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19 顔合わせ

 数日後、ジャルブランド公爵家のリリムファーム令嬢が王宮に上がり、ベルファルト殿下と顔合わせをするとの事。

 オレには関係ないと思っていたのだが先王陛下から、


「アルム。ジャルブランド公爵令嬢の品定めをするぞ。お前も付き合え」


 と言われた。何をすれば良いか先王陛下に聞くと「ワシの横で会話を聞くだけで良い」と言われた。

 ……本当に会話を聞くだけ? それ以外に無茶振りされそうで怖いよ。

 そうだ! テオドールも一緒に公爵令嬢との会話を聞くのか!


「駄目じゃ。顔合わせには護衛のゴーイング、アルム。そしてジャルブランド公爵だけじゃ」

「分かりました。会話を聞いておきます……」


 先王陛下の命令だから何も言えない……。仕方がないので諦める事にした。

 そして当日。『オレはどうして拒否しなかったのか!』と頭を抱えそうになる衝動を堪える。


「久しぶりですね、ゴミ屑さん。婚約者がいるのに、他の女性をいやらしく凝視するのですか? そんな目は必要ないと私は思うのですが、ゴミ屑さんはどう思いでしょうか?」


 どうしてミリアリア様が居るんだ! 先王陛下に目配りしたら「惚れられておるの」とか言っているし!


「返事はどうしましたか? 変態ゴミ屑さん。それとも言語が思い出せなくて忘失変態ゴミ屑さんまで退化したのですか?」

「お久しぶりです、ミリアリア様。本日はお日柄も良く……」

「本当に良い天気ですね、底辺まで退化した忘失変態ゴミ屑さん。それで今日はグフッ!」

「お久しぶりですね、アルムエルグ殿。ミリアは久しぶりに婚約者である貴方と会って興奮しているみたいね。もう少ししたら収まるから心配しないで頂戴」


 王妃様に口を塞がれているミリアリア様。……興奮しているから毒舌にも磨きがかかっているのか? いつも通りだよね。

 ミリアリア様は側近達に何か言われて深呼吸する。そして席に座った。


「御義父様、男性しかいない部屋に公爵令嬢と会話をしたら委縮しますので、可愛い姪を守る為に私達も参加します」

「この程度で委縮するなら、顔合わせの意味は無い。ベルファルトの婚約者失格じゃ」

「そんな事を言ってはベルファルトの婚約者が決まりません。息子を一生独身させるおつもりですか?」


 席に座って先王陛下を注意する王妃様。そして王妃様の側近達がお茶やお菓子の準備を始める。そしてオレはゴーイングさんに勧められて先王陛下の横に座っている。

 上座に先王陛下とオレが座り。横に王妃様とミリアリア様。そして下座の席二つがジャルブランド公爵と令嬢が座るのだろう。そんな事を考えて約三分間経った頃、


「アルム様、改めてお久しぶりです。お元気でしたか?」


 へ? ミリアリア様の興奮が解けて口調が変わった?


「お兄様であるオーラムヴェル様のご結婚おめでとうございます。エリスから聞きましたがお二人が幸せそうでなによりです」

「あ、ありがとうございます。ミリアリア様」


 ミリアリア様が毒を吐いていない。性格が反転したのか? 毒を吐かない毒絶状態になっている!


「もうすぐ学院に入学しますが、一緒のクラスになれると良いですね」

「そ、そうですね。学院で一緒のクラスになれれば良いですね」


 おかしい! 絶対に変だ! ミリアリア様が毒を吐かないなんて! そうか! 今は毒を貯めている最中で最後に全部まとめて毒を放出するつもりなんだ! この会話の終わりに毒を全部ぶつけるのか!

 ……覚悟が必要だな。今まで以上の毒を喰らって死なないようにしないと!


