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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第三章 「王国に眠る秘密と観測者」 Episode.Ⅰ-Ⅰ 《灰色事件》
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【#074】 Phantom Part.Ⅰ -灰色の猟奇《前篇》-

●灰色事件編[序章]●

別視点から犯人を追い掛けるミステリー系ファンタジー開幕です


 数日前のこと。


◇王宮都 ジュエリーロード◇


「お客様、こちらの商品は如何でしょうか?」


 チョビヒゲの宝石商は、金持ち貴族のボンボンのバカップルを見つけては何時も通りの接客で定価以上の金額で売り付ける悪徳に加えて押し売りする。

 そんな商売を続けていたら当然、告訴されても可笑しくないのだが相手は羽振りの良い金持ちの道楽貴族。多少値が張ろうとも恋人や奥方の虚勢を張りたい紳士の顔付きを直ぐに見破ってしまうからこそ、誰も何もしないのだ。

 チョビヒゲ宝石商の遣り口はこうだ。

 定価の倍額で売り付ける。それは高い。と言われれば、ああだこうだと宝石の付加価値やお客の興味ありげな話で話題を切り替える。ある時は倍額にした金額から二割引きするが、それでも定価価格の八割が売上となる。

 ジュエリーロードで開業している宝石商の凡そ二割がこの遣り口を使って売上を稼いでいる。この遣り口に近衛兵が気付くことはない。例え頭の回る冒険者に気付かれたとしても、ウヤムヤにしている。

 まあ、大抵は冒険者が宝石を欲しがるのは稀で大きなトラブルにはならないのだが今回ばかりは違っていた。


 チョビヒゲ宝石商は、自分の目利きにはかなり自信があったにも関わらずお客の雰囲気が何時もとは異なる。今も既に二割引きしている。時間だけが過ぎていく中で男性客がいないことに気付いた瞬間のことだった。

 ジリリリリ。と警鐘音が店中に鳴り響く。目視や嗅覚をフルに使っても出火が原因ではない。強盗に入られた形跡もない。

 これはいったい全体、どういうことだ? と思い自衛の為に態々高い金で雇ったボディーガードを動かすが原因は結局判らず仕舞いだったのだが、目眩が生じて気付いたときには・・・防犯セキュリティが全面解除されていた。

 店の売上の硬貨は手付かずだというのに、宝石や貴金属などの商品がごっそり消える。それだけではない。記憶がないのである。自分だけではない。雇ったボディーガードも防犯魔具も『事件』の記憶・情報が一切ない。

 チョビヒゲ宝石商は、この手口を知っていた。知っていた。と言ってもあくまでも噂の範囲で知っていた。要は鵜呑みにしていたのだ。

 惨劇。宝石商にとってはまさに、その言葉が良く似合う。記憶喪失なんてのは、カリスマ的な自分にとって家族が失われる以上の大失態でありプライドをズタズタに傷つけられた。猟奇である。


「盗賊風情がヤってくれる。

 おのれ! おのれ、灰色の猟奇めが!」



    △

    ▼

◇シェンリル王国 最下層 酒場「小悪魔のルビー」◇


「ガハハハ、また出たらしいじゃねぇーか」


「らしいな。

 灰色の猟奇、盗賊か。盗賊団かは知らねぇーが、オレ等からすればイイ気味だぜ!」


「全く、だぜよ。

 安くて冷てぇ酒がありゃあ一日が乗り切れるって言うのに、ボンボンの道楽貴族どもは宝石をふんだんに使った装飾品に拘りやがる。

 元を辿りゃあ、オレ等冒険者が必死になって討伐したモンスターの素材や宝石の原石だぞ。安い賃金が、技術だけで稼ぐ鍛冶職人に負ける。ヤってられるかってんだ!」


 酒に溺れた熟練冒険者たちは、次の安酒とカエル唐揚げを摘まんで仲間や同じ穴の狢の戦友とで、最近噂の盗賊の話から金銭の話へと話題が変わる。そんな時に店へ入ってきた冒険者は、呑んだ暮れている熟練冒険者の座るカウンター席の隣へ腰を下ろす。

 三人の中でも悪酔いしたボガーは、隣に座った如何にも自分たちよりも金持ちな冒険者に絡んでいく。

 ボガーを含めた熟練冒険者たちの装備の素材は良くても『鋼』がいいところ。それなのに入ってきた冒険者は、『黒鋼』というツーランクも上の装備をしている。彼の持つ片手剣の凝った装飾やピアス型の魔導具なんてのは、いくら熟練冒険者と言えど貧乏人と変わらぬ自分たちにとっては敵でしかない。


「よう、兄弟!

 オレ等と一杯ヤろうぜ!

