れたスキンヘッドで強面の男がハンドルを切りながら声を掛ける。

「情報ではこの辺りに潜んでるはずよ。釣られてくれるまで何度でもやるわ」

 ブロンドの髪を腰まで伸ばした少女が答えた。

「しかし、姫自らこんなことをなさらなくても」

「こういう事は自分でやりたいの」

 トラックを運転していた摂政閣下、レオン=バフマンは隣に座るフィリア姫を心配そうに見やる。


「ポール、何か反応はない?」

 フィリア姫は無線で荷台に隠れているポール=ディースに声を掛けた。

「まだ何も反応はな・・・いや、お待ちを」

 ポールはレーダーを注視する。反応が一つ二つと増えていった。

「全部で・・・五つ。このトラックを囲むように接近して来る。間違いない。スニーキー隊ですな」

 その言葉にレオンは緊張を隠せない。

「ポール、抑える事は出来そう?」

「この動き・・・アクティブリンクは使ってない様ですな。噂通りやはり壊れているのか。となれば簡単です」

 トラックの窓からも、ガシュンガシュンとマシーナが走行する音が響き始め、道路沿いの木立の中に巨大な鳥が大地を走る様な姿をチラチラ確認出来る様になってきた。


 スニーキー隊。旧ダリスタン帝国の皇帝直属の部隊であった。スニーキー隊は隊長機の『スタンダード』の『オースティレン』と、その『レプリカ』である『エミュール』4機の5機小隊で構成されていた。

 そのマシーナは頭部と翼がない鳥の様な構造であり足の付け根付近から一対の腕が生えていた。鳥型の機動力は人型よりも高く対峙する者にとっては厄介このうえない相手である。それに加えてスニーキー隊には独自のシステムがあった、それが連動戦闘支援システム、『アクティブリンク』と呼ばれるものである。

 アクティブリンクは、敵に対する5機の連係機動を制御し戦闘を有利に運ぶためのシステムである。相手からすれば5機のいずれにも目標を定める事が出来ないままあらゆる方向から不意打ちを食らい続け、何も出来ずに敗北してしまう。数で勝っていたとしても結果は同じであった。スニーキー隊が無敵と呼ばれたゆえんである。


 しかし、そのような無敵部隊も大きな流れには逆らえなかった。民衆の蜂起による革命戦争が勃発し、周辺諸国に支援を受けた革命派により皇帝派は劣勢を余儀なくされた。スニーキー隊は皇帝直属の部隊であったため皇帝派として動かざるをえなかった。スニーキー隊は善戦したものの、最終的には、皇帝派はローデモング帝国に亡命を果たし、最後まで盾となって取り残されたスニーキー隊は家族と共に山中を逃げ回る事になったのである。

 その後、ダリスタン帝国に取って代わったダリスタン共和国の新政府は、スニーキー隊を犯罪者として全世界に指名手配したのである。


「走行中のトラック!直ちに止まれ!止まらねば破壊する!」

 大音量で警告が飛ぶ。

「はいはーい。言われなくても止まりますよ~ん」

 フィリア姫は聞こえない事をいいことに軽く茶化すと、手でレオンに合図した。

 トラックがゆっくりと停車すると5機のマシーナが取り囲むように近づいて来る。

「要求は、金、食料、医薬品だ。ある程度貰えれば手出しは一切しない」

 恐らく、それは事実だろう。フィリア姫が得た情報では、ある程度の金と食料を得れば満足してすぐ無事に解放してくれるので、安全に通行するための通行税と考えれば安いもののようだ。現に彼らが現れる様になってから危険な山賊は姿を消したという。皮肉な事に安全になった事で密輸業者が安心して活動出来る様になっていたのだ。因みに襲われるのは密輸業者だけであるため、被害届は一切出ていない。

(しかし、医薬品とは初耳だな)と首を傾げつつ、フィリア姫はポールに状況を確認する。

「バッチリですよ。真後ろの奴はもう逃げられません」


 スニーキー隊隊長オズワルド=マーレイは静かに次の動き待った。いつも通りであれば直ぐに差し出してくるはずだ。しかし今一番欲しい医薬品は無理かもしれない。となると危険をおかして町まで買いに行く必要があるか。

 オズワルドがそんな事を考えていると、静寂を破ったのは以外にもトラックの後ろを抑えていたビートだった。


「たっ、隊長!」

「どうした?故障でも出たか?」

 逃亡生活も既に1年半になる。その間当然整備が不可能であるため、あちこち不具合が出始めていた。

「さっきから、ロックオン警告のアラームが鳴りっぱなしで・・・どうしちまったんだか・・・」

ビートから報告を受けたオズワルドが対処を考える前に、思わぬ所から大音量で答えが返って来た。


「全機、動くな!動けば後ろの『エミュール』は木っ端微塵だ!」

声と同時にトラックの荷台の幌が跳ね飛ばされ、中から出て来たのは・・・

「レッ!『レッドゴート』だとぉ!?」

「何故、フォルデベルグ王国の筆頭騎士がこんな所にっ!?」

荷台から出て来た赤錆色の重騎士と言っても過言ではないそのマシーナは、紛れもなくフォルデベルグ王国最強の近衛騎士『レッドゴート』であり、その手に持つ大口径の銃は間違いなくビートの『エミュール』を捕らえていたのである。


