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第31話

 息苦しい。


 肺に酸素が入っていかない。


 なんとか呼吸を整えようと試みる。


 心臓が激しく鼓動して気持ち悪い。


 目をぎゅっと閉じて不快感に耐える。


 吐きたい。


 胸に溜まったものを全部出してしまいたい。


「…………レイノ……?」

「あ……オルシナスちゃん……何かな?」


 意識が遠のこうとした瞬間、オルシナスちゃんに声を掛けられてはっと我に返る。


「顔色が……悪い……」

「えっと……それは……」


 どうしよう……。聞いていいのかな……、こんな事をオルシナスちゃんに……。それとも……もう……知っていたのかな……。


 知らなかったのは私だけ……だったのかな……。


「気分が悪いなら早く自分の部屋に戻って寝るといいよ。ウェリカの事は……先生とカトレアとかいう不審者に託すしかないだろうね。せめて無事に戻れるようボクたちは祈っておこうよ」

「……そうじゃなくて……」


 もう……言ってしまおう……。私は鼻で深く息を吸った後、口を開けた。


「先生って……レイクレイン家の……人なの……?」

「うん……家族は全員……魔物に殺されたって……聞いた……」


 尋ねると、オルシナスちゃんは間髪入れずにそう言った。


「そう……なんだ……」

「アルドリノールって名前の時点でもしかしてとは思ってたよ」


 遠くでストレリチアちゃんの声が響く中、私は重い身体をなんとか持ち上げて、ドアまで向かう。


「私……部屋に戻るね」

「ああ、おやすみ」

「……おやすみ」


 ストレリチアちゃんとオルシナスちゃんに告げて、私は部屋を出た。


 *


「あああ……ああぁぁあ……ががああはっ……!」


 自分の部屋に戻るとすぐにトイレに駆け込み、喉元までせり上がってくるどろどろとした塊を吐きだそうと便器に向かって口を開けた。だけどどれほど待っても嫌なものは出ず、ただただ苦しいだけの時間が続いた。


 仕方なく隣の洗面台で水を口に含んで喉を洗い流す。目の前の鏡に映る私は、黒い瞳から一滴の涙を溢していた。


 泣きたいのは、先生の方だろう。


 だって……私は……。


 特殊な錬金術で作られた眼鏡を外して、普段は隠されている自分の本当の瞳の色を見る。


 赤い。


 自分で見るのも嫌になるくらい、赤い。


『瞳が赤みがかっていたり、気性が荒くて人間に対して強い攻撃性を示したり、魔力の塊で杖の材料にもなったりする魔石が体内に含まれていたりってのがあるな』


 魔物についての授業のとき、ウェリカちゃんに魔物の特徴について聞かれた先生が言っていた言葉を、思い出す。


 私は……。


 私が……。


「殺した……」


 そう口にした瞬間、急激に酸っぱいものが湧き上がり洗面台に刺激臭を伴う塊を滝のようにぶちまけた。びしゃびしゃと顔に飛沫が無数に飛び掛かる。


 まるで、あの日浴びた血しぶきみたいに。


「私が……先生の家族を……殺した……」


 魔物だ。

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