「ジャルブランド公爵、公爵令嬢がお見えになりました」


 ドアが開いてジャルブランド公爵、そして王妃様とミリアリア様に似ている女の子が、リリムファーム公爵令嬢が入ってきた。ミリアリア様の姉妹って思えるほどに似ている。


「お久しぶりです。先王陛下」

「お初にお目にかかります、先王陛下。リリムファーム・ジャルブランドと申します。お会いできるのを楽しみにしておりました」

「見てくれはエルリーシャやミリアリアに似ているな……」

「リリムファームは王妃の姪でミリアリア様の従妹ですから。似ているのは当然です。そうでしょうアルムエルグ殿」


 ジャルブランド公爵がオレに話を振ってくる。どうすれば良いんだよ! 先王陛下は会話を聞くだけで良いって言っていたのに! 返事しないと礼儀に反するので、


「そうですね、リリムファーム様は王妃様やミリアリア様に似て美人だと思います」


 リリムファーム様を誉めたらミリアリア様が睨んでおり目に迫力を感じた! あ、エリスさんが小声で「アルムエルグ様はミリアリア様がお綺麗だとほめていますよ」と聴力強化で聞いた説明の後に、


「ミリアリア様とリリムファーム様は姉妹のように似ていてお美しいと思います」


 オレの言葉を聞いたミリアリア様は機嫌が戻りミリアリア様がにっこり笑っている。……助かった。

 そして「ありがとうございます、アルムエルグ様」とリリムファーム様が御礼の言葉を述べる。

 窮地を脱したオレは表情を変えず、内心はジャルブランド公爵が話を振った事を恨んだ。


「特技はなんだ? 魔法はどうだ? ミリアリア様のように神聖魔法を使えるのか?」

「魔法は苦手です。一般的な魔法以外は使えません。なので学業を中心に学びました」

「ではリリムファームの学力はどの程度だ? 学院卒業レベルか?」


 無茶振りを言う先王陛下。学院卒業レベルってテオドールじゃあるまいし。……テオドールと一緒に勉強したオレは学院高学年まで終わったけどさ。


「学院高学年までは学習しました。今は残り授業分と他国の事を勉強しています」


 オレと同じくらい、いや他国の勉強をしているからオレよりも勉強が進んでいるようだ。彼女はかなり頭脳明晰のようだ。

 そして先王陛下は他国の質問をして、その問いに答えるリリムファーム様。オレの知らないことを知っていて勉強になるな。


「知識は問題ないようだな。礼儀作法もマナーも悪くない。アルムとはえらい違いだな」


 最後にオレに話題を振ってくる先王陛下。その問いにどう答えろというんだ! 頭を下げて謝ろうと思ったら、


「アルムエルグ殿は礼儀作法も良く、先王陛下が娘に問いかけていた質問にも真剣に聞いておりましたな。素直で真面目な子ですな。先王陛下から信頼されて、ミリアリア様の婚約者にふさわしい」


 おっと! ジャルブランド公爵がフォローしてくれたよ! 良い人だ!


「フン! 長年鍛えたからな。この程度は当たり前だ」

「アルムエルグ殿、娘と仲良くしてほしい。将来は親族になるのだからな」


 だからオレに話題を振るな! どうしてオレはこの席に座っているんだ!


「こちらこそよろしくお願いします」


 と頭を下げるとミリアリア様がまた睨んでいる! オレはどうすれば良いんだろう!

 ミリアリア様はオレに話そうとするが、後ろにいるエリスさんが話をさせないように、口にお菓子を入れたり、手で口をふさいだりしているが、そろそろ限界だろう。

 今まで溜まった毒が一気に噴き出る予感がする。


「アルム様。リリムファームと仲良くなるのは良いですけど、私を忘れてはいけませんよ」

「勿論です! ミリアリア様」

「お二人は仲が良いのですね。私もベルファルト殿下と仲良くしたいと存じます。お二人にはご協力をお願いしますね。そして私とも仲良くしてください」

「勿論です。こちらこそよろしくお願いしますね」


 同年代の女子同士は仲良くなるのが早いな。


「私もリリムファームとは手紙でしかやり取りをしていないので、仲良くなる為に女性陣だけでお茶でもしましょうか。よろしいですか、お兄様」

「先王陛下のお許しされるのなら」

「許可しよう。明日はベルファルトとの顔合わせだからな。その対策でも練っておくのだな」


 ミリアリア様達女性陣は側近全員が部屋を退出した。……オレは?


「さてと、ジャルブランド公爵よ。なかなか賢い娘じゃな。本当にお前の娘か?」

「私の娘です。養子ではありません」

「それにミリアにも似ておるし、仲良くなれそうだな」

「娘も友人が少ないので、ミリアリア様と仲良くなってくれれば何よりです」

「それで、お主は聞きたいことがあるのではないか?」

「聞きたい事とは?」

「お主を襲った賊を退治した小さき守護者の正体じゃ」

「教えて頂けるのですか!」

「教えん。教えて欲しければワシの信頼を得るか、小さき守護者本人から信頼を得るかじゃ」

「教えて頂けるように王国の繁栄の為、忠誠を尽くします」


 オレを無視して二人は何を話しているのだろうか? オレはどうして此処にいるのだろうか?

