1-10 建国祭 7
フィリア姫が司令室にいた頃、アルとミリーは村から城へ戻って来ていた。二人とも書類がスッポリ入る位のバッグを肩から下げている。
二人は取り敢えず別々に行動する事にした。アルベルトは『シューティングスター』の調査を、ミリーは『オースティレン』の修理を、と考えていたのである。
「こんにちは。ちょっといいかな?」
アルベルトが『シューティングスター』の足元で昼寝を決め込もうとしていたリークに声をかける。
「さっきの試合、観させてもらったよ。なかなか善戦していたじゃないか」
アルベルトは『シューティングスター』を見上げながら探りを入れ始めた。
「善戦って言ったって、引き分けじゃあね。雇って貰うにはやっぱり勝たないと。でも相手が悪かったよ。『オリジナル』だもんな。『ドドー』じゃ『オリジナル』には勝てないよ」
はぁ~、とため息をつき、うなだれるリーク。その姿を見て、(この少年はこのマシーナを本当に『ドドー』だと思っているのか)とアルベルトは思いながらさらに質問を続ける。
「このマシーナは、どうやって手に入れたんだ?」
「えっと・・・あなたは技術者?」
自己紹介を失念していたアルベルトは非礼を詫びて二人は自己紹介を交わした。
リークは(ふ~ん、第四世代かぁ。それでも技術者には違いないから、じいちゃんの宿題は一つクリアかな)と思いながら、先ほどのアルベルトの質問に答え始める。
「俺を育ててくれてるじいちゃんが昔から持ってたみたいで、それを使えって」
「じいさんは第一世代なのか?だったら名前を教えて欲しいんだが」
「ごめん、名前は言えない」
リークはマイケルに口止めされていたのである。
「じゃあ、コックピットの中を見せてもらってもいいか?」
「構わないよ。ただ気を付けて欲しいのは右側にある赤いボタンに触らないように。自爆ボタンだから」
アルベルトは思わず苦笑する。
「自爆ボタン?それってじいさんが言ったのか?」
頷くリークを見て、(遊ばれてる。コイツはそのじいさんに色々と遊ばれてる)とアルベルトは笑いを堪えていた。
(これは想像以上だな)
到底『ドドー』のものとは思えないコックピット構造にアルベルトは驚嘆する。いや『オリジナル』でもこれ程のものをアルベルトはみたことがない。
(やっぱりあった)
ガサゴソと何かを探していたアルベルトは目的のものを見つけ出した。それは端子だった。アルベルトはバッグからデバイスを取り出し端子に接続する。『オリジナル』には大抵デバイスと接続するための端子が付いており、様々な調整がデバイスから可能となっているのだ。
アルベルトはデバイスのホログラムに次々と表示される『シューティングスター』のスペックデータに目を見張った。
(正真正銘の化け物だ、コイツは)
よく今まで隠し通したものだとアルベルトは感心する。
「何か、いいとこは見つかりました?」
突然、外のリークが声をかけてきた。
「どういう意味だい?」
「じいちゃんが言ってたんだ。コイツの良さを判ってくれる技術者がいれば騎士になれるってね」
(とんでもない食わせ物だ!こいつのじいさんは!)
