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9 神殿巡回の準備

 三日後、オレは神殿長達と一緒にバルデハイム王国内の神殿の巡回に旅立った。

 神殿に務めている神官や護衛騎士、神殿長の弟子である二人と一緒に他領の神殿を見回る。


「しかしアルムと一緒に巡回に行くとは……」


 馬車に一緒に乗っている神殿長の弟子の一人であるオレの母上はため息とついていた。


「母上、そんなに巡回とは大変なのですか?」

「王国内の神殿で祈祷するだけね、表向きは」

「帳簿を確認したり、不届き者の馬鹿共を探し出して処罰したり、不正を行った者達に神の怒りを与える事よ」


 神殿に務めている者達も人の子。祭事のついでに神官達が不正を働いていないか確認する為に巡回するらしい。


「帳簿を調べたりするのが大変なのよ。巧妙に隠したり、口実合わせをしていたり」


 ……結構大変な作業らしい。でも神の怒りを与えるって物理的に? それとも隔離して祈りを強要して精神的に? 


「その為に嘘を見抜く神聖魔法があるだろう。ミリアも使えるから楽になるさ」

「頑張ります。神殿長、ディアエルナ様」


 母上の愚痴に神殿長が言う。そして神殿長のもう一人の弟子のミリアリア様は二人に言う。

 ……今回の巡回は母上とミリアリア様が同行する事になった。

 三日前の歓迎会が終わった後、オレは神殿長と一緒に屋敷に戻り、母上に「アルムも巡回に参加させる。ついでにアンタも来な」と命令した。公爵夫人の母上も師匠の言葉には反論できず承諾する。

 そして歓迎会の途中で行方不明となったオレをテオドール達は必死に捜索していた。学院内で見つからなかったので王都に範囲を広げ、先王陛下やオレの両親に『アルムが行方不明となった』と説明しようとした時、オレは神殿長と一緒に居たのを発見して大事にならずに済んだらしい。

 テオドールは「頼むから勝手に居なくならないでくれ」と疲れた表情で言い、ディーアは「連絡をしてください! 私の寿命が縮まりました!」と泣きそうな表情で言った。

 

 次の日に神殿長は先王陛下に手紙で「アルムも巡回に参加させる。両親の許可は取ったからよろしく」と言う手紙を送った。

 それを受け取った先王陛下はオレと神殿長を呼び出して、神殿長の手紙を見せながら「理由を説明してもらおうか?」と怒りを堪えている表情で言った。めっちゃ怖かった!

 オレが説明をする前に神殿長が先王陛下に言った。


「今回の巡回だけど、どうもきな臭い気配がしてね。そこで先王陛下の懐刀を借りようと思ってアルムに頼んだんだよ」

「アルムに頼む前にワシに頭を下げて嘆願するのが先だろう」

「死んだ祖母から『ジジイに頭を下げると不幸になる』って言われていてね。ほら、祖母の遺言は守らないと」

「だったら頭を上げたまま泣いて懇願しろ。ボケババア」

「尻の穴の小っちゃいジジイだね。ワシの願いすらも聞けないなんて」

「ババアの頼みなんて聞く義理なんて無いわい」


 ……その後、二人の口喧嘩が始まり、最終的にゴーイングさんが二人を止めた。


「……分かった。アルムを三日間だけ貸してやる」

「足りないね。三十日だ。アルムを三十日くらい借りたい」

「五日だ!」

「二十五日!」


 ……その後、二人は争うように話し合った。

 結果、オレは十四日と十八時間三十分の間だけ神殿長の手伝いを許された。

 最後に先王陛下から「十五日以内に帰って来い。帰ってこなかったらどうなるか分かっているな?」と脅されたが、ゴーイングさんが先王陛下を落ち着かせて、


「土産を買って帰って来い。ワシの気に入る土産だぞ」


 と言われてオレは神殿長の手伝いの許可を得た。

 その次の日、出発前日。オレと母上は国王殿下と王妃様に呼ばれた。二人の隣にはミリアリア様もいる。


「神殿長との巡回にミリアを参加する事になった。アルムよ、婚約者として娘を守ってくれ」


 え? マジですか国王陛下。


「ディアエルナ、ミリアは何回か神殿長と一緒に巡回しているから慣れているから大丈夫と思うけど、ミリアをお願いね」

「よろしくお願いします」

「分かりました。エルリーシャ様、ミリアリア様」


 王妃様が母上に頼み、ミリアリア様が母上に微笑み、母上が承諾する。

 微笑を浮かべてオレを見るミリアリア様。今にも笑顔で毒を吐きそうな気がして怖い。

 ミリアリア様が巡回に参加するとは……。十五日間もミリアリア様の毒舌を聞く事になるとは思ってもみなかった。

 後で知ったが、ミリアリア様はオレと先王陛下と神殿長との会話を盗み聞きしていて、オレが退出した後に『私も巡回に参加します!』と言って二人を説得した。先王陛下達は「お前の両親が良いと言うなら」という条件をだし、ミリアリア様は国王陛下と王妃様の説得に成功したとの事だ。

