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1 婚約者とのお茶会

 神から祝福を受けたバルテハイム王国の美姫であるミリアリアと、神から嫌われたバルテハイム王国唯一の欠陥魔法使いであるアルムエルグとの婚約は、国内に瞬く間に広がった。

 どうしてこのような事になったのか貴族達はいろんな噂話をする。

 ある者はドックライム公爵家の権力を使ったと噂し、ある者は先王陛下の気まぐれと噂し、ある者は外国を牽制する為と噂した。

 そして一番の噂は美姫が国内外からの婚約者を逸らすために、無能な欠陥魔法使いを囮にしたという噂だった。

 現に、ミリアリア自身が婚約発表時にアルムエルグに『仮の婚約者』と言ったのだから。

 しかし仮とはいえ婚約者の地位に就いたアルムエルグはとても苦労をしていた。

 ミリアリアはアルムエルグを嫌っており、アルムエルグと会うといつも文句を言っている。

 使用人や騎士達はその現場を見ておりその噂も瞬く間に国内に広がった。

 婚約者となって他の貴族子弟から陰口を叩かれた。平民から美姫が汚れると言われ、王宮で働く使用人達から軽い苛めを受けている。

 しかし本当の事を知っているのは一部の者だけであった。ミリアリアはアルムエルグを嫌ってはいないという事を。





 私の名前はエリス。子爵家の令嬢でミリアリア様の側近として働いています。

 ミリアリア様は優しくて思いやりがあり守ってあげたいと思うほどに可愛い容姿をしています。

 それなのに……。なんで婚約者にはこのような態度を取っているのですか!


「遅い!三十秒も遅刻したわ!どうして待ち合わせした時間に来ないの!この愚図!これだからノロマは嫌いよ!」


 ……前回は二分前に来て「早すぎる!待ち合わせの時間に二分早いわよ!淑女は用意に忙しいのだから時間を守りなさい!それとも貴方は時計を見る事が出来ないの?そんな頭でお兄様の学友なのですか!これだから低能は嫌いよ!」と言っていましたよね。

 ミリアリア様がドックライム公爵家のアルムエルグ様と婚約をして、一回目のお茶会には二人の母親達と一緒にお茶をしたのですが……。


「全く、貴方の様な低能と婚約者になるなんてお爺様は何を考えていらっしゃるのでしょうか! 聞けばアルムエルグ様の母親のお腹の中に才能と知恵と聡明さというモノを忘れて生まれてきたと言われているわ。公爵夫人もそんな子供を産んでさぞ悲しいでしょう。ですが安心してください!私がこの愚図で低能な能無しである公爵夫人の子供を鍛えてあげますわ! でも低能だから平民に毛の生えたレベルしか成長できないかもしれないわね。その時は本人の努力が足りないと思って諦めてください」


 ……ドックライム公爵夫人は子供に厳しく教育して、ですが愛情をもって大切に育てていると評判の御方です。それなのに母親の前で子供を貶して続けて最後には気落ちした公爵夫人とアルムエルグ様は退出なされました。

 その後の王妃の怒りと言ったら……。学生時代からの友人を貶されて怒り心頭です。長時間の説教を受けて、私達側近も疲れ果てました。

 二回目のお茶会では公爵夫人は辞退してアルムエルグ様が一人で来られました。その最初の言葉が。


「早すぎる! 待ち合わせの時間に二分早いわよ! 淑女は用意に忙しいのだから時間を守りなさい!それとも貴方は時計を見る事が出来ないの? そんな頭でお兄様の学友なのですか! これだから低能は嫌いよ!退出して時間通りに来なさい!」


 と言って追い返して、ミリアリア様は母親から怒られました。

 その後もミリアリア様の毒舌は続きます。


「手土産も持ってこないなんて何を考えているの? ただのお茶会と勘違いしていない?この王国の姫である私のお茶会なのよ! それなのに何も準備をしないなんてこれだから低能は使えないわね!もっと頭を働かせなさい!」

「マナーが悪いわよ! 私はサルとお茶を飲んでいるのではなくてよ。それとも貴方は芸を見せてくれるのかしら? それなら私も友人にも見せるから芸の勉強でもしなさい! それとも私が仕込みましょうか? 犬のマネなんてどうかしら?」

