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18 後遺症

 兄上の結婚式から終わった数日後にお爺様の葬儀が終わった。

 ガガーロン叔父上と従弟のクルックスはお爺様の遺体と一緒に領地に戻り、先祖代々祭ってある領地内の神殿に埋葬する。

 妹のラルーシャはクルックス達の別れを惜しんだ。一緒にドックライム公爵領に行くほどの勢いだったが、両親に止められ断念。

 その代わりにオーラムヴェル兄上とヴィーラ義姉が領地に行きドックライム公爵領を治める。

 ガガーロン叔父は兄上に引継ぎ作業を、一年くらいを目途に終わらせてガガーロン叔父とクルックスが王都に来る予定だ。クルックスは来年王都の学院で学ぶ予定だからな。

 そしてオレももうすぐ学院に入学する。今まで王宮でテオドールと一緒に学院で学ぶことを予習していたら、全学年分を学び終えてしまった。……テオドールの学習レベルは早すぎて苦労したよ。忘れなければ良いんだけど。

 小さき守護者として陛下達の書類を郵送係も減る事になる。王宮よりも学院に居る時間の方が多いからな。

 でも学院での授業が終わったらベルファルト殿下、ミリアリア様、テオドールと一緒に王宮に帰る事になった。

 陛下から「念のための護衛を頼む」と言われて、オレは陛下達と一緒に王宮に帰り、その後は書類郵送係として働く事になった。

 ……馬車で王宮に帰る殿下達だけど別の馬車で帰らせてくれないかな。ベルファルト殿下からは嫌な顔をさせるし、ミリアリア様からは毒を吐かれるから、あまり近づきたくない。

 でも陛下から受けた任務としてをこなさなければ!

 そして今回、先王陛下に呼び出しを受けていた。ジャルブランド公爵を襲った賊の件と、先ほど王宮に賊が侵入し撃退した件だ。



 先王陛下とは結婚式前、ゴーイングさんは結婚式後だ。二人には久しぶりにと会うような感じだった。いつもはほぼ毎日会っていたからな。

 その二人はなにかよそよそしい。何かしたかな?


「アルム。先日のジャルブランド公爵が賊に襲われたときだが、小さき守護者が賊達を撃退したそうだな。ジャルブランド公爵が礼を言っていたぞ。まったく、お前は政敵のジャルブランド公爵すら助けるとは本当にお人好しだな」

「先王陛下、それがアルムエルグ殿の良い所でしょう」


 長年の付き合いで分かった、怒っているフリをしている先王陛下。いつも通りフォローをしているゴーイングさん。


「ドックライム公爵の結婚式の帰りに賊に遭遇するとは、王都の警備はどうなっているのだ? もしもジャルブランド公爵が襲われていたら王国が混乱して他国に攻められる状態になっていただろう。アルムよ、良くやってくれた」

「ありがとうございます、先王陛下」


 先王陛下の機嫌が良くなる。そして真面目な表情に変わる。


「次に先ほど王宮に賊が侵入したが、小さき守護者が撃退した件だ」


 王宮に侵入した賊は三人。一人は気絶、一人は死亡。残りの一人は両手両足骨折、肋骨複数骨折、アゴが割れて喋る事が出来ず、打撲多数の重体で辛うじて生きている。


「いつも通りに気絶させて簀巻きにしようと思ったのですが……」


 オレは先王陛下とゴーイングさんに説明をした。

 賊の一人を気絶させて、残りの二人はオレを見て逃げられないと判断して襲ってきた。

 二人のうち一人がオレに接近してオレを抑え込み、もう一人のおとりが抑え込んだ賊ごとオレを殺そうとした。

 抑え込んだ賊の背中から腹を突き刺してオレの目の前で血を吐いて死んだ賊。そのとき血を見てしまい……。


「血を見たら体が硬直して……。気付いたらあのような状況に……」


 体が硬直したときに暗殺者の事を思い出そうとしたら『狂った暗殺者はぶん殴って簀巻きにする。血を見ても怖がらない。おばあさんを大切に』との声が聞こえ意識を失う。そして気付いたら……。


「……血を見たら意識を失って、気付いたら賊を半殺し状態にしていたという事か?」


 ゴーイングさんとディーアが、そして偶然居合わせたダムボックス騎士団長が駆けつけて見た光景は、小さき守護者が賊の一人を殴りつけていたそうだ。

 ゴーイングさんが止めようと声をかけたが止まらず賊を殴り続けて、騎士団長がオレに近づこうとしたら殴られて気絶した。ディーアさんが魔法をオレに当てて、賊を殴るのを辞めたらしい。そしてオレは意識を取り戻して現状に混乱した。

 あの時の出来事を思い出す。


「その通りです。血を見たら私を殺そうとした暗殺者を思い出して……」


 思い出そうとしたら体が震える。まだ怖い。


「血を見て吐き気を覚える直前に神殿長の声が聞こえました。『狂った暗殺者はぶん殴って簀巻きにする。血を見ても怖がらない。おばあさんを大切に』と。そして気付いたら……」


