【#073】 Lord of Square Part.Ⅲ -青い薔薇-
●王宮都編【序章】●
研究者ヘレンの願いとは‥‥
いつもの明るい表情をしてヘレンと言う魔法工学の研究に取り組んでいる所長の元へ案内してくれるレインではあるが、態度がなんと言うかよそよそしい感じがした。
それは自分の置かれている立場上の問題もあるだろうが、他の何か大きなものが彼女をそうさせている気がしてならない。
国王守護部隊『魔導』の筆頭を担っていると言うことだが、実際彼女の仕事と言うのは構築能力をベースにした新しい魔法術式を作ること。本来の魔法は、自分の内側にある魔力や外界にある魔素をエネルギーとして扱い発動に至るもの。
即ち、魔法使いにとって個人の持つ魔法力の大きさが自分の将来を変えてしまう。それを変える。と言う目的の為かは知らんが構築能力をベースにするという考え方は悪くないし、俺自身に大きな得を感じる。
「な、なぁレイン。
聞いてもいいかな。此れから会いに行くヘレンさんって、どんな人なんだ?」
大きな意味はなかったのだが、何故かジト目で睨まれる。一旦止まったかと思えばまた歩き始め、語り出すのは俺の質問への答えだ。
「ヘレンさんは、ね・・・。
新しい魔法を開発する魔法工学のスペシャリストって言われてるの。恐ろしいけど大きな意味で強大な魔法。核撃魔法を編み出したのも彼女です。
残念ながら一般人に公開されていないので、論文は図書館の禁書庫に保管されていますけどね。
ああ、それとヘレンさんは既婚者だから手を出したらダメだからね!」
イヤイヤ、出さんよ。
それよりも核撃魔法なんてものは、初めて耳にした。一般人に公開されていないと言うからに、禁忌魔法? ランクはそれ以下と考えてもレインの言葉から判断して、危険な魔法なのだろう。
新しい魔法を開発するスペシャリストか。そんな人間がシェンリル王国に要るってことは、これもマイトさんの人脈あってのってやつか。
レインとの世間話で盛り上がって数分歩いた先の一風変わった未来的な部屋の自動ドアが開かれると、肌を突き抜けるのは寒気だった。
冷気と言った方が正しいだろうが、今の季節は夏だ。旅館で桜を見た気がするけど、あれはアレで万年咲いているらしく。そういう風に聞けば風流もクソもないんだが。
ここはファンタジー世界であって、現代の社会とは違う。例え同じ年を歩もうとも科学技術の進化より魔法工学が進んだこの社会でクーラー設備はない。あるのは冷暖房を魔法で生み出した魔法道具が世界の生活環境を潤してくれている・・・らしい。
ハァ、らしいしか言えんのが情けない。これも地下生活の弊害。世間知らずで開拓世代のプレイヤーと間違えられても仕方ねぇな。でも、この問題事を解決すればするほど知名度は鰻登りのはず。
まあ、それは置いておいてーー。
◇甲邱 魔法工学研究所◇
青い薔薇だ。
幾つもの白い素体【白金砂ブロック】で組み立てられた小さな植物園のように見える。水路があるところを見ると、地下水を汲み上げて薔薇に絶えず栄養成分の一つを与えているのだろう。
床一面に敷かれているのは、素体【白金砂ブロック】ではなく素材【白金砂】と味のある白い普通の煉瓦が円を型どっている。ここを作ったヤツは中々にイイ仕事をしているもんだ。と感心しているとジト目で俺を窺うレインがいる。
恐らくは俺の視線が彼女に向いていると勘違いしたのだろうけど・・・、まぁ確かに美人ではあるな。
白衣を羽織った白い髪の少女は、生い立ちから見れば美少女だがレインが言うには既に何百歳以上の白亜人[エルフ]らしい。
「ん?
ああ、話しはマイトの小僧から聞いておるぞ。御主が嘗て"黒結晶洞窟の英雄譚"として吟遊詩人に謳われた少年か。ひとりの人間としても実に興味深い存在だよ。
君は・・・魔法は使えないと聞いていたけど、どうやら"手段"を持っているようだね。
ああ、そうだ。そうだったな、我輩の名を語っていなかったな。我輩はヘレン、偉大なる賢者フェメルの末裔よ」
な!?
