第68話
脳天目掛けて振り落とされた剣の刃を、寸前で躱す。すると私がそうする事をあたかも予測していたかのように、今度は無数の短剣が私目掛けて投げられた。
「……シャドウマイグレーション」
私は小声で呟き、魔法を発動させた。闇属性魔法、シャドウマイグレーション。自らの肉体を一瞬だけ影のように変異させ、可動域などを完全に無視した動きが出来る魔法だ。人間じゃなくなっている私にはうってつけの魔法だ。
再び肉体が元に戻ったとき、後方で湿った芝生に短剣が落ちる音が聞こえた。目の前には、口から血を流し、悔しそうな表情を浮かべるシンシュさんがいた。
「……どうして、攻撃しないのですか」
「あなたじゃ私にはどうやっても勝てない」
シンシュさんが流血している理由は、さっき私が殴ったからだ。そうする気なんてさらさら無かったけど、あまりにもシンシュさんが戦えと言うので、歯が折れない程度の強さで一発かました。そうすれば大人しくなってくれると思いきや、そんな事は無く。
「こんなの、わたくしは認めません……! この程度の実力で……ウェリカ様や、オルシナス様と同じクラスに……なれるはずがありません……!」
こう言って、一向に引き下がろうとしないのであった。
殺せ。
「――!?」
私は今、何を考えた?
突如として脳裏に浮かんだ言葉に気を取られていると、頬に鋭い痛みが走り、ごしゃりという鈍い音が聞こえ、ねばねばとしたものが付着した感触がした。左頬を殴られて、地面に倒されたのだと、遅れて気がつく。
「本気で……やってください……そうじゃないと……わたくしは……」
潰せ。
そんな事、私は望んじゃいない! 顎の下を蹴られる。
怒れ。
恨め。
目覚めろ。
そうして殴られ続けて意識が混濁していき、次第に何も考えられなくなった。
戦え。