 目の前にあるお茶でも飲もう……お茶は飲み干していたよ。


「……シルヴィアーナは息災か?」

「……はい、お元気です」


 シルヴィアーナ? 誰だろう? 思い出した! 確か神殿に入った国王陛下の妹だ。


「そうか……」


 先王陛下は何かを言おうとして口を噤む。何かを言いたいが他の気持ちが邪魔をしているようだ。


「今度、我が領地を視察に来ませんか? 歓迎します」

「……そうだな。気が向いたら視察に行こうかの」


 ジャルブランド公爵の言葉にソッポ向いて答える先王陛下。……こういう所は子供っぽいよな。

 それからオレは何時まで此処に居ればいいのだろうか?

 退出する事も逃げる事も出来ない。誰か助けてくれ!


「アルムも一緒に行くか? ジャルブランド公爵領に。そうじゃ、ゴーイング、お主もどうだ?」

「先王陛下とアルムエルグ殿の護衛として同行したいと思います。」

「うむ、後は……」

「先王陛下。アルムエルグ殿が領地内に来るのは少し問題が……」


 オレとゴーイングさんを誘った先王陛下に待ったをかけるジャルブランド公爵。


「……アルムなら大丈夫だろう」


 大丈夫なのか? 本当に大丈夫なのか! それよりも問題ってなに?


「私もドックライム公爵家との関係を良好にしたいと思いますが、今はまだ早いと考えます。ですから……」

「では早く両公爵の関係を良好にしろ。それからアルムと一緒に視察に行くからな」


 先王陛下の無茶振りを喰らうジャルブランド公爵。……オレやゴーイングさんを見ても先王陛下の考えは変わらないよ。諦めた方が良いよ。


「そうじゃな。学院の長期休暇の時に視察に行くか。それならアルムも一緒に行けるだろうし」


 オレもジャルブランド公爵領に視察に行くことは決定なのですね……。

 いつの間にかご機嫌な先王陛下と、無茶振りに頭を抱えそうになっているジャルブランド公爵。

オレは先王陛下の無茶振り仲間が増えたと思ってジャルブランド公爵に同情する。





 ジャルブランド公爵令嬢の私、リリムファームは現在、王宮の中庭で私は王妃様、ミリアリア様とお茶会をしています。

 王妃様の側近達は準備になれているようで、あっという間に準備が出来ました。ジャルブランド公爵の侍女達にも見習ってもらわないといけませんね。


「先王陛下である御義父様からなんとか合格を貰って良かったわ。アルムエルグ殿が近くに居たら機嫌も良かったしね」

「そうですね。私もアルム様とお話しできて良かったです」


 お茶を飲みながら御二人は私に先王陛下の面接に合格した事を告げられました。

 しかし合格にドックライム公爵のアルムエルグ殿のお陰と言われたので釈然としません。

 先王陛下に媚びを売ってベルファルト殿下の学友になった無能力者。同年代からの令息令嬢からの噂から判断すると無能・無礼・無知・無学と低能貴族令息だと考えていましたが、少し違うようです。

 先王陛下だけではなく、王妃様やミリアリア様からも信頼されている様子です。

 父上やワレーンドル義兄様から聞いた話でも「噂通りの子供ではないようだ。何か秘密があるかもしれない」と言っていました。家族の為にアルムエルグ殿の情報を集めてみましょう。


「先王陛下はアルムエルグ殿を信頼されているのですね。どのような事があって信頼されたのでしょうか?」


 御二人に聞いてみると硬直してしましまいした。飲もうとしたお茶を、食べようとしたお菓子を持ったまま御二人は動きません。……聞いてはいけない話題だったのでしょうか?