「そんなありふれた会話で何が楽しいの? もっと会話の勉強をしなさい! それとも会話に乏しい生活を送っているのかしら?公爵家の者がそのような生活をしているなんて恥ずかしいとは思わないの? 貴方の行動が公爵家家族に恥をかかせているのですよ。悪いと思っているのですか?それとも私は橋の下で拾われて捨て子で公爵家の者ではありませんとでも言うのですか?そんな者の婚約者になった私は世界一の不幸者ですね」


 ……よくそんなに毒を吐けるものです。隣に座っている王妃が素晴らしい笑顔を作っていましたよ。

 前回の説教は何だったのでしょうか。

 気落ちしたアルムエルグ様が退出をされて再度説教時間の始まりです。ミリアリア様は普段は良い御方なのですが、アルムエルグ様と話すと何故か毒舌を吐く。その事に本人も困っておりどうすれば良いのか王妃と相談をしている。説教後に相談を受けて呆れながら考える王妃。王妃の提案でお茶会の台本を作ってそれに沿ってお茶会をする事にしました。

 台本を作るのは側近の私達。それを王妃と姫が確認をして、王妃の監修のもと演技する。

 そして三回目のお茶会。台本通りに事が進むように側近一同は見守った。

 今回のお茶会はミリアリア様とアルムエルグ様の二人だけ。王妃様は外せない用事が出来たため今回は不在である。


「遅い! 三十秒も遅刻したわ! どうして待ち合わせした時間に来ないの! この愚図! これだからノロマは嫌いよ!」


 台本に書いていないセルフを吐くミリアリア様。どうして台本通りに喋らないのですか!

 アルムエルグ様から見えない様に台本をミリアリア様に見せる。……気づいたようですね。今度は台本通りに動いてくださいよ!

 次のセリフは「席に着いて。私がお茶を入れてあげましょう」ですよ!

 アルムエルグ様が先に喋りました。手に持っている物は先日言われた手土産ですか?


「今日は王都で評判の御菓子をお持ちしました」

「そのお菓子は食べ飽きているわ。どうしてそんな物を持ってくるのか理解に苦しむわ! 少し考えたら分かる事でしょう」


 私達はカンペを出して「そのお菓子を受け取ってください!」と書いた。


「まぁいいわ。そのお菓子は受け取りましょう。ありがたく思いなさい」


 受け取ったお菓子をすぐに後ろに放り投げて床に落ちる手土産……。

 確かにアドリブでしたけどその行動は酷すぎます!


「早く座りなさい! それとも床に座るのかしら?相変わらずノロマね。丁度良いわ。そのノロマがどのくらい遅いのか調べてあげましょう。私がお茶を入れてあげるわ!そのお茶を早く飲みなさい!お茶くらい早く飲めるでしょう」


 ミリアリア様がアルムエルグ様にお茶を入れる。そしてカップに角砂糖を一つ二つ三つ……八つ九つ十個入れた。


「さあ、飲んでみなさい。私が貴方の為に真心を込めて入れたお茶よ。とても甘くて美味しいわよ」


 ……それはお茶ではなくて砂糖水です。それもただ入れただけでかき混ぜる事もしないから中途半端で砂糖が溶けていない。

 アルムエルグ様は即座に砂糖水を一気飲みした!甘い液体を飲み込み、角砂糖を噛み砕き飲み込んだ。


「甘くて美味しいお茶でした」


 貴方は素晴らしいです! 勇者です! 英雄です! 私達側近は心の中で喝采しました!


「そう、ではお替りがいるわね。」


 そう言ってミリアリア様が砂糖水を作ってアルムエルグ様に飲ませた。……五回も!

 六回目のお茶を用意しようとしていると先王陛下がアルムエルグ様を呼んでいると言われてお茶会はお開きになった。

 ……台本通りに進まなかった事で側近一同は反省をして、ミリアリア様が泣き崩れた。夜遅くまで王妃様と訓練していたのに全て無駄でした。

 ミリアリア様のツンデレを、いえツンツンを治さないと二人は結婚出来ないのでは?