アルベルトはガシガシ頭を掻いて溜息をつく。今判った。このじいさんのイタズラの矛先は技術者だ。なぜじいさんはずっと『シューティングスター』を隠し通してきたのか。なぜ今になって表舞台に出そうとするのか。そしてなぜこんな小細工で我々をおちょくっているのか。答えは既に闘技場でミリーが披露していた。
ミリーは言っていた。この国を創るために、学院や城が長い年月をかけて用意されたのだと。だとすれば、この国のために他に用意したものがあってもおかしくはない。そう、『シューティングスター』はこの国の建国のために用意されたマシーナなのだ。なおかつ、『シューティングスター』を餌に使って優秀な技術者を集めようとしたのだ。建国祭には多くの技術者が集まっている。その中から優秀な人間を選び出すテストとして『ドドー』擬きの状態で本質を見抜けるか否かの課題を、我々技術者は無意識に課せられていたのである。
「そうだな、まず判ったのは、お前のじいさんが相当なイタズラジジイだという事と、それから」
それから、ここまで事情が判れば、じいさんの正体はおのずと知れる。ミリーが話していたこの国に関わっている二人の第一世代、そのうちメカニックに精通しているのは・・・
「それから、お前のじいさんの名は・・・マイケル=スタンレーだ」
コックピットから頭を出して話すアルベルトを見上げるリークは最初キョトンとしていたが、すぐに、何故判った?と驚きの声をあげた。
「持ち物には名前が書いてあるだろ」
というアルベルトの冗談に対し、なるほど、と納得するリークをみて
(じいさんがこいつをいじくる理由がよく判る)
とアルベルトは妙に納得するのであった。
「まぁ、建国祭が終わるまで、俺がこいつの面倒を看てやるよ。それでいいか?」
というアルベルトの言葉に
「ありがとう。助かります」
と、素直なリークは感謝するのであった。
ミリーは、遠くから様子をうかがいながら『オースティレン』に接近する。隊長達は少し離れた所に集まって家族達と談笑しているようだ。ミリーは彼らの視界に入らないようにしながら『オースティレン』の前方左側面に立ち、そこに目的の整備用の小さなハッチを見つけた。
(うっ、開かない?)
ミリーはハッチを開けようとしたがどんなに力を入れても開きそうになかった。錆び付いたか戦闘による歪みによるものと考えられた。それでも何とか開かないかミリーが四苦八苦していると、突然後ろから声がかかる。
「お前、そこで何をしている?」
ミリーが振り返るとそこにいたのはスニーキー隊隊長であるオズワルド=マーレイだった。
「あっ、隊長さん!さっきの試合観てたら、この子何か調子が悪そうだなーって感じだったんで、ちょっと看てあげようかなーって思って」
ミリーはにこやかに親しげに話しかける。オズワルドは警戒の表情は緩めないが口調は和らいだ。
「お前、ミリーって言ったか。よくミランダと遊んでくれてる・・・気持ちは嬉しいがこいつは第四世代なんかの手に負える代物じゃねぇんでな。気持ちだけ受け取っておくよ」
「ミリーちゃーーーーん!」
ミランダが大声で叫びながら駆け寄って来た。後ろから母親のマーサも近づいて来る。
ミリーはスニーキー隊が到着した時から子供達や女房達と頻繁に接触していた事ですっかり仲良くなっていた。特に5歳のミランダはミリーにベッタリなのである。
抱きついて来たミランダを抱きかかえほっぺたをスリスリすると、ミランダが文句を言い始めた。
「ミリーちゃんは今日はどうしてミランダの所にきてくれなかったの?ミランダ寂しかったんだから」
ゴメンゴメンとミランダを抱きしめるミリーをじっと見ていたオズワルドは警戒の表情のままミリーに話しかけた。
「お前、以前にどこかで会ったことないか?」
ミリーは目を丸くして隊長を見つめた。
「隊長さん!それってもしかしてナンパですか?!マーサさん!どうしよう。私、隊長さんにナンパされちゃった!」
マーサが「あんた!」と叱りつけ、ミランダは「ミリーちゃんはあたちのものよ!」と訳の判らない事を言い始めた。オズワルドは「そんな訳あるか!」と顔を真っ赤にして言い放つと、他の隊員の所へ逃げ込んだのだった。
「絶対にあった覚えがあるんだが・・・」
オズワルドが頭を掻きながらぼやくと、それを聞いた副隊長のデクスターが同意する。
「隊長もですか」
「って、お前もか?」
