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第54話

「うーん……」

「あ……」


 ケーキを食べ終え、あてがわれた部屋へとまた戻ってきた俺は、一人ベッドの上で魔物化現象や誘拐事件に関してどのようにして調べればいいのだろうかと考えていた。


 幸いここは国内有数の学術都市であるホプキンス領の領都だし、図書館に行けば何か有用な資料が見つかるかもしれない。明日馬車に乗る前に立ち寄ってみようかな。


「ね……」


 でもレイノの事だって気になるしさっさと帰って話をしたいという思いもある。あ、念のためもう一度ホプキンス魔法学校に行ってロレッタに――。


「わあああああ!」

「え、あ、ウェリカか……」


 浴場から部屋に戻ってきたのか、緑色で長めの髪をしっとりと濡らしてぴったりサイズのバスローブを身に纏ったウェリカが変な声を上げながら俺の身体を揺らしてきた。わずかな水滴がぽしゃりと俺の顔に掛かり、肩が湿る。


「ちゃんと拭いとけ」


 仕方なくベッドに転がっていた手ごろなタオルを手に取りそのままウェリカの髪をわしゃわしゃと拭く。


「わあああ!?」


 ウェリカが驚いた声を上げるが、タオルで顔が隠れているのでどんな顔をしているのかは窺えない。


「やめなさいよ!」


 やがてウェリカは怒ったように言って俺から強引にタオルを奪い取り、乱雑に床に放り投げた。


「髪が濡れたままだと臭くなるし痛むのよ」


 と、冒険者だった頃リリサが口癖のように言っていたのをよく覚えていたのでそのまま復唱した。


「な……何よ急に……」


 ウェリカは若干引いていた。


「とりあえずちゃんと拭くなり乾かした方がいいと思うぞ」

「自分でやるから!」


 そう言ってウェリカはベッドから降りて、タオルを拾って自分で髪を拭き始める。ところで床に落ちたタオルで髪を拭くのはありなのだろうか、多分なしだと思うけど。


「……ねえ」


 なんて思っている間にウェリカはタオルを丁寧に畳んでクローゼットの片隅に置くと、眼鏡越しではない素顔の瞳で俺の顔をじっと見てきた。


「今、何考えてたの」


 そして、そう問うてくる。


「明日はどうしようかとか、レイノの事が心配だなとか色々と」

「ならいいけど」


 ウェリカは俺の返事を聞いて満足げに鼻を鳴らすと、再びベッドに乗り、俺の真正面で女の子座りになる。俺も真似しようかと思って姿勢を変えてみたけど、関節が痛くなるので普通にあぐらをかいた。


「明日はどこ行くの?」

「市街地の図書館にでも行こうかなって思ってる。学校のには無い本もありそうだし」

「いいじゃない! あたしが最強になるための方法が書かれてる本も見つかるかもそれないし!」

「んな――」


 都合いい本ある訳ねえだろと言いそうになったけど、あまりにもウェリカの顔が明るいので言えなかった。


「……でも、結局その本にも、大事なのは気持ちだって書かれてそうね」


 表情を曇らせたくなくて言えなかったのだが、勝手に自嘲して曇ってしまった。きっと昼間ロレッタに言われた事が引っ掛かっているのだろう。


「あんたはさ、あたしの力、怖いって思ってる?」

「思ってねえよ」


 俺が答えると、ウェリカは無言で手の平を突き出した。


「だからって魔法を俺にぶつけようとするな」


 魔力が高まる気配を感じたのでやんわりとウェリカの手首を掴んで下げる。そういうのは普通に怖いからやめてほしい。


「ぶ、ぶつけないわよ!」

「どうだか」


 ちょっと言い淀んだ辺り怪しいが、それはそれとして。


「恐れるな、自分の力を受け入れろ――って言うのは簡単だけど、難しいよな」


 事実、その力のせいでたくさんの人を傷つけてしまったのだから、今から気持ちを切り替えろと言われても厳しいものがあるだろう。


「……あたしは」


 ウェリカがだらしなくベッドに倒れ込み、横になりながら口を開く。


「アルがあたしを受け入れてくれるなら、あたしも自分を受け入れられる気がするの」

「受け入れるよ」


 ウェリカは再び起き上がると、少しだけ近寄ってきた。


 いや、ていうか。今。


「俺の事、アルって……」

「わ、悪い!? ノーネ様もそう呼んでるんだからいいでしょ!?」


 キレ気味にウェリカが俺に指をさしてきた。今回は実際に指で俺の肩をずしずしと突き続けてくる。


「別にいいんだけど、なんでいきなり?」

「い、いいでしょ別に。あたし、あんたの妹なんだから好きに呼ばせなさいよ!」


 どこからともなく眼鏡を取り出して掛けるウェリカ。前から思ってたけど、こいつ眼鏡掛ければ俺の妹になれるとでも思ってるのだろうか。何か手段とか色々と間違っている気がしてならない。


「そうだな」


 だけどこれ以上ツッコんでもキレそうだなと思ったので俺は適当に頷いておいた。


「だ、だから……その……! あたしは、あんたのお兄ちゃんで!」

「何言ってんだお前」


 さすがに今のはツッコまざるを得なかった。


「あの、その、だから……もういい!」


 ウェリカは恥ずかしそうに毛布を全身に被って姿を隠した。


「ウェリカー?」


 俺が名前を呼んでも返事は返ってこなかった。


 このままだと俺、ソファーで寝る事になるんだけど……まあ、いいか。


 たまにはソファーで寝るのも悪くない。俺はそう自己暗示して、ソファーの上で仰向けになり、目を閉じた。ちょうど良く身体が沈むふかふか感で、肘掛けの高さも絶妙な具合だ。


 実際、悪くないかも……ふぁあ。

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