 勿論、金はそっち持ちでよ~。そんだけ金持ちアピールしてんダ。オレ等だけじゃねぇ~、酒場にいる客全員に奢るぐらい分けねぇ~よな!」


 木樽のコップを片手で持って冒険者の肩に回して絡むボガーの言葉に、酒に溺れた仲間以外の冒険者たちも賛同する。

 奇声と酒を上げて異様な空気が生まれる中で店内の隅でチマチマと御猪口に透明な水を注いでは飲んでいた男に悲劇が襲う。立ち上がって奇声を叫ぶ冒険者たちの荒い行動の性で陶製の徳利が落ちて割れたのだ。

 ガチャン。と割れた音が酒場に響く。

 兎耳の店員が音源の場所に早速向かっては、謝礼と掃除を始める。新しい席とサービスに新しい酒を用意したのだが、当の本人は元凶の冒険者のさらに隣席へ腰を下ろす。

 キョトン。とする兎耳の店員に酒場のオーナーは、遊び半分に尖ったモフモフ兎耳を摘まんで他の持ち場へ行かせる。


 オーナーのルビーは、サキュバスと人間[ヒューマン]との間に産まれた半魔。妖艶な美貌で客人をもてなす接客対応がウリで、売上は奴隷市場でも上位を飾っている。

 オーナーという立場上、常連客の情報は友好的な情報屋から仕入れている。だから悪酔いしているボガーと他の仲間たちだけでなく、黒鋼装備の冒険者や日本酒ばかり注文する東洋風の着物男性客が何者か知っている。

 どちらも有名人だからこそ、これ以上大事には至らないことを知ってアイコンタクトで冒険者に一任すると、こんなのはガラじゃない。と溜め息を着くのだった。


「アンタも大変だね。麦酒が好みかい?」


 溜め息を着く冒険者に着物の男性客は、木樽のコップではなく高価なグラスを注文して白く極め細やかな泡が印象的な最高級の生ビールで歓迎する。

 それをふざけるな。とカウンターを叩いて大きな震動を生んで、またもやグラスを倒すかに見えたがビクとも動かない。


「ア゛?」


「なあ、若造。

 冒険者ってのは、口で語るもんじゃねぇ~よ。それは吟遊詩人の遣り方だ。剣で、拳で偉業の達成と伝説を作るのが冒険者だろ」


 頬と額に血管が脈打って浮き出る程の憤怒の感情を晒して、拳を振り上げるもそこから身体が全く動かない自分が分からないボガーは瞳孔を開いて彼を見る。

 着物の男性客は、向けられる敵意ある視線は知っているが見向きもせず平然とグラスに注がれた生ビールを口にする。


「か~、旨い! この爽やかでキレのある喉ごし、生ビールも悪くない。

 仕事明けのビールを嗜む冒険者の気持ちがよく分かる。そうは思わないか?」


「て・・・てめぇ」


「酒場は暴力の場じゃない。その辺で止めませんか、ハナミチさん。

 勘弁してくださいよ。貴方が本気になったら、この奴隷市場で止められるのは元冒険者のリファイアさんか。兵士長のレコンぐらいなもんだ」


 ハナミチという着物の男性客は、グラスの生ビールを片手にこの地方では珍しいツマミの魚介類の刺身を箸で食べ進める。懐かしい名前の響きに、度数が非常に高い泡盛を注文する。

 トクトク。と陶製のコップに泡盛をルビーに注いで貰って一気に飲み干す。


「か~、最高!

