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9 厄介な褒美

 疲れた。今日は疲れた。馬車に揺られて疲れもしたが、その後の状況も大変だったが、アルムエルグの行動がなによりも疲れた気がする。

 ミリアリアがさらわれ、賊に脅迫され、ゴーイングが刺されて、アルムエルグが賊を殲滅した。……そのアルムエルグは賊を片手で担いでいる。部屋から部屋へ大人を軽々と持って移動させた。その光景はあまりにも非現実的だ。私の目はどうかなったのだろうか?

 アルムエルグが賊を運び終わって言う。


「念のために賊がいる部屋のドアの前で監視をしておきますが良いでしょうか?」

「……頼む」


 そう言うとアルムエルグは部屋を出た。

 今までの事を考える。……結論としてアルムエルグは信頼できる者だ。しかし行動がおかしい!

 ……いやおかしくはない。ワシと馬車に居るときは普通の貴族の子供だ。いや普通の貴族よりもお世辞がうまい貴族だ。

 しかしゴーイングが刺されてアルムエルグが怒ったときにバケモノじみた力や速さを発揮した。

 アイツは身体強化の魔法と言っていたが……。強化魔法で皮膚が鉄の様に硬くなるか!

 目にも止まらず早く動けるか!殴って大人が吹き飛ぶ力がつくか!聴力強化?そんな魔法は無い!

 ……冷静になろう。もともとの身体強化魔法は力を上げたり、速さを上げたりする。強化は五倍くらい強化出来たらそれは極めていると言っても良いだろう。

 しかしアルムエルグは言った。「十倍の力・速さ・反応」と。アイツは強化魔法を十倍まで上げているのか?さすがにそれは……ないと信じたいが思い出すと……後で考えよう。

 子供の時に兄から強化魔法を習いそれを独学で身に着けたせいか一般的な強化魔法とは違う。どうして違うのだろうか?欠陥魔法使いだからか?……今度宮廷魔法師団長に聞いてみるか。

 結果としてアルムエルグは信頼できる。孫を頼める貴族だ。私や孫の命の恩人である子供だ。恩に報いる……事が出来ない。誰にも言えない事になっている。どうすれば良いか。子供が十数人の大人を素手で殴り倒したが、アルムエルグはそれを黙ってくれと言っている。

 ……ゴーイングが倒した事にするか。アルムエルグにはワシから個人的に恩賞をやろう。

 そうなるとアルムエルグやゴーイングと口裏を合わせておかないといけないな。アルムエルグを呼ぼう。


「いかがなされましたか?賊は問題ありませんよ」

「お前の秘密の事だ。今回の件はゴーイングが賊を殲滅したが最後に刺されてしまった事にする。お前は誰にも知られたくないのだろう。ワシがゴーイングを説得するから安心しろ」

「ありがとうございます!助かります!」


 本当ならお前の手柄なのに、ゴーイングに手柄を譲る事を何とも思わないアルムエルグは少しおかしい。こいつには何か違った恩賞を渡そう。

 アルムエルグは賊の見張りに戻りワシは再度ため息を吐く。朝になったらやる事が多い。騎士に賊を引き渡して、息子に孫を危険な目にあわせた事を謝らないといけないな。そしてゴーイングの説得だな。何もしていないのに手柄を譲られるのだから。

 そしてもう一人の説得するべき者は。


「ミリアリア、起きているだろう?」


 私の言葉でミリアリアは起き上がって見る。


「いつから気づいていたのですか?」

「アルムエルグと話をしていたときだ。ミリアはいつ意識を取り戻したのだ?」

「私は気を失ってはいません。気絶した方が良いと判断したから気絶したフリをしていました」


 祖父を謀るとは……。まぁ良い。その判断は悪くはないだろう。


「ではアルムエルグの事は誰にも言わない様に。お前は気絶をしていて、さっき目が覚めた事になった。ゴーイングのお蔭で我らは助かったという事だ」

「ですが本当によろしいのでしょうか?アルム様の手柄でしょう?それなのに今回アルム様は私達と一緒に人質になってしまいました。その件で責められるのではないでしょうか?」