 国王陛下は当たり前だが許可しなかったが、ミリアリア様が「テストで三位以内になれば願い事を叶えてくれると言いました。巡回に行く許可をしてください」と言って最終的に紆余曲折あって許可を取ったらしい。

 国王陛下が「……失敗した。王妃からも責められるし、父からはため息をつかれるし」と後日愚痴られた。……オレのせいじゃないのに。





 バルデハイム王国内の巡回に行く前日。私はエルリーシャ王妃とミリアリア様と話し合いをしています。

 議題は「ミリアリアにアルムさんへ毒舌を吐かせない方法について」です。

 私の息子であるアルムエルグと王妃の娘のミリアリアは婚約者同士です。

 しかしミリアリア様はアルムに毒舌を吐く呪いを授かっており、話しかけるとアルムに毒を吐き続けます。神聖魔法で毒を吐かないようにできますが、制限時間があるので時間を過ぎるとアルムに毒を吐き続けてしまいます。


「……ねえ、ミリア。いい加減、アルムさんに本当の事を説明した方が良いのではなくて?」

「駄目です! お母様! そんな事を言ってアルム様に嫌われたら!」


 ミリアリア様はアルムの事を好いていますが、愛情の裏返しと言うのでしょうか? 毒を吐いてしまって、アルムの心を傷つけます。

 二人はあまり会わないが良いと思うのですが、ミリアリア様の『アルムに会いたい!』という行動力は周りの側近達にはフォロー出来ません。

 したがって私達の監修の下、アルムとミリアリア様を会わせる事にしました。しかしあまり上手くいきません。全部、ミリアリア様が途中からアドリブで行動するからです。

 今回の件もミリアリア様が参加する事になって準備が大変になりました。

 側近の参加、護衛騎士の増加、各部所への連絡などなど。アルムだけなら特に問題が無いはずですが、王族であるミリアリア様が参加する事によって国王陛下や宰相と騎士団長は大変だったらしいです。


「毒を吐く途中で口を塞ぐ行為は有効でしたが、何度も口を塞ぐとアルムさんが不審に思われるから、他の方法を考えないといけませんし」

「エルリーシャ様、口を塞ぐのは最終手段ですよ。その最終手段を何度も使ったのですか? 口を塞いだら席を外す手筈では?」

「ミリアは席を外さずに、会話をしていました。他にもダンス中はお喋り禁止も無視して会話して、最終的に口を塞がれたわ。……この子はアルムさんの事が本当に好きなのね」

「はい、大好きです! アルム様と一緒にいるだけで幸せな気持ちになります。 他にも努力家のところや真面目で素直やところも大好きです! ちょっと困った御顔や嬉しそうな御顔も大好きです! お茶会でプレゼントを渡してくれる行為に私は天に昇るように幸せな気持ちになります! 学院でアルム様とテストが同点だった事は運命だと感じました! 歓迎会のダンスでアルム様にエスコートされて……」


 ……本当に病的なほどにアルムを好いているミリアリア様。この子が将来の義理の娘となる事に少し不安を感じます。……この考えは不敬でしょうか?


「ミリア、もう良いです。貴方がアルムさんを好いている事は知っています。だ・か・らこれ以上アルムさんに嫌われないようにする為にどうするのかを相談しているのでしょう。貴方がアルムさんに毒を吐かないように!」


 毒を吐く他に砂糖をまき散らす事も出来るミリアリア様。本当に両極端な子ですね。


「一番良い方法は毒を吐く呪いを伝える事ですが、ミリアは反対ですし……」

「アルムに喋らない方法で無理でしたし、神聖魔法は時間制限があるし」

「絶対に巡回中にアルムさんに話しかけて、毒吐いて、アルムさんを傷つけますね。それも婚約者の母親の前で、普通に考えると婚約撤回案件ね」

「何度も婚約撤回を考えました。しかし先王陛下が結んだ縁談を切る事は無理です。……偶に先王陛下は本当にアルムを信頼しているのか疑問になります。仲の悪い二人の言動を楽しんでいるのかと思うくらいです」


 二人に愚痴を言いますが、アルムは先王陛下に信頼されている事は事実です。ドックライム公爵家は先王陛下に信頼させない家系でしたが、アルムの働きによって信頼を取り戻せました。その結果、夫の仕事も楽になったと言っています。先代の国王とはいえ国内での影響力は大きいですから。


