【#040】 Tutorial -暗躍する師-
ちょっと長いかな。
次週、私情で家を空けるためにもしかすると、投稿出来ないかも知れません。
ごめんなさい。その分、面白いので最後まで読んで戴ければ幸いです。
何故か「流星」が「青龍」になってましたので改稿しました。
貿易都市シェンリル。
その中で必ず人が訪れる場所、それは「ギルド商会」である。
ギルド商会の大きな役目は、プレイヤーへの支援になる。リアルで言うところの役所・役場みたいなもので、初来場者にはギルドカードの発行。ギルドカードの情報を基に役員がより良い職業を紹介してくれる。
まあ、とは言っても転生者の多くはゲーム事情を知っているので大概は冒険者になることが多いのだけれど…。
役員の仕事は、ただ紹介するだけではない。それぞれ希望する職種に応じた系列の例えば、冒険者希望なら「冒険ギルド」へ。商人希望なら「商人ギルド」へ。魔法使い希望なら「魔法教会」へと手続きが必要なのである。
ギルド商会と商人ギルドの名前がよく似ているのだが、それは大きく異なる。
以上の説明通り、ギルド商会とは仕事場なのだ。役員の多くが事務スキル【会計】【演算】という特殊なスキルで仕事を熟し、○○ギルドにクエストを提示している。それに対して冒険ギルドや商人ギルドというのは、クエストをプレイヤーに紹介している。つまりは町内部のギルドの元締めがギルド商会になるのだ。
ただし、この町に本部を置く五人が作ったギルドは別である。
シェンリルの町を守っているのは、五つの勢力である。
一つ目は、領地の統治者セラフ=アンドリューの私有兵たち。兵士長ファルコム率いるギルド「黄金の獅子」総勢五百人。城の内部と外部の見張りを仰せつかっている。平均レベルは百を越える猛者たちである。
二つ目は、≪五芒星英傑≫の称号を持つガイアス=マギ=ドラゴンが作ったギルド「竜渦」総勢十人と少ないが平均レベルは二百五十の少数精鋭。ドラゴン狩猟クエストしか受け付けないとか。現在は、冒険ギルドの管理者ニナ=ドラゴンが一人で留守番中。
三つ目は、初代≪剣聖≫持ちの総帥ヘイハチ=トウドウの作ったギルド「流星騎士団」総勢五千人。金銭面のトラブルや商人と交渉する窓口を担う。第一師団から第五師団までが内部で構成され、師団長クラスはほぼ全員がレベル二百越えの騎士たち。
四つ目は、八代目≪剣聖≫持ちのベルンの作ったギルド「レオンナイツ」総勢三百二十九人。町で起こった暴行事件や殺人事件などのトラブルの早期解決を任命された。傭兵と戦士たちの平均レベルは、五十と低いが古参の戦士たちは二百。
五つ目は、魔法教会第六十三代首席のヴァンの作ったギルド「赤星聖教騎士団」総勢一万人、内半数が教徒。違法な麻薬ポーションや許可申請の必要な霊薬などを不正な取引・密輸をしていないかの監視を任命されている。魔法使いと僧侶たちの平均レベルは、五十と低いが連携による魔法連鎖で効力が上がる。
彼等は領地守護の為に尽力を尽くしているので、ギルド商会とは肩を並べるほど。
騎士団たちのクエストは、領主からの勅令やギルド商会からの依頼が多い。プレイヤー個人からの依頼となると、重要人物からしか受け付けない。それは何故か? 簡単なこと。信頼性に欠けると、報酬を焦らされるのだ。
なので騎士団の受付嬢は、分析スキル【見切り】で相手の力量を計るのだが、その日「流星騎士団」に訪れた人物はその必要が無かった。
「久しぶり、ヘイハチさんはいるかい?」
「は、はい。しかし、現在最上階の応接室にて接客中ですので…」
「そうかい。では失礼するよ」
「お‥お待ち下さい」
全身が黒装束のその人物は、接客中という受付嬢の言葉を無視して最上階向かう転送魔法陣の上に乗る。
受付ホールを監視する守衛騎士が複数人控えていたが、手を出す者は一人としていなかった。全員が受付嬢すらも知っていたのだ。その人物の強さを。
最上階のフロアには、組織の幹部上位者たちと客人しか足を運ぶことが出来ない。故に客人であっても受付嬢の許可なしでは、転送魔法陣で最上階にはいけないのが普通だがこの人物の前ではパズルゲームに等しい。
一瞬で術式を書き換え、最上階の廊下に出たその人物は問答無用で黒檀の扉を高い魔力量で黒い炭に変えて突き進む。
焼き尽くすレベルの魔力量にいち早く気付いた客人の護衛が、刃を向けるもそれさえ液状化させる人物は無詠唱で護衛を強制転送させる。
「な、何者だ貴様! 吾輩の護衛に何をした!?」