「俺だけじゃありません。俺達全員です」
スニーキー隊の隊員全員が黙って頷く。
「あの娘、どっかで会ってるのは間違いないんですが、皆、思い出せないんですよ」
「どこでだ?ダリスタンか?」
「だと思います」
「共和国の工作員かも」
「若すぎるだろ、誰かの恋人だったって事は?」
隊員が口々に意見を出すが、一向に有効打は出なかった。
「とにかくだ。あいつは何か目的があっても女房子供に近づいて来たのには間違いない。全員警戒を怠るな!」
オズワルドの命令に全員が頷く。
「隊長、それとは別に、一つお耳に入れておきたい事があります」
ハンスが口を開く。ハンスは情報を拾って来るのが得意だ。
「摂政閣下と城の職員の話を立ち聞きしてきました。距離があったもんで単語くらいしか拾えなかったんですが・・・『デラゼル鉱山』とか『引き換え』とか・・・」
オズワルドは腕を組み考える。
「デラゼル鉱山と言えば、フィスリニア王国とダリスタン共和国の間で所有権争いをしている所だな・・・」
「隊長、やっぱり罠ですよ。この国の連中は、俺達の身柄と引き換えにデラゼル鉱山を手に入れようとしているんですよ!早くここから逃げましょう!」
焦るビートをオズワルドが制する。
「逃げてどうする?今度こそ本当に山賊になるか?」
誰もが俯いて沈黙する。
「先に進む為に必要な一歩なら這ってでも・・・か」
オズワルドが体を伸ばす。
「あの姫様なら、女房子供達が酷い目に合うことはねえだろ」
オズワルドは決心したように笑った。
ミリーはミランダをあの手この手で何とか引き離し、アルベルトと合流し並木の根元に二人で腰を下ろす。
「アル様は如何でした?」
「ああ、色々と面白かったぞ」
アルベルトは事の顛末をミリーに話した。
「建国祭のどこかで派手に御披露目させてやるさ」
「それは楽しみですねぇ」
楽しそうに話すアルベルトにミリーは笑う。
「ミリーの方の首尾はどうだった?」
「失敗失敗。やっぱりコッソリってのは難しいですね」
「だったら自分の正体を明かせばいいじゃないか」
「いやぁ、しがらみが出来るのがいやなんですよ。まあ、私がやらなくても学院が何とかしてくれるでしょう」
「それでいいのか?あれはお前の」
「いいんです!!」
ミリーが思わず叫ぶ。沈黙するアルベルトにミリーは後悔の表情を浮かべ、「ごめんなさい」と俯いて小さな声で謝った。
「別に何ともないぞ。気にするな」
アルベルトはそう言ってミリーの頭を撫でる。ミリーはアルベルトにそっと寄り添った。
「こうしていると、あの時の事を思い出します」
ミリーが遠い目をして呟く。
「そうだな。あの時はもっと寒くて、周りに誰もいなかったけどな」
アルベルトもそう言いながら、誓いをおこなったあの日の事を思い出していた。
フィリア姫はマシーナや簡易宿泊施設が一望出来る城の一室で、窓にもたれながらボーっと外を眺めていた。
これだけのマシーナや人々のなかで、どれだけのものが使い物になるのか、考えただけでも憂鬱になってくる。さらに憂鬱にさせたのはサモンのあの態度だ。ミリーの何が悪いと言うのだ。理由が聞けないのでは話にならない。
フィリア姫は眼下の一角に視線を留める。そこにはミリーとアルベルトが寄り添って座っていた。フィリア姫の目に、今のミリーはとても儚くすぐにも消えてしまいそうに見える。フィリア姫は考える。今の儚げなミリー、闘技場で見た頼もしくて愉快なミリー、サモン達が恐れるミリー、どれが本当のミリーなのか?それとも全てがまやかしで本当のミリーはもっと別の何かなのか?
そう考えた瞬間、フィリア姫は全身が総毛立つような悪寒と言いようのない不安に襲われたのだった。
フィリア姫は悪いものを祓うかのように激しくかぶりを振る。私が自分の勘を信じなくてどうするのだ。世間の評判など当てにならぬとシオンの件でミリーが教えてくれたではないか。そもそも私だって世間の評判を操作し騙したではないか。だったら、自分に正直に動けばいいだけだ。
「よしっ!」
とフィリア姫は自分に気合いを入れ直す。
「とは言っても、どうやってミリーをその気にさせるかが問題よね。サモンに言われなくても怒らせるのは論外だし
、焦らずじっくり腰を据えて・・・って、おい!ちょっと!!アイツはなにやってんの!!!」
慌てるフィリア姫の視線の先には、ミリー達に接近するレオンの姿があった。