 先王陛下が頭を抱えている。きっとオレに落胆しているのだろう。血を見て意識を失いかける弱い心に。


「……すまんな、アルム。クソ婆の変な魔法のせいで、お前はおかしくなったのだな。あのクソ婆が!」

「先王陛下、落ち着いてください!」


 怒り散らす先王陛下をなだめるゴーイングさん。……オレに落胆したという事ではないようだ。


「ハァハァ。すまんな。アルムがトラウマを克服したのに、クソ婆に頼んだ代償にアルムがおかしくなってしまった。どうするべきなのか……」

「それか神殿長に頼んでもう一度治療を頼んでみてはいかがでしょうか?」

「クソ婆に頼んだ結果がアレだ。無理じゃろう……」

「なるべく血を見せないようにするのが一番でしょう。我々も協力してアルムエルグ殿を助けます」

「……ドックライム公爵に伝えないといけないだろうな。アルムのトラウマは完璧に治っていないことを」

「関係者全員に教えた方が良いでしょう。それに普段過ごしているときに血を見たら……」


 ……先王陛下とゴーイングさんが相談している。オレはどうすれば良いのだろう?


「アルムよ。お前は血を見ると意識を失ったそうだな。しかし意識を取り戻したときは敵を倒していた。そうだな?」

「その通りです。あ、でも少しだけ覚えています。自分が勝手に敵をぶん殴って半殺しにしていました」

「血を見たら意識を失う。それはアルムの心の傷だ。アルムは今まで無意識に血を見ない方法で敵を倒して簀巻きにしていた。そして前回の暗殺者を殺して心に深い傷を負った。それは分かるだろう」

「……はい、その通りです」

「アルムの心の傷を癒すために、神殿長のクソ婆に『悪夢に打ち勝つ神聖魔法』をかけてもらったが……」


 悪夢に打ち勝つ神聖魔法。……少しずつ思い出してきた。夢の中で暗殺者に襲われていたときに神殿長に助けてもらったんだ。


「神聖魔法の影響で、……アルムは血を見たら別人格となって暴力的になるようだ」


 ……そういえば暗殺者と戦うときはぶん殴って簀巻きにする。血を見ても怖がらない。狂った暗殺者はぶん殴って簀巻きにする。血を見ても怖がらない。狂った暗殺者はぶん殴って簀巻きにする。血を見ても怖がらない狂った暗殺者はぶん殴って簀巻きにする。血を見ても怖がらない……狂った


「アルム! アルム! 起きろ!」

「アルムエルグ殿! お気を確かに!」


 あれ? 先王陛下が大声を出して、ゴーイングさんが肩を揺すっている。


「クソ婆の神聖魔法を受けたアルムのトラウマは治ったと思っていたが、クソ婆のおかしな神聖魔法のせいでおかしくなってしまったぞ!」

「とりあえずのアルムエルグ殿から聞いた説明からの仮説ですが……。血を見たら敵を殲滅する別人格に変わり、気絶して簀巻きではなく、半殺し状態にするようですね」

「だから意識を失っても敵が半殺しにされていたのですね。謎が解けました。病気ではなくて安心しました」


 良かった。血を見たら意識を失ったから病気かと思ったけど、何事も無くて安心した。

 ホッと安心していたけど、二人の様子がおかしい。どうしたんだ?


「アルム、お前はクソ婆の魔法のせいでおかしくなったのだぞ! 何を安心している!」

「え? 血を見たらちょっと過激になるくらいですよね。その程度なら大丈夫では?」

「ちょっとではない! お前が半殺しにした賊は仮面にトラウマを背負ったぞ! 「仮面怖い、仮面怖い、仮面怖い」って言って心に傷を負ったぞ!」

「では神殿長に頼んで『悪夢に打ち勝つ神聖魔法』を使ってもらえば……」

「阿呆! いつも通り敵を気絶させて簀巻きにすれば問題ないのじゃ! 今度から血を見ずに相手を無力化しろ!」

「分かりました! すいません! 頑張ります」


 今までは気絶&簀巻きにできていたから、今度も大丈夫だろう。


「一度、確認してみるか? アルムに血を見せたらどんな状態になるか?」

「……アレに手を出すのは遠慮します。死を覚悟しないといけません。私だけではアルムエルグ殿を抑えるのは不可能です」

「関係者を呼ぼう。ダムボックス騎士団長とディーアとお前が居れば少しは持つか?」

「……三人では無理です。最低でもその三十倍は必要でしょう。アルムエルグ殿の意識を取り戻すのに百人くらいは必要でしょう。それにダムボックス騎士団長はアルムエルグ殿に殴られて気絶中です」

「意識のない小さき守護者と対峙させるか? 訓練でも百人の騎士を半殺しにさせる訳にはいかん。そんな事をしたら……」

「困りましたな。本当に……」


 ……先王陛下とゴーイングさんが頭を抱えて相談しているな。オレって結構ヤバい? 大丈夫だよね?

 とりあえず血を見ないで生活するように先王陛下に言われた。


「ディーアが魔法を当てたり、先王陛下が肩を揺すったりして意識を取り戻す事を考えると、外部からのショックを受けると意識が正常に戻るようですね」

「意識を失ったアルムに近づいたら殴られて気絶する可能性があるがな」


 ゴーイングさんと先王陛下のため息をついて、先王陛下は言った。


「今度調べるから、アルムは血を見て意識を失うなよ。絶対じゃ!」

「……頑張ります」


 としか言えなかった。日常的にも血を見た事ってないから大丈夫だとオレは気楽に考える。先王陛下は心配しすぎだな。

 



誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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