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HelloWorld -ハローワールド-  作者: 三鷹 キシュン
第二章 「水晶洞窟の冒険と奴隷少女」 Episode.Ⅱ 《黒結晶洞窟での英雄譚》
39/109

【#039】 Sacrifice -守る犠牲-

すんごい頑張りました。

本日、二話目の投稿です。通算で三話の投稿になりますね。

今回もシリアスでごめんなさい。

生きることの本当の意味。あなたは知っていますか?



 ロッククライミングを始めてから一時間が経過した。

 辛い。痛い。目が霞む。疲労がピークに来ているのだろう。それなのにまだまだ半分も登ってはいない現実に吐き気がする。グッと堪えて喉元まで来ている嘔吐物と水分を呑み込む。脱水症状で体力を奪われるわけにはいかないのだ。

 およそ分単位で下を見下ろしては、カエデがちゃんと着いて来ていることを確認する。

 え? どうしてカエデが下にいるのかって。それは女の子だからだ。なに!? 説得になっていないだと。スカートを穿いているからだ。ここまで言えば伝わるだろう。

 本来ならば、レインをおんぶした状態の機動力に欠ける俺が先行するよりは、身軽なカエデが一人で先行した方が効率がいい。しかしカエデの格好は私服だ。まあ、そこは俺もレインも同じだけどな。ミニのひらひらスカートを着用している。クロム辺りなら何も言わないかもしれんが、俺は言う。過去の経験からではなく、あくまで一人の紳士として俺が先行しているのだ。

 カエデからは、


「別に減るもんじゃないから、ヒロに見られてもいいよ」


 なんてことを口走るが、無視スルーしてピッケルを絶壁に突き立てた。

 女の子の考えることは、さっぱりだ。今度、クロムにでも相談すればいいとその時は思ったが、またあんな目に遭うのは御免だと。首を横に振って考えを棄てる。

 

 カエデが俺に追い着いたところでロッククライミングを再開するのだが、その前にカエデがレインの容体を見て場合によっては水分補給をしてくれている。その時に限り俺も【固定】で足場を作って休みを取って疲れをどうにか解消しているが、まだ先は長い。

 見下ろせば目視で凡そ百メートルは登っている。一方で見上げれば目視と計算上では凡そ三百メートルってところだろうがかなりゴールは遠い。

 諦めたくない。っていう気持ちはまだ強いが、心が挫けそうだった。

 自分の手を見る。マメが潰れて出血してもいれば、爪が割れて痛々しいことになっている。それはカエデも同じだ。この休憩を利用して、回復魔法【ヒール】で傷を修復するも痛みは消えない。疲労は消えない。

 

「ヒロ、大丈夫?」


 手鏡がないから今、俺がどんなやつれた顔をしているかは分からないけど、心配そうな表情で見てくるカエデの瞳に映って思い知った。

 ヒドイ顔だな。これが俺かよ。死んだ魚の目みたいだった。

 ここ数日、何も食っていないのだ。既にバッドステータス【栄養失調】【脱水症状】の性で体力は相当削れていた。自分の食料の多くを水分に変換させてレインに与えている。頬はゲッソリとして自分でも見るに堪えない。そんな俺にカエデは、近づいて来た。

 え? なに。何して!?

 抵抗する力もない俺にカエデは、口移しで水を飲ませたのだ。


「おま、なにやってんだよ!?」


 三本の指先で口を押えられて、言葉を止められる。

 頬を火照らすカエデは、もう片方の手で自分の口元を押さえてそっぽを向く。


「黙って。ウチな、知っとるんよ。

 ヒロが自分の食料を水分に変換させてレインに与え取ったの。ウチの水に手を付けんかったんは、ウチの為やろ。ヒロは他人に優し過ぎる。言うたやろ。もっと自分を大切にしいやって。

 飲まないんなら、ウチが強制的にでも飲ませたる」

「カエデ……」


 俺は自分で、自分の意志でカエデに抱き付いた。

 ありがとう。ただ、その一言を言いたかった。

 俺のそんな反応にカエデは戸惑いながらも、振り返って目を閉じて唇を差し出す。のだが、中々返事が返ってこない。不思議がり目を開けると、もう既にピッケルを持つ俺を見るなり溜め息をつく。