「間違えなく信頼されていますよ。アルムさんのお陰で私も先王陛下に信頼されていると感じる事がありますから」


 王妃様も大変な事があったのでしょうね。王族に嫁入りして義父が気難しいと言われている先王陛下なのですから。


「ですがその縁が切れたら先王陛下の信頼が無くなる可能性がありますね」

「娘の毒舌のせいで……」


 私とエルリーシャ王妃は元凶であるミリアリア様を見る。ミリアリア様は視線を逸らします。


「……どうすれば良いのでしょうか?」

「それを考えるのが今回の議題です。ミリアの側近から案がありますので、それを元に考えてみましょう」


 アルムとミリアリア様の事で一番苦労しているのはミリアリア様の側近達でしょう。忙しい通常業務があるのに、毎日二人の仲を良くする為に思考を凝らし、お茶会やイベント用の台本の作成、パニックシーンの対応訓練等々。

 彼女達の行いには本当に頭が下がります。皆が居なければアルムはミリアリア様を嫌って婚約白紙に動いていた可能性があるのですから。……今度、皆にお土産を持って行きましょう。


「まずは、……本当の事を説明する。……これが一番良いのですね」

「……そうですね。でもミリアリア様が嫌がっていますから」

「次は、……喋らないように猿轡を付ける。もしくはそれに相応するモノ」

「……一国の姫が猿轡を付けるのは無理があります。品性を疑いますよ」

「私も反対です。……次の案は二人が会わないようにする。……無理ですね」

「無理ですね。ミリアリア様の行動力を分かっていないのでしょうか?」

「今回の件で考えを改めるでしょう。……これはどうかしら? アルムさんと一緒にいる方に話しかけ、一緒にいる方を介して会話する」

「……側近のファムさんのような事をするのですね。今回は私がアルムの隣に居て、ミリアリア様が私に話しかけて、二人の話を仲介するという事ですね」


 ミリアリア様の学友でマクガイア伯爵令嬢のファムさん。彼女はミリアリア様にアルムヘ毒を吐かせないように一生懸命頑張っています。そして一番苦労しているでしょう。


「アルムさんに直接話さなければ毒は吐かないし、間接的でしたら大丈夫でしたね。実証済みですし」

「問題は、ミリアリア様が喋る可能性ですね。会話を禁止されていてもアルムに話しかけますから」

「巡回中はアルムさんと会話するのを禁止と命令しても、破って話しかけるでしょうし。……神聖魔法で会話を出来なくする魔法ってありませんか?」

「……体を麻痺させる神聖魔法の応用で顔を麻痺させれば喋る事は出来なくなるかも。しかし表情がとても残念になるでしょうね」

「……残念な表情をするミリアを、婚約者のアルムさんに見せるのは気が引けます」


 三人で考えても答えが出ません。……ん? そういえばミリアリア様がいつの間にかテーブルから居なくなっています!

 周囲を見渡すとドアの前でエリスがミリアリア様の退出を防いでいました。……いつの間にそんなところに?


「ミリアリア様、まだ話し合いの最中です。お席にお戻りください」

「アルム様に会いたいの? 駄目?」

「駄目です。話し合いが終わったら、明日の準備と巡回中の決め事があります。それが終わったら馬車内でのアルムエルグ様と会話する為の練習、休憩時間の過ごし方の練習、食事をとる練習があります。……今夜は徹夜ですよ!」 


 エリスの表情に迫力がありますね……。


「ミリアリア様。今回の神殿巡回で私達の予定が狂ったのです。休日にデートする約束だった子も、ショッピングする子も、彼氏の実家に挨拶を行く予定だった子も泣く泣く休日返上で働いているのですよ! 急に用事を決めるので私達はとても大変なのですよ! 分かりますか? ミリアリア様」


 エルリーシャ様は「あら~」と苦笑いを。私も同じ表情でしょう。ミリアリア様は側近エリスの迫力ある表情に押されていますね。


「部屋に戻りますよ、ミリアリア様。そして私達の想い、忠誠心、献身を身を以て感じてください。下手な事を考えるとアルム様におかしな事を吹き込んで仲違いをしますよ!」


 ミリアリア様の腕を掴んだエリスは私達に「申し訳ございません、明日の準備がありますので失礼します」と頭を下げて退出しました。


「……母親の私よりも娘の手綱を握っているわね」

「私もそう思いました」

「……アルムさんとミリアの仲はエリス達に任せた方が良いかしら?」

「私達も手伝わないとミリアリア様に愛想尽かして辞職か職場放棄されますよ。差し当たって休日を与えて、ボーナスを出さないといけませんね」

「私達も練習に手伝った方が良いかしら?」

「私は明日の準備がありますので、エルリーシャ様、皆様の監督お願いします。では私も失礼します」


 私もミリアリア様達に付き合ったら徹夜する羽目になりそうなので逃げ出しました。エルリーシャ様が何か言っていた気がしましたが聞こえません。

 そういえばアルムは明日の準備は出来ているのでしょうか? 後で聞いてみましょう。

誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 身分と行動力高い馬鹿は始末が悪いなと。ここら辺はベルファルトの妹なんだなと思いました。
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