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パパが夢見たエルドラドは  作者: 成瀬志悠
第1章 【運動会 前哨戦】
1/12

1 ―戦士の条件―

「寒い……」



 私のやや斜め後方から男の声が聞こえた。


 昨日の日没まで降り続いた雨によって、十月とはいえ早朝四時の気温としては決して楽観視できるものではない。

 そこに居並ぶ者たちの口からは一様に白い吐息が漏れては霧散する。


 私は手首の温度計測機能内蔵時計が指し示す現在の気温を確認した。

 十三度か。ふむ。想定内だ。

 私は静かに目を閉じた。




 後方から再び『寒い』という呟きが聞こえた。

 ふん。お前はこの状況を想定できなかったようだな。

 それはお前の散漫だ。恨むならここを甘く見ていた自分を恨むことだ。

 その点、私は防寒対策など当然のようにクリアしている。


 ただ、戦闘を見越してこの時間帯から参戦したことだけは評価しよう。

 才能がないわけではない。慢心するな。常にあらゆる想定を怠るな。

 そうすれば貴様もきっと……


 そういう私とて、これまで数々の失敗をしてきた。

 失敗を重ねるごとに自分の甘さに狂わんばかりに心を潰してきた。

 そしてその度に脆弱な甘さを削り取り、自分を鋭く、強靭に磨き抜いたのだ。

 そうして今の私がある。


 私はこれまでの苦い経験を思い出しながら静かに目を伏せた。

 今までの私ではない。私は戦士となったのだ。

 心を落ち着かせ、精神統一をおこないつつ、静かにその時を待った。

 あたりが少しざわついている。


 ふと時計を確認すると、長針は六時を指していた。

 現状での正確な状況を把握するため、周囲を観察する。

 ふむ。今回辛うじて生き残るのはここらあたりまでか。

 今ここにいる約三十名までが勝利を掴む可能性を手にすることができる。

 この時点で振り落とされる奴らには生き残る術はない。

 反吐が出るほどの甘さに同情すらできない。


 さあ、まもなくだ。まもなくここは戦場となる。

 集中しろ……

 昇りかけの朝日の方向から、門番がヒタヒタとゲートに近づく。


 ――来た……


 現在の時刻、マルナナゴーマル(午前七時五十分)。


 既に二十分前にその場で体は作ってある。

 この期におよんで戦闘中に筋や関節を痛めるようなミスはしない。万全だ。


 心臓が強烈な鼓動を撃ち、血液が体中の隅々を駆けめぐる。

 戦士達の身体からは隠しきれない熱気がユラユラと建ち昇っている。


 門番は白い布で覆われた大きな木板をドンとゲートに立てかける。


 はじまる……


 数々の失敗は今日のために。

 今回が最後だ。

 この戦場はこれで最後だ。失敗は許されない。

 私は勝利する者だ。

 私がトップとなるのだ。



 愛する家族のために、今、私は修羅となろう!



 私は戦闘態勢の最終仕上げに、ゲートに立てかけられた白い木板を睨みつけ、ハートの一番奥の一番大切なパーツに火を(とも)した。






 『 ☆ミ 第十七回 ☆ なかよし幼稚園 ☆ 大運動会 』






 運動会…… 

 それはこの世の全てのパパに訪れる、父として、いや男としての力量が試される決戦の地。


 私の網膜に看板の文字が焼きつき、抑えきれない闘志が内から沸々と湧き上がる。


 愛しい娘よ。楽しみにしていろ。

 パパが一番の特等席で、おまえのことを誰よりも近くで応援してやる。

 もう、これまでみたいに


「ぱぱ、きょう、どこにいたの? ちーちゃん、ぱぱのことさがしたけど、わかんなかったよ」


 なんて悲しい思いなどさせるものか。





 一番良い席だ。私にはもう、それしか見えない。



――― あとがき ―――

成瀬と申します。

本作をご覧いただきありがとうございます。


本作は(今のところ)コメディーです。

本格的なミリタリー物を期待されていた方には申し訳ありません……


本作はハッとした思いつきで浮かんだ案で、当初短編予定でありましたが、

書いているうちに色々と長くなってしまったので連載とさせていただきました。


もしもこの作品があなた様にとって『面白かったな』と思っていただける作品であったなら幸いです。


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