「よく吠えるヤツだな」
高貴な服装に身を包んだ男は、声を荒げるが冷静な言葉で返す人物は睨みに魔力を込めて幻惑魔法【魅了】で男を宥める。
部屋の奥で一連の流れを座って見ていた壮年の男性は、机の上で手の平を組んだまま呆れた顔で黒装束の人物の名を呼ぶ。
「相変わらず、急に現れる男だな。クルス。≪虚無の異端者≫よ」
【魅了】で意識を奪った高貴な男性をソファーに座らせて、幻惑魔法【昏倒】で意識を失わせる。
「無駄話はなしだ。急用でね。黒結晶洞窟に救出依頼をお願いしたい」
クルスの言う「黒結晶洞窟」という言葉に反応するヘイハチは、難しい顔をして答える。
「クルス。現状は理解しているだろ。現在、領主の勅令を受けて我ら流星騎士団を含めた三つの騎士団は勝手に動けん。そうでなくとも英雄祭の下準備に追われる毎日だ。それは出来ん相談だ。第一、君の実力なら余裕で…『悪いが、引き受けてもらうぞ』――理由を言え」
一呼吸置いて、クルスは創造魔法で空気を固めて見えないイスを作り座る。
目を閉じて溜め息をつき、再び目を開けて答える。
「ヘイハチは師弟関係について、どこまで知っている」
「なんだ急に。私も弟子ぐらい持っておる。
師弟関係とは、魔法契約に等しい部類のもので生と死の繋がりを共有する。好き勝手に関係を持てば、自分の死すらも覚悟しなければならない危険な契約だ。
弟子が死ねば、魂の繋がりは消失し師匠たる人物は永久に消えぬ苦痛と恐怖が襲う。実際に私の二人目の弟子は死に、呪いの代償を受けたものだ。
だが、クルス。お前はマイトさんの弟子だろ。好き勝手に契約は結べん。アレはそういうものだ」
「…確かに。俺が弟子を選ぶ権利はないがマイトさんは別だ」
「―――!?
おい、まさか。まさか、あのマイトさんが弟子を推薦したのか?」
クルスは首を縦に振って答える。
その返答にヘイハチは、頭を抱えて悩むその目はクルスではなく机の木目だ。
目を瞑るヘイハチは考える。師弟関係の恩恵を考慮して、クルスに問う。
「師弟関係はDNAではない。しかし師匠の力は、弟子へと受け継がれる恩恵は純粋な真価となる。マイトさん。マイト=ゴルディーの弟子は三人。それぞれには【王の資質】つまり『上に立つ者の才』が与えられる。お前の弟子にもだ。何を考えてるんだ」
「それだけの資質を備えた人間が現れたってことだ。マイトさんは言っていた。彼なら、黄金世代を纏められるとそう願って推薦したのだろう」
「答えになっていないぞ」
「………。
ヒロキは黄金時代最後の一人にして【竜の力】を有し、血液検査の結果上、古代人のDNAを持つ転生者だ。さらにだ。既に≪魔王の右腕≫と現≪剣聖≫に出会っている。ここまで言えば、理解できるはずだ」
驚きの事実に目を見開くが、「現≪剣聖≫」という言葉に沈黙する。
まだ、潜入作戦が失敗したという報告は受けていないが…、クルスの言葉に歯を噛み締めて押し黙ることしか出来なかった。
――のだが、空気を読まずに部屋に足を入れてきた人物にヘイハチはさらに頭を悩ませる。
「帰ったよ――」
その一言だけで入室して来たのは、悩みの種である現二十五代≪剣聖≫。当騎士団の第三師団の団長にして『役立たず』のレッテルを物ともしない問題児ユウセイだった。その斜め後ろで強面の表情を崩さないのは、二年もの潜入を終えて帰還した同団の副団長ゴザの姿があった。
ゴザは律儀に入室を済ませるなり、先客のクルスに一礼している。
「申し訳ありません総帥。団長にも申し上げたのですが…」
ヘイハチは何時ものことだから驚きの顔はない。しかし、クルスの言葉に苦々しく閉じられた口からは溜め息しか出て来ない。
ゴザは悪くない。と心の中で思いながら口を開く。
「構わん。報告せよ」
「はっ。結果から申し上げて、ギルド「シルバーファング」は今回の一件に一部関与しておりました。その証拠に取り押さえた品の中に麻薬ポーション数点と暗号化された巻物を入手。現在、解読班が解読中です」
「そうか、了解した。時に一つ問いたい。潜入作戦中、ヒロキなる人物に出会ったか?」
「ええ、彼の協力によって人質も無事解放しましたが…」
その言葉に口を頑なに閉じるヘイハチは、クルスをチラッと見て視線をゴザに戻す。クルスの表情が変わらないところを見ると、恐怖で背筋がゾクリと凍える。
ゴザは緊張した総帥の目を見て、頭の中で状況を整理するが一向に分からないでいたのだが、ユウセイがクルスの前に立つ。
「オイ、お前はヒロキの師匠だろうが!
