8 国の成立ち
静かな場所を捜していたらいつの間にか地下室の様な場所に居るアルムです。
記憶を辿る。学院の大きな石碑を眺めていたら土台に擦れた後を見つけた。不思議に思って石碑を移動してみたら地下に続く階段を見つけてしまった! 好奇心と探索心に負けて地下に調べる事にした。そして迷ってしまった。
……これが今の状況です。
迷路みたいな地下で迷ってしまった。
聴力強化で音が聞こえる方向に向かっていたら行き止まりだった。……そしてその音の正体は広間から聞こえる演奏だった。
暗い地下だけど夜目が効くから何とか見える。しかし出口が分からない。
壁を壊したら地下が壊れる可能性があるから破壊する事も出来ない。
外の声を聞こうとしたけど聞こえるのは演奏の音楽だけ。
……どうしようか? 直感に任せて迷路を進み続けるか?
しかし学院の迷路みたいな地下が在ったなんて。どんな理由で作ったんだろうか? と考えながら歩き続けた。
……どれくらい歩いただろうか? 地下に入ってどのくらい時間が過ぎただろうか?
結構歩いたと思う。迷子中で出口が見つからない。
途中から『隠し通路の類が在るのではないか』と思って怪しそうな壁を見つけようしたけど発見できない。
聴力強化で聞こえていた音楽も聞こえなくなった。聞こえるのは羽虫の羽音と小動物の声だけ。
壁を壊して進んでみようか? 天井を壊して地上に出ようか? と変な考えが過る。
お腹も減ったし喉も乾いた。歓迎会も終わっている時間ではないか? 屋敷に帰らないと家族が心配するかもしれない。
「……鼻歌でも歌うか?」
フフンフン~と鼻歌を口にしながら歩く。
あ、広間だ! 初めて通る場所だ!
地下の広間は天井も高く広かった。そして夜空が見える。
……夜だな。歓迎会は終わっているな。ここから登って地下室を出て屋敷に帰ろう。
ジャンプでは天井には届かないな。壁を登って脱出するか。
……壁に凸凹がないから掴めないな。でも指で壁に穴を開けて伝って登るか。
しかし天井が高いな。感覚的に地上以上だ。五階六階くらいの高さだぞ。
……ようやく登り切った。
塔の様な場所の天辺だ。そして学院内ではない。別の場所に居る。
……ここは何処だ? 下に降りよう。
降りた場所は水が溜まっていて大浴場の様な場所だった。……水が冷たいからお風呂ではないよな。
「誰だい? こんな所に入って来る狼藉者は」
声の方を振り向くとフルブルーネ神殿長だった。そして半裸だった。
「アルムかい? どうしてアルムが神殿に居るんだい? それもワシが沐浴中の所に? ……覗きかい?」
え? 沐浴中? 覗き?
「すいませんでした! ちょっといろいろあって! 覗くつもりは全くなくて! 塔から降りてきたら! この場所に居て! 地下を彷徨っていて! そしてら此処に!」
老婆とはいえ女性の沐浴中に場面に遭遇してしまった。どうしよう!
「……良く分からんが、あの塔から来たのかい? 詳しく説明をしてもらわないといけないね。アルム、先に出て行きな。ワシは日課の沐浴を終えるから」
「はい! 失礼します!」
オレは神殿長を視界に入れないように速やかに出て行った。そして外で座りこむ。
……神殿長の半裸を見てしまった。両親に怒られる。先王陛下にも説教を食らうだろう。罰を受けるだろうと考えて落ち込んでしまった。どうしよう。どうすれば良いんだろう?
「ふー、サッパリした。……どうしたんだい? アルム。そんなに落ち込んで?」
神殿長が出て来た。落ち込んでいて、時間が経っていたのに気が付かなかった。
「申し訳ありません、神殿長。どのような罰でも受けますのでお許しください」
「だったら頼みたい事があるんだ。聞いてくれるかい?」
「……はい、分かりました」
「じゃあ、ついて来な」
オレは神殿長の後ろを歩く。どのような罰が待っているのだろうか? どんな事を頼まれるのだろうか? どうすれば許してくれるのだろうか? と考えながら神殿長の後をついて行った。
そしてオレは今、神殿長の頼みを聞いている。
「あー、そこそこ。気持ちいいね。肩が凝ってね。ちょうど良い力加減だよ。アルム、肩揉みの才能あるね」
神殿長室でオレは神殿長の肩を揉んでいる。こんな事で許してはもらえないと思うが頑張って肩揉みをする。
「それで、アルムはどんな理由で塔から来たのかい? あの場所は地下迷宮の空気孔なんだよ」
オレは神殿長に説明をした。学院の石碑が動く事を知って調べたら地下に続く道があったので、好奇心と探索心に負けて入ったら迷って、なんとか夜空が見える場所にたどり着き、壁を伝って登って行き、降りたら神殿長に会った事を説明する。
「……いろいろとツッコミ所があるが一から説明してやるよ。まずはアルムが迷った地下迷宮は王族とその一部の者しかしらない避難通路だ。神殿の長として神殿内にも出入口の場所は知っているが、迷宮内には入った事はない。あの迷宮はかなり複雑らしい。しかし学院にも出入口が在ったとは知らなかったよ」
「そうだったんですか。黙って入ったら罰せられますか?」
「罰せられるのか? 入った事ないから分からんな。知らない者が入ったら出る事が出来ない場所らしいから、入ったら迷路に彷徨って死ぬと言われているからね。逆にワシはアルムが地下迷宮を生きて生還した事に驚いているよ」
そんな危険な場所だったんだ……。オレって良く生還出来たな。
「そもそもあの空気孔から脱出するとは。若い頃に塔に登って見た事あるけど、落ちたら死ぬって思ったよ。良くあの場所から脱出できたね」