「……そうだな。しかしアルムエルグが決めた事だ。命の恩人であるアヤツの願いを聞こう」

「ですがアルム様に恩賞も褒美を渡せないのですよ。王族として何かをしなければ!」


 ……確かにそうだな。恩賞か……。ひとつあるな。アルムエルグを悪くさせないで褒美をやる方法が。問題は……。


「ミリアリア様。お気づきになったのですね。無事で良かったです」


 いきなりアルムエルグが部屋に入って来た。そしてミリアリアは。


「いきなり部屋に入ってきて無礼ではありませんか! そんな事も分からないのですか? 全く。それだから愚図と言われるのですよ。ちゃんと聞いているのですか?礼儀作法の練習です。ドアから出てやり直しなさい」


 いきなりアルムエルグにきつく言うミリア。どうした?いつもの口調ではないぞ!

アルムエルグは一旦部屋から出て礼儀作法に則っとり部屋に入ってくる。


「三十点。もう少し礼儀作法を学びなさい!それから喉が渇きました。二人分用意しなさい!私とお爺様の分ですよ!貴方はお茶の用意が出来たら賊を見張りながら泥水でも飲んでおきなさい!」

「はい。お茶があるか調べてきます」

「調べるのではなくて、お茶を用意しなさい!私の言葉を理解できないの?全くこれだから愚図は嫌いよ。早く行きなさい!」


 礼儀作法に則り部屋を出るアルムエルグ。私はミリアを諫める。


「ミリア!アルムエルグになんて言葉を言う。それが淑女の喋る言葉か!」

「……何故かアルム様の前ではこんな口調になるのです。どうしてかわからないのです。お爺様、アルム様に嫌われたでしょうか?」


 ……なにがどうなっている?アルムエルグが部屋から出た途端に言い放った言葉を後悔して落ち込む孫娘に一言。


「その口調を変えないと嫌われるぞ」


 泣きそうになる孫娘を見ながら考える。やはり良いアイデアだな!アヤツの褒美はこれにするか!

 その後、アルムエルグが何とかお茶を持ってきたがミリアが「不味い!やり直し!この下手糞!お茶くらい入れる事が出来ないの?それになんなの?その汚いカップは!こんなモノを使って王族に出すなんてなんて不敬なんでしょう!不敬って言う言葉の意味は知っているわよね!貴方の存在自体が不敬なのよ!頼んだ私が愚かだったわ!もう良いから部屋から出ていきなさい!」と言ってまた後悔して落ち込む孫娘を見る。

 ……本当に良い考えなのか、少し悩んだ。





 早朝に先王陛下が外で狼煙をあげて神殿に居た騎士達がオレ達を見つけ出した。


「騎士の裏切り、姫が人質になって我らは捕まってしまった。ゴーイングが隙をみて賊を退治したが傷を負ったので急いで治療を頼むぞ!」


 先王陛下が騎士達に説明をして部屋に押し込めていた賊達を捕まえ、ゴーイングさんの治療をする為にオレ達も神殿に戻った。

 ベルファルト殿下に心配され、安全の為にオレ達はその日に王都に帰る事になった。

 帰りも先王陛下と一緒の馬車だ。今度は二人きりで先王陛下はオレを黙って見下す。その沈黙が怖い。


「アルムエルグ。……今度からアルムと呼ぼう。今回、お前を連れて来て良かった。お前が居なかったら私や姫は捕まったままで、ゴーイングも死んでいただろう。礼を言う」

「礼など不要です。臣下として当然の事です」

「そうか。ゴーイングも感謝していたぞ。お前のお蔭で助かったと。アヤツも刺されてもなおおぼろげながら意識があったそうだ。安心しろ、口止めはしている。しかし本当に恩賞は良いのか?」

「先王陛下の御温情、ありがたいですが。受け取ると任務に支障をきたします。私は先王陛下に礼を言って貰っただけで十分満足しています」

「無欲な奴だ」


 そう言ってオレに笑いかける。先王陛下の機嫌が今まで一番良くなったと思う。そしてオレにいろいろと質問をした。

 どんな修行をしたんだ?どのくらいまで身体強化が出来る?家族は強化魔法の事は知っているのか?好きな女子は居るのか?口から炎を吐けるのか?どんな女子が好みなのか?将来の夢は?ベルファルトは勉強を真面目にしているか?