 ん? なに? って顔でカエデを見ると蹴りを入れられた。

 俺は何か変なことをしたのだろうかと頭を悩ませるが、


「もう、知らない!」


 と言って答えてはくれなかった。



 そんなこんなで………登り始めて、四時間半。

 漸くである。俺たちは頂上に着いた。

 頂上には小さな湖が出来ているが、よくよく見ると湖の下には洞窟というよりは水路が出来ているようだった。周辺を調査しても、あるのは絶壁に埋もれている鉱石や宝石の原石ばかりで、入り口らしいものは何もなかった。矢張り、この水路を辿る他なさそうだ。なので今日はここで今までの疲れを取るために睡眠をとることにした。


 幸いなことに、この湖には小振りではあるが魚が泳いでいたのでマイトさん直伝の釣竿が役に立つ。

 これもあの時別れ際に、餞別で頂いた品だ。バイモンから消毒に使ったが、揮発性物質を抜き取った薬草系の洋酒【悪魔の尻尾】。ゲイルから水分を多く含んだ食料を。これも既に役立ってくれている。マイトさんがくれたのは、【万能釣竿】。白金砂丘で俺を拾ってくれたのも、このアイテムらしい。砂だろうが、雲だろうが、川や滝に海だろうとどこでも使える釣竿とのことだ。しかも餌いらずというお得要素を持った名前の通り万能なのだ。

 カエデには【火打石】を預けて、水辺に行くと勢いよく釣竿を振るう。釣り糸はグングン伸びて滝の方まで行くとリールを使って泳がせて数秒後、浮きに反応があった。


{ヒロキは初めて滝釣りをしました。}

{初ヒット。食材モンスターを釣り上げました。}

{ヒロキはExp.100獲得。}


 早速釣り上げた魚の詳細を調べるべき「▽」をタッチして情報欄ウインドウを見る。


食材[古代魚];シルバーアロワナ

採取可能分布;アルカディア大陸『水晶洞窟』『黒結晶洞窟』

希少価値;レアリティー☆8[40,000C~]

カロリー;240kcal[100g]

栄養成分;整腸作用が含まれている。

特徴;小型魚を丸呑みするために下あごがせり出したような大きく開く口。

備考欄;淡泊で贅沢ほどの美味である。

料理スキル【塩焼き】【煮つけ】を鍛えた上で、焼き魚・煮魚がオススメです。


 む? 変だな。ダイア樹林帯の森林ポイントでは食した果実にしか出なかったはずだが。

 いや、待てよ。盗賊団の拠点で色んな本の中に、こんな記述があったっけかな。

 んん…? 待て。待てよ。このメンツで料理できる奴がいるのか?

 クロムの奴が言うには、器用値《DEX》が百五十を越えていれば誰にでも出来るらしいが。

 心配になって俺とカエデのステータスを確認する。


Status

Name;ヒロキ

Age[Sex];17[♂]

Tribe;人間[ヒューマン]

Job[Rank];放浪者[G]

Level;16

Days;14

DNALevel;3

Ability

HP;体力値2454〈-20%〉

STR;筋力値95

AGI;俊敏値124〈+15〉

VIT;耐久値140

DEX;器用値178〈+7〉

MP;魔力値0

Core;コア14

Tolerance;耐性【―――】

Penalty;状態異常【栄養失調】 

 

 いつの間にかレベルが上がってるし。でも、アクセサリーは着けてるけど私服だから能力値が下がってる。バッドステータス【脱水症状】は回復したけど【栄養失調】の性で、体力値にペナルティが着いてやがる。

 いま俺たちは一応パーティーを組んでいるのでお互いのイベントリを開いたり、ステータスを確認したり出来ている。

 カエデのステータスは、どうだろう。とウインドウを見ると、


Status

Name;カエデ

Age[Sex];19[♂]

Tribe;人間[ヒューマン]