魂の匂いで分かんだよ。
どうして弟子と同行していた仲間を見捨てるようなマネをした!?
ヒロキに何をした。答えろ!!」
ユウセイの言葉に一番驚いたのは、副団長のゴザだった。
魂の力の部類には色々あるのは知っているが、嗅覚でそれを分析していまの総帥の言葉を理解するとは思わなかったのだ。
クルスは苦笑して、下手に出れば心臓を抉られるような眼差しでユウセイを見る。
「滑稽だな。
ヒロキを見殺しにしたのは、僕じゃなく君たちだろ。
君たちが最後まで護衛としてキャンプ場まで送っていれば、救出依頼を出すことはなかった。でも感謝してるよ。地獄の底に落ちたことで更なる力を獲得できるのだからね」
「ふっざけんな!!」
ユウセイの正拳がクルスの顔面にクリーンヒットする。
「おい、行くぞゴザ!」
「…駄目だ」
そう言ったのは鼻血を啜るクルスだった。
その言葉に怒鳴り声を上げる寸前で、ヘイハチがクルスに問い掛ける。問い掛ける前、ユウセイに強力な魔法で口を強制的に閉じらせる。
「おおい――、『待て!』…ぐぐ」
「どういうことだ。
いまの黒結晶洞窟は、モンスターの繁殖期だぞ。若手の騎士に行かせるよりは…―――そうか、この一件に絡んでいるのか」
「そういうことです。
シルバーファングを傘下にしていた上位の組織。ヒロキは『奴隷商人』と推理しましたが、アレは非合法兵器を売買するブローカー。名前までは分かりませんでしたが、ホムンクルスを十数体と目視だけですが、恐らく人工的に開発した魔眼を所持しています」
聞き捨てならない「魔眼」という言葉に動揺の色を隠せないゴザとヘイハチは、より事態の深刻さを知ってか呼吸を荒くする。
ユウセイは口を開けようと必死だが、その言葉に口よりも足が出口に向かう。
それを阻止すべく、今度はクルスが氷結魔法でユウセイの手足を床に固定させる。
もごもご。と何かを言っているが無視してクルスは言葉を続ける。
「魔眼所持者は、自分の魔力ではなく遠方にいる魔法使いの心臓を代用して魔力を生成。現状で行使できる魔法は、火魔法の上級で爆裂魔法【ボルカニックアロー】を三度連射できるレベル。ホムンクルスの方は、推定レベル三十前後――」
「まさか…。そこまでの戦力をこの町に投入しようとしているのか。
………。ゴザ、至急いまのことを悟られず領主に報告せよ。事態は火急であると。ユウセイは待機。若手騎士カナタ・フェイ・ジーナを緊急招集せよ!」
「はっ!」
ゴザは氷で縛られたユウセイを連れて、部屋を退出した。
その際、ユウセイは口をもごもごさせながらクルスに反論しようとしていたが叶わず、クルスも冷酷な目を向けるだけだった。
二人が退出したところで席を立つヘイハチは、影に顔を落とし表情が読めないクルスの近くまで寄って問う。
「あそこまで言う必要があったのか? それとも本心のつもりか?」
「ヒロキは…。アイツは優し過ぎる。
犯罪者にも情が湧く程に、仲間を守るために自分を犠牲にするほどに。
その甘さはこの世界じゃあ通用しない。
これは僕とマイトさんが練ったチュートリアル最終章なんですよ。人間はどん底を知らない。底を。地獄を知った時、人間は本当の意味で強くなる。
それに…信じているんですよ。僕自身、彼の未来性を。彼がこれから掴んでいく。描いていく未来の先をね」
ヘイハチはその言葉を聞いて、何も言わなかった。
影に顔を隠したその素顔も見ずに目を瞑った。再び目を開けるとクルスの姿はなかった。代わりに自分の座っていた席。机の上に『救出届け』の依頼書が置かれていた。
Qカード;グレー☆10
依頼人[関係];クルス[個人]
依頼内容;ヒロキ・レイン・カエデ 三人の救出
依頼報酬;今回の秘密裏に動いている案件の黒幕情報
依頼助言;この時期、黒結晶洞窟の繁殖期突入の為、完全武装で臨むべし。尚、このクエストは極秘で進めよ。
「まったく、あの小僧めが」
ヘイハチは、火炎魔法【ファイラ】でQカードを燃やして自分の席に腰を下ろす。
溜め息をついてタバコで一服するや否や、未だに意識を失ったティム=コーエル侯爵を見るや目を瞑るのだった。
前書き「私情で家を空けるため」と言いましたが、実家でもネット接続出来たので可能であれば投稿します。




