生命ある者たち その5
「貴方のことはこちらでも有名なのですよ。ブリューゲル殿。我々は瘴気と共存する術を探りましたが、貴方は真逆だ。そしてそれに対する答えも持っている」
ひらひらと首を狙う剣を避け、散弾銃で距離を取りながらブリューゲルは戦っていた。
「過分な言葉だ。君たちに比べれば、私にしていることは手狭だ」
とはいえ、あくまでも守勢に回れば持ちこたえる程度の実力しか兼ね備えていない。
「だとしても、尊敬しているのですよ。ああ、なんと残酷なのでしょう。天才は我々が積み上げたものを簡単に、無価値にしてしまうのですから」
「君たちの狂気に興味はない。私は……世界を救おうなどという野心を持てないからな」
信仰という言葉でいくら取り繕うとも、生存というもっとも偉大な願いであろうとも、それに耳を傾けるつもりはない。
「救済。そうです、救済なのです。しかし、残念だ。貴方たちは変わらず私欲にまみれているのですから」
「否定はしない」
協力すれば、もっと多くのことを成し遂げられるだろう。だが、それは信頼を前提としている。目の前の男にそのような誠意は感じられなかった。
「おや、簡単に追い詰められてしまいましたね」
「言っただろう。私はただの学者だ。戦士のように君たちを追い払えるわけないだろう」
「本当に、惜しいと思うのですよ。貴方ほどの実力があれば、こちらに来て頂ければ相応の地位と設備を提供できるというのに」
「残念だな。もっと早くに知っていればそちらに行く事もあったかもしれないが──」
「──私の求めるものを、君たちでは用意できないだろう」
「それは残念だな。だが、足掻くのはこれで終わりだ。手の者を貴方の客室に向かわせている。この意味が、分からないわけではないだろう?」
*
ティーネがお酒に倒れて、部屋に戻る少し前。
倒れた刺客をティーネの護衛についていた男が訝しげに見つめる。
「なんだこの、胡散臭そうな奴らは」
「全く、あの人はお嬢のことをなんだと思ってるのかね。というか、今どこにいるんだ? 人に任せておいて……あのジジイにチクってやろうかな」
そう言って男は愚痴った。
コハクも突然押しかけてきたよく分からない来訪者を叩きのめしたあと、その男に話しかけた。
「アンタは確か……」
「イェルクだ。お前らは安心して寝ろよ。こんなとばっちりに気にすることなんてねぇから。ほら、部屋に戻れ」
*
「客室? ……私は客室を用意してもらったわけではないが」
「ん? 何をいうかと思えば。お前には目をつけていた。入っただろう。」
「……」
ブリューゲルは客室に一つしか入っていない。そして、そこにいたのはティーネだったはずだ。確かに相手を舐めていたのかもしれない。
「逃げたっ?! 奴を追え!」