Job[Rank];冒険者[D]

Level;29

Days;485

DNALevel;2

Ability

HP;体力値2780〈-20%〉

STR;筋力値90

AGI;俊敏値179〈+25〉

VIT;耐久値120

DEX;器用値149〈+10〉

MP;魔力値0

Core;コア3

Tolerance;耐性【―――】

Penalty;状態異常【栄養失調】


 なにこのステータス。めっちゃ高いんですけど。それに転生から四百八十五日って大先輩じゃんよ。むむむ。そういえば最初に出会った時、弓を持ってたな。それでこの器用値ってことか? 俊敏値《AGI》は俺よりも上だから回避技術は相当な筈だ。それでも爆裂魔法【ボルカニックアロー】を受けたってことは、レインを庇ったのだろうか?

 何にせよ。カエデも料理が出来るなら問題ないな。

 さて、一応はレインのステータスも見とくか。そう思いウインドウに目を向ける。


Status

Name;レイン

Age[Sex];18[♀]

Tribe;人間[ヒューマン]

Job[Rank];調合士[E]/放浪者[G]

Level;26

Days;73

DNALevel;2

Ability

HP;体力値1235〈-50%〉

STR;筋力値91〈-20%〉

AGI;俊敏値100〈+10+8-30%〉

VIT;耐久値95

DEX;器用値157

MP;魔力値109〈+10+5〉

Core;コア4

Tolerance;耐性【―――】

Penalty;状態異常【貧血】【高熱】【昏睡】【栄養失調】【脱水症状】


 レイン…。ごめんな。もう少しの辛抱だから。


 俺はイベントリから栗坊鍋を取り出して水を適量入れて火にかける。

 獲れたてのアロワナの鱗を丁寧に取って、腹部に包丁の刃先を入れて内臓物を取り出す。勿体ないと思われるだろうが、地面を掘って埋める。これだけ清い冷水でも、何を食っているか分からない以上は勿体なくとも捨てなければならない。

 煮込み易くするために、真ん中に切れ目を入れて、水と一緒に鍋に入れる。

 本格醤油。みりん。調理酒。臭みはあんまないけど、一応生姜を適量入れて中火で沸騰したらよく煮込む。十五分程度煮込んだら、二十分程度放置しておくと味が染みて、美味しく仕上がる。


「よし、アロワナの煮込み完成。カエデ、装ってくれ。俺はレインの様子を見てくる」

「任せてーや」


 俺たちは、小さいな。と思うことがある。

 人間は何かを犠牲にして生きている。

 俺が釣り上げたこのアロワナも。アロワナが口にする微生物バクテリアやミミズなどの餌も。

 何かを食して今日を。明日を。生きるために繋げている。

 何かを。誰かを救うために誰かを切り捨てる。

 俺はそんな世界がキライだ。でも生きていくのに必要なことだって分かってる。

 みんな生きているんだ。

 誰だって死にたくない。死にたくないから、抵抗する。

 明日どうなるかなんて俺には分からない。でも俺はいまを生きたいと思っている。

 カエデも。レインも。明日を生きるためにアロワナを食うし、モンスターを切り落とす。

 さも当然のように。

 俺はここで知れたのかもしれない。

 生きるという。本当の意味を―――。


 俺はレインの額に掛けていた濡れたタオルを交換する。

 熱は下がりつつあるようだが、ステータスには相も変わらず【高熱】とある。

 いまの俺にはこれくらいのことしかできないのだ。ごめんよ。と小さな手をやさしく握る。

 水を飲ませるために抱き上げて、ストローを唇に当てる。その時だった。

 瞼が動いた。

 開くその目に映るのは、美しい紫の瞳。


「!?」

「にぃ…?」


 レインは兄を呼びながらが目を覚ましたのである。


「あれ? にぃ、じゃなくて。ヒロキ? どうして、泣いてるの…?」

「………違うんだ。ただ嬉しんだ」


 俺は強く。強く。レインを抱きしめた。

 もう失いたくない。と願いながら、嬉しい涙を頬に光らせる。


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