今、フェメルって言ったか。フェメルって言ったら、大賢者エルリオット=フェメルのことか?
レインを見るがそっぽを向いてしまう。どうやら、知っていたようだが隠す必要が合ったってことだろう。
答えてくれるかは分からんが、聞かなけれりゃあ結局は分からないままだ。
「ヘレンさん、貴方は・・・」
「その質問には答えよう少年。いや、もう年相応に青年と呼んだ方がいいか。
"水神湖の伝説"で死を迎えたエルリオット=フェメルは、オリジナルではない。そもそも、エルリオット=フェメルとはすべての弟子に与えられた隠語に過ぎんのだ。
我輩たちに与えられた使命は、世界を安定させること。時には破壊すること。またある時は秘密を解き明かす存在でもある。
師は我輩たち四十八の弟子に、こう言って姿を消した。
ーーー"王族の末裔に宜しく"と。でもな、我輩は宜しく。と言われて『はい、そうですか』とは言わん。噂も立証なしでは信じはせん。それが我輩よ」
ああ、なるほどね。
超が付く現実主義者だから、王族の末裔だという証明は自分でしろ。と言うことか。
エルリオット=フェメルの四十八の弟子。と言うのが真実ならマイトさんは、ギルド連盟側以上に秘密を知っていることになる。それでも尚、創成期の秘密を追っているのは本当に俺を守るためか?
疑いたくはない。
だがーー、いや止めとこう。今、疑っても迷うだけ時間の無駄だ。
「ああ、わかった。
それで問題事のクエスト『赤ガエルと青ガエル』について聞かせてくれないか?」
フフフ。と苦笑して青い薔薇の膨れ上がったひとつの蕾をハサミでカットして立ち上がる。
君に良いものを見せよう。そう言うと彼女は両手を広げて掌の上に、カットした蕾を乗せて構築能力を発動させた。
構築能力【加速】による成長効果を促進させての素晴らしくも美しい青い薔薇の開花。
構築能力【停止】による座標固定した環境の空気上の産物すべてを停止させたことでカチンコチンに凍って氷の花となっている。
「これは?」
「どちらも構築能力の影響を受けて、青い薔薇は美しい輝きを放ってそれを永遠に停止させた。繊細に扱わなければ、こんな風に簡単に砕け散ってしまう。
ここまで行ってしまえば、再生は不可能だが我輩の求める両生種カエルのフレヤフロッグとスプラフロッグは構築能力に対して絶大な耐性を持っていて実験には有効な生物だ。君には、両種を十匹ずつ捕獲して欲しい」
カエルを実験に使うとか想像しただけでゲログロだよ。全く持って研究者の思考は読めん。
「・・・・・・。
なあ、ひとつ聞いてもいいかな。この研究は【賢者の石】の生成方法を確立させる為か?」
「全く持って、君は面白いことを言う。
そのゴールに行き着いたのは、【賢者の石[プロトタイプ]】か? それとも・・・」
「いや、全部さ。
不可能と言われた【賢者の石】の生成。それに必要なのが素材だけではなく、構築能力というのはいい線だと思うよ」
という俺の言葉に二つの顔が目の前まで迫って来る。態とじゃないのは分かるが、美少女に美女は思春期を過ぎていたとしてもドキドキしちまうじゃんよ。
まあ、今の発言は俺が悪いんだがな。
いい線。まるで俺が生成方法を知っている風な言い方不味かった。
なんとか誤解は解いて分かって貰えたが、【完全なる賢者の石】の生成方法を知ったところで誰も得はしない。それにだ。ヘレンが作ろうとしているのは、【賢者の石】の効果を持つ新しい魔法の開発。
成功すれば人類の夢をひとつ叶えることになるだろう。ーーああ、そう言うことか。それで青い薔薇か。確か、青い薔薇の花言葉は『神の祝福』『奇跡』の他に『夢叶う』というのがあったな。
こんな無駄知識なんて、どうでもいいんだよ。問題なのは、どうして未だにレインがジト目で此方を睨んでいらっしゃるかだ。
