一日経過すると全てリセットされる。プという男
見習い魔術師ユルは、これまでに触れたことのない未知の属性の古代魔術を習得すべく、過酷な修行の日々を送っていた。修行は今も継続中で、本日はついに5回目となる、本物の古代魔導具を用いた実戦訓練の日を迎えていた。
しかし、指導役である高位魔術師「プ」は、一筋縄ではいかない極めて偏屈な人物であった。かつてプ自身がその魔術を引き継いだ際も、気の遠くなるような年月を費やしてようやく制御に成功したという歴史があるにもかかわらず、ユルへの指導はあまりに冷酷だった。修行の初頭にわずか2回ほど呪文の概略を説明した後は、ただ無言で魔導具を動かす手元を見せるのみ。「すでに極意は伝授した。あとはお前が記憶するだけだ」と言い放った。
魔導具に触れてまだ5回目のユルに対し、プは容赦なく罵声を浴びせかける。
「魔力の紡ぎ方が遅すぎる!」
「おい、次はあのルーンを刻め。その次はあっちだ。すでに何度も説明したはずだろう!」
この王国内で、ユルが修めようとしている古代魔術の第一人者はプをおいて他にいない。そのため、ユルは毎日、時間を示す魔導時計を何度も盗み見ながら、胃を焼かれるような鋭い痛みに耐えていた。少しでも不敬な態度を取れば、プの機嫌を損ねて破門されかねない。そのため、常に卑屈なほどに頭を下げ、必死に機嫌を伺いながら日々を過ごしていた。
さらに厄介なことに、プの精神構造は特異であった。丸一日かけて彼の頑なな心の氷を溶かし、ようやく打ち解けて語り合える関係を築いたとしても、次の朝にはその絆が完全にリセットされてしまうのだ。翌朝に話しかけてもまるで初対面のような冷淡さに戻っており、正午近くまでは神に祈るかのように彼の機嫌を取り続けなければ、まともな会話すら成立しなかった。
ある朝、その日の詠唱手順について質問するため、ユルがプの作業机に近づいて声をかけた。しかし、プは完全に無視。魔導具の調整で手が離せないのかと思い、ユルが少し距離を置いて待ってみたが、やはり無視され続ける。仕方がなく、ユルは一度自席の伝書鳥を確認した後、意を決して再度歩み寄った。
「プ様、ご多忙のところ恐れ入ります。聖印の配置について、少々教えを請うてもよろしいでしょうか?」
そのへりくだった懇願により、ようやくプは重い腰を上げ、冷たい視線を向けた。
「ただ私の横にぼうっと突っ立って待っているような者に、私は一瞬たりとも時間を割くつもりはない。そのような甘えは、この聖塔では許されん」
それが第一声であった。(いや、最初に話しかけた時、完全に無視していたではないか)とユルは心の中で毒づいたが、言葉には出さず、深く一礼した。
「大変失礼いたしました。大魔術師様がお忙しそうに見えましたので、手があいた瞬間に改めてお声をかけるべきかと愚考いたしました」
こうしてユルは、今日も自らのプライドを削りながら、理不尽な修行の幕を開けるのであった。




