第40話
意識が戻ってから三日後、俺は無事に退院する事が出来た。そうしてすぐにシンシュさん操るカノンちゃんに乗って再び国境を越えて、ウェリカと共に学校まで帰って来る事も出来た。
「ちょっとあんた!」
のは、いいんだけど。
「あたしの身長じゃ届かないから何とかしなさい!」
「わかったよ」
ウェリカから厚めの本を渡されると、踏み台の上に上がり書棚の上段にその本を入れる。
学校に戻ってきた翌日、俺とウェリカは誰もいない図書室で書架整理をしていた。
「他に入れる本あるか?」
「他に? 多分これね。…………ねえ、なんで書架整理なんてやらされてんの!? 図書委員でも何でもないのに!」
ウェリカは台車から本と手に取って俺に渡しながらもっともな事を言う。
「数日無断欠勤した罰なんだから、これで許されるだけマシに思わないと」
「あんたはそうかもしれないけどあたしは退学してからまた復学したって扱いなのよ!? 無断欠勤も欠席もしてないんだけど!?」
「まぁ……余計な手間と心配かけさせやがって……みたいな感じじゃないか?」
「随分あやふやね!? 理事長は何て言ってたのよ!?」
「退学を余儀なくされたお前と連れ戻しに行った俺の安否をめちゃくちゃ心配してたみたいで、次にこういう事があったらまず私に相談してって釘を刺されたよ」
「結局理事長に相談しなかったあんたが悪いんじゃない!」
「いきなり退学したお前が悪い」
「不可抗力よ!」
ウェリカは怒りながら俺の足を下から本でどついてきた。俺は黙ってそれを受け取ると、書棚に入れた。
「…………でも……ありがと……あのまま退学になるのは……嫌だったから……だから……あんたが来てくれたとき……すごく嬉しかった……」
ウェリカは俺から目を逸らしながら、また本を差し出してきた。
「俺も嫌だったよ。お前と別れるのは」
俺はそう言いながら、本を受け取る。
「な……なに言ってんのよ……!?」
だいぶ棚が埋まってきたけどまだあるか? と思ってウェリカを見ると、頭を大きく上げて、なぜかじんわりと顔を赤く染めていっているウェリカと目が合った。
「お前を最強に出来ないまま終わるなんて嫌だからな」
「そ……そうよね……あたしが最強になれないのは……嫌よね……」
「……なりたくないのか? 本当は……」
「なりたい! なりたいわよ! あんたと一緒に!」
「そ、そうか……ならいいけど……」
大声を出してきたと思ったら、ウェリカは「下段はあたしがやるから……」と小さな声になりながら言った。俺はそれを聞いて高い踏み台から降りる。
「ねえ……やっぱりあたしと……フィオラさんを重ねてるの……?」
邪魔にならないよう踏み台を持ち上げてどかそうとしたら、後ろからウェリカに話しかけられた。
「重ねてない……って口ではどうとでも言えるけど、嘘臭いなって自分でも思う」
目の前にいる女の子は死んだ妹が目指していた理想に近い。それだけの話で、妹とは別人で似てもいない。
そうやって自分に言い聞かせて続けているけど、どこかで妹のように扱ってしまっている自分がいる。事あるごとにお兄ちゃんと呼ばせて懐かしさに浸ろうとしている自分がいる。それは、認めるしかない。
だけど。
「もっとお前の事を知っていきたい、俺の妹ではない、ウェリカ・クラウディアという女の子と触れ合っていたいって、思ってもいるよ」
「触れ合っていたいって……あ、あんた何言ってんのよ!?」
自分の身体を両手で押さえながら後ずさるウェリカ。
「別に物理的に触れ合いたいって意味じゃねえよ! もっと一緒の時間を過ごしていけたらいいなとかそういう意味だよ!」
「い……一緒の時間って……あんた……」
決して変な事は言ってない気がするが、ウェリカの後ずさりは止まらない。警戒してる野良猫みたいにこのままどっか行くんじゃないかって思ってたら駆け寄ってきて一気に距離を縮めてきた。
「だったらこれから毎日! あたしに魔法の特訓をしなさい!」
そして俺に指を突きつけて、こう言ってきた。
「……毎日は大変じゃないか?」
「大変でも努力しなさいよ!」
「無茶苦茶だな!」
「あたしを最強にしたいんでしょ! だったらそれくらい頑張りなさいよ!」
「お前が頑張らなきゃ意味無いだろ!」
「あたしも頑張るから! ほら!」
ぐいぐいと本を俺に押し付けてくるウェリカ。
「わかったよ」
俺はそう言って、本を受け取った。
「なら今度回復魔法教えなさいよ。また撃たれたときあたしが治療できるし」
「もう撃たれたくないよ俺!?」
「じゃあ相手に銃を撃たせないようにする魔法教えなさいよ。あるでしょ?」
「あるけど思考操作魔法は難しいぞ。俺も使えないし」
「あんたには無理でもあたしなら使えるでしょ」
「そうだな。でも……やめとこう」
「なんでよ!?」
教えたら世界中の人間を思いのままに操れる魔王になってしまう。
俺が見たいのは世界に君臨する魔王じゃなくて、世界最強の風魔法使いだ。いや、世界最強になったらそれ即ち魔王である事になるのかもしれないけれども。
……とりあえず、世界の命運のためにも、回復魔法を教えてやろう。