 ……三回目のお茶会が終わった。口の中が甘くて砂糖でザラザラしている。一年分は砂糖を食べた気がするよ。

 どうしてミリアリア様はオレの事を嫌っているのだろうか?へこむ、マジでへこむよ。

 側近の人達から謝って貰っているけどキツイ。

 最初の一回目はオレとミリア様の母親達と一緒にお茶会に出席したが……母親の気分が悪くなったから終わった。

 気分が悪くなった理由はオレの事で母親が責められたからだ。申し訳ない気持ちで一杯だった。その後、王妃様とミリアリア様から謝罪の手紙が来たらしい。

 直接謝りたかったそうだが母親は体調がすぐれないと言って王宮に行かなかった。不敬ではないのかと思ったが「心配いらない」と言われた。

 二回目のお茶会の参加者はオレとミリアリア様と王妃様。ミリアリア様はオレに毒を吐き続けて短い時間のお茶会は終わった。

 確かにオレも悪かったと思うよ。時間に早く来たり、土産を持ってこなかったりしたけど言いすぎじゃないかな?へこんだよ。

 屋敷で母親にお茶会の事を聞かれ「特に問題ありませんでした」と答えたらニッコリ笑って去って行った。

 怖かったよ、凄く怖かったよ。あれほど怖い母親は見た事なかった。

 そして三回目のお茶会はすぐに終わった。そこまでへこむ事もなく終わった。

 先王陛下がオレを呼んでいると言ってオレは先王陛下の部屋に行く。

 王宮の中の王族が住む宮殿に入れる許可を貰っているが、オレは案内のもと先王陛下の部屋に向かった。


「久しぶりだ!よく来たな! ……背が伸びたかな?子供は大きくなるのが早いな!」

「お久しぶりです。先王陛下」

「何ヶ月ぶりかな? 二ヶ月ぶりだな。偶にはワシに会いに来い! 老人は暇なのだから」


 機嫌良く笑う。先王陛下の隣にはゴーイングさんもいる。

 ミリアリア様の婚約者になってもう二ヶ月もたったのか……。

 ゴーイングさんは騎士団の副団長から先王陛下の側付き護衛になり宮殿に勤めている。

 ゴーイングさんにも久しぶりに会った。


「久しぶりです。アルムエルグ殿。貴方には直接礼を言えなかったので今までモヤモヤしていましたよ。助けてくれてありがとう。恩は忘れない」

「本来なら刺される前に動くべきでした。救うのが遅れて申し訳ありません。して今日は何用でしょうか?先王陛下」

「今度からワシの事はフルブルークと呼べ。先王陛下は禁止だ」

「はい、フルブルーク様。して用件とは?」

「隣国のローデンファング国は知っているか?」

「学問で習う事なら。現在ローデンファング国は他の国と戦争中であると聞いています」

「先日、戦争が終わって今度は祝勝会の予定だ。ワシがこの国を代表して隣国に行く事になったのだ。そしてローデンファング国に嫁いだ妹、ローデンファング国の現国王の母親だな。先代王妃から手紙が来て、内容は頼みたい事があると書いてあった。万が一の事を考えてアルムにも一緒に来てもらおうと思ったのだ」

「私が居ても何も出来ませんよ」

「……お主にしか出来ぬ事だ。お前の魔法でワシを助けてくれ」


 身体強化魔法の事か。しかしベルファルト殿下の学友の件もあるし、隣国に言ったら一ヶ月は帰って来れないかも……。


「安心しろ! ワシがお前の両親を説得して許可を出させるし、息子達の説得もしてやる。お前はワシと一緒に馬車に乗って隣国へ物見遊山だ。それから婚約者に土産を渡す良い機会だぞ!」


 ……土産。先王陛下は知っているのか。オレがミリアリア様に土産を渡して失敗した事を!

 なるほど! これはリベンジだ! ミリアリア様が納得する土産を渡す事が出来るチャンスだな!

 今度は失敗しない様に先王陛下と一緒に隣国に行く途中で土産の相談をしても良いと遠回しに言っているのか!