(逆らえば、ビートはやられる。いや、間違いなく全滅する)

 オズワルドが、そう確信するには理由があった。

『レッドゴート』とは革命戦争の時に一度だけ対決した事があったのだ。その時は引き分けだった。そう、5対1でありながら、『アクティブリンク』を使っていながら、引き分けに持ち込むのが精一杯の相手だったのた。

 『アクティブリンク』が故障し、機体も疲弊が激しい今、一番出会いたくない相手と対峙してしまったのである。(マーサ、ミランダ、すまねぇ・・・)何の打開策も見い出だせないオズワルドは思わず妻と娘の名を呼び相手の出方を伺うしかなかった。


「右前方のマシーナ、『オースティレン』とお見受けしました。マーレイ隊長、降りてこちらに来て頂けますか?お話しがあります」

 オズワルドは訳が解らなくなっていた。

 『レッドゴート』の出現に始まり、若い女性の声に丁寧な問い掛け、さらにトラックから降りて来たのはまだ幼さが残る少女だったのた。

 頭の中の整理が付かないまま、オズワルドは『オースティレン』を降りて単身トラックに近づく。


「初めまして。私はフィスリニア王国の国主、フィリア=フェム=フォルニムールです」

(なるほど、『レッドゴート』との繋がりはそこか)

 オズワルドは少し落ち着いたが、さらに疑問がわく。

「そんな姫さんが何の用だ?」

 フィリア姫は少し微笑んで言う。

「先ずは前菜。挨拶代わりだけどこんなものでどうかしら?医薬品は情報になかったんで用意出来なかったけど」

と言いながら金貨が入った袋と食料が入った袋を渡す。呆気に取られるオズワルド。

「次がメインディッシュ。受け取って」

 渡したのは一通の封筒だった。


「これは?」

「招待状よ。建国祭でマシーナの武闘会を行うの。出場者の中から仕える者を選ぶのだけど、あなた方には仕える事を前提として来て欲しいの」

 俺達に姫に仕えろと言うのか。思わぬ展開にまた混乱する。

「判っているか?俺達は犯罪者で手配中の身だぞ」

 判っていながら雇うのであれば国際問題になる。

「主君への忠誠を尽くす事が犯罪と言うのなら、真っ当な騎士は全て犯罪者よね。手配に関しては何とかするわ」

「あなた方がまだ前皇帝に忠誠を誓っていたとしても、肝心の前皇帝達は亡命先で享楽に耽った末、既に謀殺されたわ。もうあなた方が仕える相手はいない。自由なのよ」

「私はあなた方がこのまま朽ち果ててしまうのが惜しい。いえ、ハッキリ言うわ。私はあなた方の崇高な忠誠心が欲しい。あなた方に私のそしてこの国の力になって欲しいの」

 自分の目をしっかり見据えて話しをするフィリア姫の姿にオズワルドは圧倒されていた。心が大きく揺さ振られる。


「し、しかし・・・」

「あなたは自分の子を山賊にしたいの?」

「そんなわけあるか!」

 オズワルドは痛い所を突かれて、思わず声を荒げた。

「私は仕えろと命令はしない。とにかく建国祭に来て、私や国の有り方を見た上で、その忠誠心を示すに値する相手か判断してくれればいいわ」

 フィリア姫は手を差し出し握手を求める。

「どうするか検討してみる・・・という事でもいいですかな?」

 フィリア姫は笑顔で頷き、二人はしっかり握手を交わした。

「ところで、あれ何とかしてもらえるか?」

「あ、ごめんなさい。忘れてた」

 フィリア姫がポールに手で合図し『レッドゴート』はやっと銃を下ろした。ビートは警告音がやっと止まった事で緊張が解けシートの中に崩れ落ちた。暫くは動く気力はないだろう。

「しかし、怖いもの知らずですな、姫様は。すごい度胸だ」

 オズワルドの感想にフィリア姫は意外な言葉を返した。

「馬鹿言わないで!怖かったわよ!脚震えてたわよ!でもね、先に進む為に必要な一歩なら這ってでも踏み出すわ」

 オズワルドの胸に突き刺さる言葉だった。


「ところで、医薬品とか言ってたけど、誰か怪我でもしてるの?」

「いや、娘・・・子供が3人、数日前から高熱で寝込んでいてな、熱が下がらんのだ」

 フィリア姫の顔が途端に険しくなる。

「今この辺で流行っている熱病だとしたらマズいわ。命に関わるわよ。すぐ近くのリド村、場所判るわよね、そこに今、王宮医師を派遣して治療に当たらせてるから直ぐに連れて行くのよ、いいわね!」