◇王宮都 ジュエリーロード◇
採取セットをヘレンから借りた後、俺達は甲邱を出て王宮都の街道をぶらぶらしている。ぶらぶら。と言ってもクエストを達成する目的があるから効率を考慮して次の依頼人に会うべく飲食店に行く途中なのだが。
右も左も女の子が好きそうな宝石店。男なら一度は視線をズラして覗くのが関の山で入る事を躊躇ってしまう下着ショップ。高価すぎて目が眩む流行の女性服や紳士服のブランドがショーウインドウで輝いている。
私服姿の冒険者ほど目立つものはなく、視線が熱い上に痛い。まあ半分以上はレインの刺々しいジト目なんだけどね。
「あの、レインさん。
そろそろ目が怖いからさ。それ止めね?」
「ツンーー、知りません。
わたしは嘘つきと隠し事をする人と話すことはありませんが・・・・・・どうしたの?」
レインは立ち止まった俺を見て尋ねてくる。俺が立ち止まったのは、妙な気配を感じ取ったからだ。
追跡者ではない。
自分に向けられたものではないが、鋭い悪意を感知した。咄嗟に探知系スキルで索敵するも人混みがそれを邪魔する。そもそも、ここはフィールドやダンジョンではないから索敵なんて世界がそれを許さない。
俺の探知系スキルの発動に勘づいた近衛兵が此方に向かってくる。逸早く気付いた俺は咄嗟にレインの手を引いて、サバイバルスキル【隠蔽】で姿を眩ませるのだった。
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◇甲邱 謁見の間◇
分厚い扉を数度叩いて返答も聴かず入室した近衛兵は、真っ赤な顔で申し上げる。
「またです陛下!
『灰色の猟奇』が貴金属を奪い逃走。我等、近衛兵では力及ばずスキル発動を感知したのですが目標消失。どうか騎士殿の力添えをお願い致します!」
「ふむ、」
困惑気味の表情するマイトは、二つの事柄を気にしていた。
まず一つ目は、今回の一連の事件はおおっぴらにせず近衛の力だけで対処した方が良い。と言う考えの基に騎士団を動かさないでいたのだ。そもそも、この程度の犯罪は近衛だけで事足りると思っていた。それが今回で四件目というのは痛いところである。
二つ目に騎士団を動かさないでいた理由は、目立つからだ。騎士の単独行動は御法度故に団体行動は必須となれば、それが例え小さな事件でも噂が広まれば大きな事件となってしまう。
そうでなくとも、間もなく開催される剣舞祭の準備で忙しい彼等を動かすことは好ましくない。かと言って国王守護部隊『狩猟』を動かせば最悪の場合は、最後の最後には死体処理が待っている。
それを避けたい。と願うマイトは溜め息を着いて彼女に応対するように指令を出すことにした。
「わかった。
これ以上の失態は国の信頼にも、未来にも響く。流星騎士団第六師団団長フェイを極秘利に召集!」
ハッ! と行儀良く頭を下げて近衛兵は退出する。退出して直ぐに頭を抱えるマイトに、ソッと声を掛ける。またか。と振り返れば知った顔があった。
国王守護部隊『狩猟』筆頭の弟子。暗部である彼女に名はなく、与えられた隠し名が影の光明となる。
「鴉か、要件はなんだ?」
「差しでましいかと思いましたが、ご報告があります。王宮都で巻き起こっている強盗事件にーーー」
「・・・そうか。
ここで仕掛けてくるのか。やってくれる。だが今回は、二年前とは違う。領の緩みきった基盤は、国の基礎で上書きした。
覚醒した黄金世代の四神使いをワシは信じておる。鴉よ、"遺骸"は回収せよ」
闇に消える鴉を気にもせずマイトは、変身魔法で顔付きから背格好などの外見的特徴を変えた壮年風の冒険者になると、久し振りの自由行動を楽しみに出掛けるのだった。
盆休みがあれば執筆出来次第、投稿致します。
次話より●灰色事件編●がスタートしますので、よろしくね(=゜ω゜)ノ