 リファイアにレコンか~。懐かしいな。

 ・・・確かに酒場は、暴力の場じゃない。でもな、俺が奮ってるのはただの基本だ。この程度も抗えないヤツが熟練・・とは、基礎が出来上がっていても中堅層は脆弱だな」


 行使していた力を緩めて、ルビーに酒をアイコンタクトで求めたが断られてしまった。逆に冒険者が泡盛を勧めるので、それを受け入れることにした。

 動くことは出来てもアルコールが回って、よろめかせる足で逃げ出す仲間に怒りの矛先が向く前に泥酔するボガーを容赦なく外へ投げ出すルビー。


「この店にツケは効かないんだ。お代として『鋼』の剣と鎧は剥がさせて貰うよ。

 ボガー、アンタの短い伝説もここまでだね。次々と若い世代がアンタ等を越えて実績と伝説を作っていく。もう古いんだよ」


 ペッ。と唾を吐き捨てて店内へ戻っていく。

 トクトク。と注がれる泡盛を一口呑んで続きを語る前に冒険者が説明する。


「この国は元は領地であり、交易が進んだ貿易都市です。今の基礎足る基盤の新人冒険者の多くは、中堅層の俺たち熟練者が教育するがその大半は・・・」


 言葉を濁す冒険者にハナミチは、悪いな。と言って切り出す。


「戦争の血の味を知った上級者は、俺たちに戦い方を教えて貰ってはいない。トーマスも俺も磨いたスキルは、独特な自己流オリジナルがほとんどだ。

 国としての新しいシステムが中堅者以上の為というのは分かるが、改善されなければ犯罪は横行する一方だ。噂がここまで広がっているとなれば、深刻な事態が予想される」


 生ビールをクイッ。とイッキ飲みした冒険者トーマスは金貨三枚を置いてカウンター席から立ち上がる。


政策システムが今の事態を生んでいるなら、その犯罪者は俺が止める。灰色の猟奇なんて、ふざけたヤツは祭典の前に捕らえる。それが国の、新人冒険者の為になるなら尚更だ」


 苦笑して、


「俺が止める。なんて言うなよ。

 俺もこの件には、一枚噛まさせて貰うぞ。どうせ、ギルドから離れて放浪者の身だ。剣技を磨き、強者と対戦出来ればそれでいい。

 それにオマエから聞いたヒロキって言う開拓世代の新人も気になるしな」


 ハア。と溜め息を着いてトーマスはハナミチを見る。


「分かりましたよ。

 でも明日にします。酒が抜けないと、王宮都へは行けませんからね。それにアソコへは、冒険者ランクC以上でなければ門前払い。俺の顔パスで入れますから一緒でよければ付き添いますよ」


 おおう、任せた。と言って泡盛をさらにもう一杯飲む姿に呆れるトーマスだが不思議と後悔はなかった。寧ろ、彼ほどの剣技を間近に見れる機会チャンスを逃さまいと早々に酒場を後にするのだった。

 残された店内でハナミチは、ルビーと二人になったのをサバイバルスキルで確認して澄ました顔で問う。


「次は洋酒・・をもらおうか。

 なあ、ルビー。知ってて隠しているなら罪になるぞ。"灰色の猟奇"が盗んだ品のすべてが宝石と貴金属。貴金属の多くは金が三割と銀が七割。宝石を感知するスキルはなくとも、貴金属を感知できる術はある。

 五感の鋭い獣人なら匂いで追跡は可能だが、生憎俺は人間だ。人間ならバレないとでも思ったか?」


 新しいグラスにコポコポ。と澄んだ赤色の酒が注がれる。

 洋酒【ブラッドムーン】。吸血鬼が好んで飲むと言う熟成させたサクランボが原料となっている別名、処女酒や鮮血の酒と呼ばれている。


「"灰色の猟奇"は 、ね。

 ウチラの希望なんだよ。悪党なのは、分かってるけど宝石と貴金属をまるで魔法みたいに酒や煙草に変えてくれる。

 奴隷市場はさ、ボガーみたいに落ちぶれた冒険者もいるが中堅層の拠り所でもある。それが政策の犠牲になるなんて、あってはいけない。

 奴隷制度の撤廃が国王の望みであって、それをウチは受け入れられる。でもね。奴隷が居なくなったら困るのは、中堅層のウチラなんよ」


 知ってる。とは言えずハナミチはただ注がれた赤い酒を呑むことしか出来なかった。言葉の先にある責任が取れないからだ。

 通貨換金政策は、商人や遠くない未来で金持ちの上級者と政策が流通して世を知らぬ新人には有益だが、知を得ても小金しか持たず安定した収入を得られない中堅層は風当たりが強い。

 中堅層の中でも冒険者は、特に風当たりが強い。この地域での収入源は討伐依頼に限られるが、中堅層の冒険者では太刀打ち出来ずに金を得る前に命を落とすものが多いからである。

 最近、手配された黒結晶洞窟のモンスター討伐依頼もそうだ。

 『骸骨坊主の討伐依頼』は、報酬額金貨三百五十枚。『斑点黒蜥蜴の討伐依頼』は、報酬額金貨百枚。『亡者巣窟の掃討依頼』は、報酬額金貨四十四枚などなど。二年前までの討伐依頼は、現在の通貨に置き換えた場合、平均金貨四十枚に対してこの高騰で国を後にした中堅者が多い。


 これが優しい国の本当の真の姿――。

 でも、それは違う。

 中堅者が中堅者を貶めてなんになる。灰色の猟奇が、本当に中堅者を救おうとしているのか? もし、そうだとしてもこんな遣り方は間違っている。

 この発端は俺たち中堅者が止めなくちゃならねえ。


「ルビー、知ってることは話して貰うぞ」


 ハナミチの長い夜はまだ始まったばかりであった。


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