 詰め寄るフィリア姫にオズワルドは慌てて頷いた。


 三日後、リド村の仮設診療所のベッド脇の椅子にオズワルドは腰を下ろして考え事をしていた。ベッドには熱も下がり安らかな寝息を立てている娘、ミランダがいた。

「あなた、まだ迷ってますの?」

 花瓶の水を替えてきたオズワルドの妻、マーサが尋ねる。

 昨日、マシーナを運べるようにとオズワルド宛てに5台のトレーラーが届けられた。運んできた兵士に面会した際、見事な敬礼と共にキラキラした眼で、「マーレイ隊長。お目にかかれて光栄です。共に戦える日をお待ちしております」と言われたのだ。恥ずかしかったが久し振りの感触だった。

 オズワルドは、また胸を張って生きていけると思う反面、罠の可能性も否定出来なかった。罠だった場合、家族達にも危険が及ぶ、それは避けたかった。


「全く、何時もながら煮え切らないわねぇ」

 マーサは意地悪く笑う。

「どうせこのままじゃ野垂れ死にの運命しかないんだから、行ってみて損はないでしょ」

「なら、女子供は念のためここに残って・・・」

「何言ってんの!付いて行くに決まってんでしょ。子供達を助けて貰ったお礼を直接会ってしなきゃ礼に失するってもんでしょ。えっ?罠?なるようになるだけよ。言っとくけど女房達の腹はとっくに決まってるわよ。行くだけ行って向こうでの事はその時決めれば良しってね。後は男共の尻を叩くだけだって」

 笑うマーサにオズワルドは全く敵わんなと今更ながら思う。


 マーサは帝国が倒れるまで皇帝の宮殿の女官長であり女房どもは女官であった。マーサは誰に対しても歯に衣を着せぬ物言いをしたが誠実な人柄であったため皆から信頼される宮殿一の実力者だったのだ。かの皇帝もマーサの言うことには文句ひとつ言わずに従ったものだった。

 因みに、スニーキー隊の真の権力者は言わずと知れた女房達である。


「必要な一歩なら這ってでも・・・か」

オズワルドは腹を括った。


4日後、子供達が無事に退院した事を受けて、スニーキー隊は家族共々フィスリニア城へ向かったのである。






 フィスリニア城の城下にあるランドール村。この村には、村の規模に似合わず宿屋や食堂兼酒場の数が多い。理由はフィスリニア城に併設されている学院への客それに学生の利用者が多いためだ。

 しかし五日後から始まる建国祭では宿の数が足りなくなると予想されるため、学院寮の解放が検討され城での仮設宿泊所の建設が進んでいた。そして村の宿屋は建国祭目当ての客で埋まり始め、村は賑わい始めていた。


 村にある宿屋のひとつ『ハリウサギ亭』、一階が食堂兼酒場であり二階以上が宿屋になっている。

 今は昼時、食事の客で賑わっており女将はあっちに料理だこっちにエールだと大忙し。

 そんな中、扉を開けて一人の少女が入って来た。

「いらっしゃ~い。適当な席に座ってね~」

 女将の声が響く。

「えっと~、食事の前に宿をお願いしたいんだけど・・・後にした方がいいかな?」

忙しそうな女将を見て両耳の後ろで髪を束ねた少女は申し訳無さそうに尋ねる。

「あぁ、もう大丈夫よ。じゃあこっち来て」

女将は少女を階段脇のカウンターに案内する。


「何?建国祭の見物?」

「はい。建国祭の終わりまで居るつもりなので、10日、全額前金で払いますから、お願い出来ますか?」

「もちろん!前金はありがたいわ。まだ空きがある今のうちに来るのは正解だけど、建国祭が始まるまで暇じゃない?」

「私、この国は初めてだからアチコチ見て回ろうと思って」

「ここはいい国よ。きっと気に入ってもらえるわ。ところであなたは技術者(テクノマイヤー)なの?第二世代(セカンド)第三世代(サード)?」

少女は頭を掻きながら答える。

「いやぁ、しがない第四世代(フォース)ですよ」

「あら、でも大丈夫よ。姫様に気に入ってもらえればお城で雇ってもらえるわ。学院で学び直す事も出来るわ。第一世代(ファースト)の講師も居るからバッチリよ」

「ありがとう。いろいろ頑張ってみるわ」

「頑張ってね」

「ところで、女将さんに聞きたいんだけど・・・」

ミリーは身を乗り出して女将の顔を下から笑顔で覗き込む。

「お姫様って、どんな人?」

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