「はい、指で壁に穴を開けて登りました。ちょっと大変でした」
「……石壁だろう。指で石に穴を開ける事は出来んだろう」
「出来ますよ。こんな風に」
と言ってオレは大理石で出来ている机に指で穴を開けた。
「……もう肩揉みは良いよ。お前の指でワシの肩に穴が開く未来が過ったよ」
さすがに人に穴は開けな……。一人だけ穴を開けた。あの狂った暗殺者を思い出した。そして血と呪いの言葉を思い出そうとしたら、
「狂った暗殺者はぶん殴って簀巻きにする。血を見ても怖くない。狂った暗殺者はぶん殴って簀巻きにする。血を見ても怖くない。狂った暗殺者はぶん殴って簀巻きにする。血を見ても怖くない。狂った暗殺者は……」
「アルム! おいアルム!」
あれ? 時間が飛んだ? 神殿長が肩を揺さぶっている。
「……本当に大丈夫かい? 疲れているんじゃないかい?」
「大丈夫と思います」
「……精神的にヤバくなると洗脳の影響が表に出るようだね。今後の事を考えると継続的に洗脳した方が良いのかもしれんな」
小さく呟く神殿長。洗脳ってなんだ? 質問する前に神殿長が「話を戻そうか」と言って地下迷宮の説明を再開する。
「アルムが彷徨っていた地下迷宮は、千年以上前に大陸を統一していた王国が作ったと言われている。アルムは大陸の歴史は習っただろう」
千年以上前、この大陸を統一していた王国。しかしどのような王国だったのか、どのような名前なのかは分からない。千年以上前に王国が誕生し、魔法を確立しポーションを作り出したと伝えられている。そして三百年前に滅んだと言われている。滅んだ理由は不明で学者達が滅んだ訳を研究している。
そして滅んだ王国の後に新しい国々が誕生した。バルデハイム王国やローデンファング王国、ヨーデンポリー王国やエルドラージ王国もその時に誕生したと言われている。
「滅んだ王国の財宝や宝を奪い合い、盗人が集まり、組織化されて大きくなり、滅んだ王国の施設や街を占領して、最終的に盗人の代表が王と名乗り国々が誕生した。そして滅んだ王国の宝を国宝として守り、奪う為に戦争する。それが今の状況だね」
「……私が知る歴史とは違いますね。混乱を抑える為に助け合い、敵を倒し味方を救い、英雄と言われたバルデハイムという青年が皆を守る為に王と名乗ってバルデハイム王国を建国したと」
「一般的な表向きの歴史はそんな説明だね。これは神殿の神殿長にしか伝わっていない裏の歴史だ。曲解されている可能性もあるがね。神殿長しか読む事が出来ない禁書にはバルデハイムと名乗る盗人は地下迷宮に有った財宝を奪い、その財宝を使って建国したって伝えられているね」
知ってはいけない歴史を知ってしまった。バルデハイム建国の裏側を知ってしまった。
「そんなこんなで今も滅んだ王国の財宝を奪う為に戦争をしている。これ実史だよ。時が経ったから金銀財宝は無くなったが、代々守っている国宝と言われている宝は残っている。それを奪う為に今も戦争だって馬鹿だと思わないかい?」
そんな理由だったなんて。ヨーデンポリー王国やエルドラージ王国が戦争を仕掛けてきたのも国宝を奪う為だったなんて。しかし、
「バルデハイム王国にも国宝があるのですか? どんな宝なんでしょうか?」
代々守っているバルデハイム王国の宝。滅んだ王国の財宝の一部。どんなモノなんだろうか?
「ワシも詳しくは知らないね。国宝の事を知っているのは上層部だけだし、見る事が出来るのは国王と王太子だけ。ワシも見た事がない。ジジイに聞いてみても教えてくれないしね」
……改めて思った。神殿長の話はオレが知ってはいけない内容だ。バレたら処刑されるかも!
「なに、アルムはミリアの婚約者だろう。結婚したら説明されるから心配ないさ。知ったのが遅いか早いかだから問題無いだろう」
「い、いえ、かなり問題あると……」
絶対に知ってはいけない話だった。これは先王陛下にバレたら絶対に説教コースだ!
オレはどうすればバレないようにするか考える。……っていうか歓迎会から居なくなった事から誤魔化さないといけない。それ以前に屋敷に帰らないと!
「そういえばアルムに頼みたい事があるんだよ」
オレがどうやって誤魔化そうか、帰宅しようか考えていたら神殿長がニヤリと笑いながら話しかけてきた。
「三日後に王国内の神殿を視察する為に神殿巡回しないといけないんだよ。それで今は物騒だろう。だから小さき守護者のアルムに護衛を頼みたいんだ」
え? 三日後?
「あ、あの、学院が……」
「そんなの公欠で良いだろう。やむえない事情がある場合は欠席が許されるはずだったろう。」
「先王陛下に許可を得ないと……」
「あ? ジジイは『アルムが許可したら良い』と言っていたよ」
「家族にも説明を……」
「お前の母親はワシの弟子だ。説明も許可も簡単さ」
「国王陛下からの仕事が……」
「子供に仕事させる大人の事なんて気にするな。ワシがビシッと断ってやる」
どうしよう。断れそうにない。
「アルムは女性の肌を盗み見て申し訳ないと思わないのかい? 神殿長しか入る事が出来ない沐浴の場所に忍び込んで肌を盗み見したアルム?」
「……謹んでお受けします」
「さすがはアルムだね。安心おし、ミリアや他の皆に内緒にしてやるさ」
弱みを握られたので断る事が出来ない。
オレは学院を休んで神殿長と共に神殿巡回に行き事になった。
道中厄介事が起きなければ良いんだけど……。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




