国宝級
「君ら三人に領主様から指名依頼が入っている」
支部長カイドーが告げた依頼主に、ソーマが驚きの声を上げる。
「領主!? それって、ティーバ子爵よね。……なんで?」
ソーマが首を傾げて不思議そうな顔をしている。
領主はたしか貴族ってやつだったはずだ。なぜ自分たちに依頼するのか、クウスにも検討がつかなかった。
「先月の黒いモヤに街が包まれた事件だ。その際に闇ギルドの連中相手に戦っただろう? 領主様はその件で君らのことを知っているそうだ」
支部長から理由を聞いて、クウスは納得した。
(そう言えば事件の後に、騎士から話を聞かれたな)
事件後、パドリソンが牢屋でエミリーは魔女だと騒いだため、騎士や文官たちが話を聞きにクウスたちの元へ来ていた。
もちろん騎士に真実は話せない。
エミリーを魔女と勘違いした異常者が襲いかかってきたので、捕まえただけだと話してある。
エミリーの胸にある“リヴヘクティアの印”はナコフが魔術で隠蔽してから、女性の文官に確認させた。
そんなわけで、犯人の勘違いから始まった大掛かりな誘拐未遂事件として処理されたのだった。
「それで依頼内容だが、護衛だ。ウルカからクィシオニタまで、ある物を運搬するらしくてな。それを無事に護送してほしいそうだ」
「ある物とは?」
カリオッツが眉をひそめて聞く。
「君らが捕まえた魔道士、パドリソンが持っていた魔道具だ。あれは“夜公の檻灯”と呼ばれる国宝級の代物だよ」
「や、“夜公の檻灯”……」
ソーマがびっくりしている。有名な物なのか。
「期間は明日の朝から。行きで三日、滞在一日、帰りも三日。七日間で報酬は大銀貨7枚。一人分でだ。…受けるか?」
一日あたり大銀貨1枚はかなり高い。以前、商人アントンの護衛をした時は銀貨1枚だったから十倍だ。
「なんでそんな高いんだ? オレたちは銅級だぞ?」
高すぎな気がしたので質問する。
「国宝級の魔道具を運ぶんだ。重要度が高い依頼なら報酬は上がるもんさ。領主様が闇ギルドを退けた君らの腕を買ってるってのもあるがな」
「ふーん。どうする?」
クウスは仲間を振り返る。
カリオッツは一つ頷いた。受けていいってことだろう。
ソーマは迷っていたが、口を開く。
「あの、護衛は私たち以外にもいるの?」
「もちろんだ。運搬するのは文官、周りは騎士たちが固める予定だ。お前たちは念のためにつける保険だろう」
「そう。なら、受けていいと思うわ」
ソーマも頷いた。
「よし、じゃあ受けるぞ。あ、あと他の仲間も連れて行っていいのか?」
「他の仲間? 部外者はまずいぞ」
クウスの質問に顔を顰める支部長。
「闇ギルドを追い払った時に一緒にいた仲間なんだけど、ダメなのか?」
もちろんメットのことだ。
「なに? お前たち三人以外にもいたのか。それなら説明すれば大丈夫だと思うが、出発は明日の朝だ。明日、護送隊の責任者に直接話してくれ。報酬もな」
どうやらギルドから話を通すには時間が足らないようだ。
「分かった。じゃあ、依頼は受けるぜ」
初の指名依頼を受注した。
クィシオニタってどんな所だろう。
楽しみだ。
「な? 二人増えるけど、仕事の邪魔はしないからさ」
明朝、クウスはチョビひげを生やした文官にお願いしていた。
五十代に見えるこの文官が、護送隊のまとめ役だ。
「しかし、そっちの男はともかく、その少女は冒険者でもないんだろう?」
文官の視線の先には、茶髪男メットと、金髪の少女エミリーがいる。
一人だけ家に置いていくのがかわいそうで、連れてきてしまった。護衛依頼の期間は七日だ。あの家にはナコフも住んでいるが、夜しか帰ってこない。
アグもいる。幻惑魔法で姿を隠しているがクウスの肩にしっかりと重みが伝わっている。
「すいません、文官さん。でもあの子は水生成が使えるので、野営の時に水には困りませんよ?」
ソーマがエミリーの魔法をアピールする。
水生成は水を生み出す魔法だ。飲用可能なので、使えると町の外では重宝する。
「水か。ふむ、それはいいな。よし、その少女の分は報酬無しで良いなら、帯同を許そう。そっちの茶髪の男はウルカに戻り次第、ギルドで事後発注する」
「おお。サンキュー、おっさん」
「こらっ! 敬語を使いなさいって言ったでしょ」
チョビひげ文官に礼を言ったら、ソーマが後ろから頭を叩いてきた。
そう言えば、昨日の夜に言葉遣いがどうとか言ってたような。
「はっはっは、まあ冒険者にそこまで礼儀は求めないよ。では、出発しよう」
チョビひげ文官は笑いながら馬車に乗り込んでいった。
そして合図とともに八台の馬車が動き出す。
クウスたちは一番後ろの馬車に乗る。御者以外は中に一人騎士がいる。この騎士が依頼中はクウスたちに付いているという。いざと言う時に、騎士たちの動きに合わせる必要が出るかもしれないからだ。
騎士はラートンと名乗った。
目的地はクィシオニタ。ティーバ子爵領のお隣り、シカゾ伯爵領の領都だ。シカゾ伯爵はティーバ子爵の寄親のような存在らしい。
エステマ王国は中規模の国家で、その国土は相応に広い。そのため各地方は伯爵以上の有力貴族が近隣の下級貴族を形式的にまとめている。
「馬車八台って多くないか? なんか色々積んでるけど」
魔道具を一つ運ぶだけなのに、護送隊の人数も馬車も多すぎる気がしていた。
「ああ、それは王都へ運ぶ納税品だよ。子爵領から国庫に納める物さ」
ラートンが言うには、各地を治めている領主は年に二回、王都へ税金を運ぶらしい。
ティーバ子爵はシカゾ伯爵の派閥に入っているので納税品もシカゾ伯爵に預ける。
輸送にかかるコストを削減するため、王都により近い有力貴族に預けて納税しているのだ。
今回、“夜公の檻灯”はこの納税品に紛れさせて運ばれていた。
馬車の積荷の中に、夜公の檻灯があると知っているのは四名。チョビひげ文官、護送隊の隊長、隊長補佐、そしてラートンだ。
国宝級の魔道具なので、情報が漏れればどんな悪党が奪いに来るか分からない。よって、最低限の人間にしか知らされていないし、保険としてクウスたちが雇われている。
初日は、退屈だった。
魔物と一度遭遇したが、護送隊は騎士たちが二十人もいる。
クウスたちが馬車から降りることなく、魔物は騎士によって討伐された。ちなみに屍肉蟻だった。
夜の野営時は、エミリーが水生成で水を出して騎士から感謝されていた。エミリーは役に立てて嬉しそうにしていた。さらにソーマが褒めるから、ニコニコだ。
翌日も前日と同じで、馬車から降りることは無かった。ソーマが敬語の使い方をクウスに講義し始めてからは、魔物が出てほしいと少し思った。
そして三日目、クィシオニタへあと数時間という時に、それは起きた。
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