「……アルムエルグ殿は先王陛下に信頼され、その結果がミリアの婚約者の地位にいるのですから」


 停止していた王妃様は私の質問には答えませんが、アルムエルグ殿は何かしらの事で先王陛下から信頼されたのですね。

 しかしドックライム公爵家を嫌っていた先王陛下を相手にどんなことをして信頼を得たのでしょうか? 本当に気になります。


「アルムエルグ殿に関する噂も全部デタラメで、先王陛下も噂を上書きして消そうとしましたが、邪魔が入って何年もデタラメな噂が流れているのです」

「誰かが故意にアルムエルグ殿のデタラメな噂を流しているのですね」


 噂もデタラメだと言う。信頼されている理由も詳しくは不明。……ミリアリア様ならアルムエルグ殿が信頼されている理由を知っているかもしれませんが、まだ硬直していますね。


「ミリアリア様、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫ですよ。アルム様は私にとっては白馬に乗ったヒーローで、この世界の誰よりも優しくて凛々しくて温厚で誠実で友好的でハートフルでソウルフルでダンサブルでテンプテーションで……」

「ミリアリア様、失礼します」


 側近らしき女性が、主であるミリアリア様の口を手で塞いでいます。そしてミリアリア様、言っている意味が分かりません。


「ごめんなさいね、リリムファーム。ミリアはアルムエルグ殿の事になると少し興奮してしまう癖があってね」

「……ミリアリア様はアルムエルグ殿を慕っているのですね」


 病的に慕っているのですね、とは言えません。そして家族にも報告して良い情報でしょうか?

 そういえばアルムエルグ殿の情報も必要ですが、婚約者のベルファルト殿下の情報も必要ですね。どのような御方なのかを聞きださないと。


「今、ベルファルトを呼んでいるからね。皆でお茶をして親交を深めましょう」


 王妃様は前もってベルファルト殿下を呼んで、私に紹介して頂けるとの事です。

 身だしなみは大丈夫でしょうか? 髪もキチンと纏まっているでしょうか?

 服装のチェックをしているとベルファルト殿下が中庭に来てくださいました。


「ベルファルト。この子が貴方の婚約者のジャルブランド公爵令嬢リリムファームよ」

「お初にお目にかかります。王妃様のご紹介に預かりました、リリムファーム・ジャルブランドです」


 初対面の挨拶で今度はベルファルト殿下が返すのですが、私を見定めるように見ています。……おかしな点があったでしょうか?


「……母上やミリアに似ているな。お爺様や父上はこのような顔が好みなのか? 私はミリアのような顔は見慣れているから、また似たような顔が増えたって感じだな」


 似た顔が増えた!? 確かに私は王妃様やミリアリア様に似ています。皆からも可愛いとか綺麗とか言われています! 自慢ではありませんが王妃様と同じ髪色も私の自慢です! それなのに似ている顔が増えたってどういう意味ですか!


「まあいい。オレの婚約者になったのだから恥をかかせないように心掛けろ」

「勿論です。婚約者としてベルファルト殿下を支えたいと思います」


 怒っちゃダメ! 怒っちゃダメ! 私はジャルブランド公爵の娘なのですから。この程度の事で笑顔を崩しません!


「ベルファルト! 貴方は婚約者に対して……」

「申し訳ございません、母上。少し用事があるので失礼します」


 王妃様の言葉を遮って、ベルファルト殿下は中庭を後にした。

 彼がバルデハイム王国のダルムフレット国王とエルリーシャ王妃の長男。そして将来の王太子。

 あの御方が私の婚約者ですか……。

 私はジャルブランド公爵家の為に私は王妃となる為に生きてきました。しかしベルファルト殿下があのような方だとは聞いていません。

 同年代の令息令嬢からの聞いていた噂では、賢く頭脳明晰、運動神経が良くて剣術が得意、紳士的で思いやりがあり、勇気と優しさを兼ね備えている将来の賢王と聞いていました。……噂って本当に当てにならないのですね。


「ご、ごめんなさいね、リリムファーム。ベルファルトには厳しく注意しておきますから」

「申し訳ございません、リリムファーム。兄上が無礼な振る舞いをして……」

「い、いえ、気にしていません」


 内心かなりショックを受けています。ベルファルト殿下があのような人格なんて……。

 噂通りの穏やかで優しくとは逆で傲慢な方だと分かりました。……そんな方と婚約者になるなんて。

 私は優しくて知的な聡明な方が好みなのに……。

 ため息をつきそうになりますが、王妃様達がいるのでそのような事は出来ません。


「まだ信頼されていないだけです。これからベルファルト殿下に信頼されるようになります」


 私の言葉に王妃様は申し訳ないような顔をして「ベルファルト殿下をお願いしますね」と優しく言ってくれました。……ジャルブランド公爵家の為に王族の方々や婚約者に信頼されるように頑張らないと。



誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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