「わかりました。ご一緒します! 私に出来る全ての力を使ってお守りします!」

「……そこまで気合を入れなくて良いぞ。護衛にはゴーイングも居る。お主にしか出来ない事を頼むから気楽にして良い。しかし許可を得る事!勝手に判断するなよ! ワシの許可、もしくはゴーイングの許可を取るように! 分かったな!」

「わかりました。お二人の許可を取ります! して二人の許可が得られない時はどうしますか?」

「……お主の判断で動いて良い。なるべくワシがお前と一緒に居るからそんな事はないと思うが」

「わかりました」


 こうしてオレは先王陛下と一緒に隣国の祝勝会に向かう事になった。





王妃と側近の会話。


「三回目のお茶会はどうでした?台本通りに行きましたか」

「……これが報告書です」

「どれ………………。なんですかこれは!」

「簡単に言いますと。三十秒遅刻してきたアルムエルグ様を叱り、御土産を投げ捨て、角砂糖が十個入っているお茶を五杯飲ませました。その間の毒舌は報告書の記載通りです。その後、先王陛下がアルムエルグ様を呼ばれましたので今回のお茶会は終わりました」

「どうして台本通りに出来なかったの! あれだけ苦労して監修したのに!」

「最初が上手く行けば台本通りになると私達側近も思っていましたが、最初から失敗しました。カンペとかを使って軌道修正を試みたのですが無理でした。アルムエルグ様が御土産を持ってきた時は台本に無かったのでアドリブになりましたが酷かったです。流石に不憫に思いました。そして角砂糖が十個入ったお茶を飲みほしたときは側近全員が心の中で称えました! さすがはドックライム公爵家です」


 頭を押さえる王妃様。当然でしょう!努力が無駄になったのですから。私達側近も経験しました。


「お茶会が終わった後で泣き崩れ、アルムエルグ様が持ってきた御土産を拾い、胸に抱いて泣き崩れました。私達もどう接して良いか分かりません」

「どうしてあの子はこんなアルムエルグ殿に強く当たるのかしら……。本当に二人は結婚できるの?」

「お二人は結婚して幸せになれるのでしょうか? 無礼を承知で言いますがこの婚約は失敗でしょう。解消した方が良いのでは?」

「……出来ないわ。この婚約は先王陛下の御意思なの。義父が頭を下げて私達に頼んだのよ。ドックライム公爵家にも頭を下げたわ。それが解消になってみなさい。先王陛下の面目丸つぶれで酷いお怒りを受けるわ!」

「しかし婚約が決まったとき、ミリアリア様がアルムエルグ様を仮の婚約者とか言って他の貴族はそう信じています。今なら間に合うのでは?」

「その後、先王陛下は陛下と私に言ったわ。『絶対に結婚をさせろ。絶対だ!ワシの恩人だぞ!』って陛下は『父から全力で肩を掴まれて骨が折れると思った』って言っていたわ。私にも『ミリアリアとアルムエルグを頼んだぞ!』と両手で手を握られて頭を下げられたわ。こんな事初めてよ。義父が私に頭を下げるなんて!」

「……では破棄は無理ですね」

「無理よ。だからアルムエルグには絶対にミリアリアと結婚をしてもらわないと!」

「ですが……、ミリアリア様のツンデレ具合は酷すぎます。私達だけではフォロー出来ません!」

「……なるべく私もお茶会に参加するわ」

「なるべくではなく絶対です! これで三回目ですよ! 普通の殿方なら婚約破棄します! あそこまで忍耐力のある貴族はいません! アルムエルグ様が姫様の毒舌にキレて害しても私達は止めるような事はしませんよ! 本当にアルムエルグ様が不憫なんです! 可哀そうなんです! お茶会が終わって悲しい顔で去って行く表情を見て何度姫様に文句を言おうと思った事でしょう! それなのに姫様が泣き崩れるから何も言えないし! いつものお姿でアルムエルグ様と話せるように努力している姫様を見ていると……不憫で」

「どうしてアルムエルグ殿にだけあのような態度を……。ミリアは呪われているのかしら?」

「呪い? そんな非現実的な! それよりも神殿で清めてもらいましょう! 祈りを捧げて神様にお願いしましょう!」

「そうね。今度行きましょうか……。神頼みで状況が少しでも良くなれば良いのだけど……」


 ……二人の会話は続く。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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