 一つ一つ丁寧に答え、最後に恋人や婚約者は居るのか?と質問された。


「恋人も婚約者もいません。婚約者に関しては父上から何も聞いていませんし、恋人もいませんよ」

「そうか。なるほどな」


 オレの答えに納得する先王陛下。なにか含む事があったのか?

 王宮に着いてオレは先王陛下と別れる。最後に「後日、褒美をやろう。任務に支障をきたすモノではないから安心しろ」と言って別れた。……褒美なんて別に良いのに。

 数日後、オレは謁見の間にいる。オレの隣にはゴーイングさんが立派な騎士鎧を着て陛下の前で膝を付いて頭を下げている。

 どうしてこうなったんだ?先日、父上から「今回の件は聞いたぞ! 先王陛下達を身を挺して助けたそうだな。その褒美を貰えるなんて、お前は自慢の息子だ!」と言う。任務の事は良いのか?と思ったが場の雰囲気を壊す事はしないで頷いていた。


「ゴーイングよ!良くぞ先王と姫を助けた。褒美としてお主に男爵の地位を授ける」


 周りから歓声が上がる。ゴーイングさんもこれで貴族の仲間入りだ。


「そしてドックライム公爵令息アルムエルグよ。お主も父と娘の盾となり助けた事、礼を言おう。褒美として我が娘、ミリアリアの婚約者にする。これからも娘を守ってくれ」


 ゴーイングさんの褒美を貰った時よりも歓声の声が大きい。……それが褒美?罰ではなくて?


「我が父の強い推薦によってアルムエルグとミリアリアを婚約者とする。娘を頼んだぞ!」


 そして先王陛下がゴーイングさんに声をかける。


「ゴーイングよ。お前には私の護衛騎士になってもらおう。今後とも私を助けてくれ」

「ハッ!私の全てをかけてお守りいたします」


 次にミリアリア様がオレに声をかける。


「お爺様がどうしてもって言うから仮の婚約者にしてあげたのよ! 貴方よりも能力の高くて私が気に入る人がいたら、貴方はお払い箱よ! そのくらいは馬鹿な頭でも覚える事が出来るでしょう。一字一句間違えない様に覚えておきなさい!」


 ……はい、私は仮の婚約者です。お払い箱にならない様に頑張ります。なるべく近寄りません。絶対に褒美ではなくて罰でしょう!どうして先王陛下は笑っているのですか!嫌がらせですか!ゴーイングさんも苦笑いを止めてください!悲しくなるから!

 オレは謁見の間に居た貴族や騎士達からミリアリア様の仮の婚約者と認識され、姫を慕っている者達から陰険な苛めを受ける始まりの日になった。





「報告いたします。バルデハイム王国の先王誘拐の件ですが」

「なにそれ?」

「貴方が計画した計画案です!」

「……そういえば一時間で書き上げた計画案か。それがどうした?」

「失敗に終わったそうです。なんでも騎士に阻まれたと」

「……だんだん思い出してきた。あの計画は馬鹿な貴族がうるさかったから片手間で書いた案件だったな。どうでも良いよ。そんな作戦。被害は無いだろう」

「被害はありませんが、作戦に使った経費はあります。……これだけです」

「結構使ったね。なんに使ったんだろう?経費も削った計画だったんだけど」

「主に貴族の飲食代になったようです。前祝でパーっと使ったそうですよ」

「それは経費で落ちないから自己負担」

「その者達はバルデハイム王国に捕まっています」

「……親族からその経費回収できる?」

「無理です。ですから計画案を作った人から徴収する予定です」

「……分割できる?」

「できれば一括でお願いします」

「……ちくしょう!ガッデム!マイゴッド!ブルシット!ナンテコッタ!この恨みはバルデハイム王国に晴らしてやる!」


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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