12 結婚式
結婚式当日。両家の家族親族、親しい友人などが神殿で二人の結婚式を祝福している。
……お爺様は体調不良で屋敷で休んでいるそうだ。旅の疲れが出たのだろうか?
ラルーシャは心配していたが、それ以外の人達は心配していないようだ。オレも心配していたのだが父上が「大丈夫だ。心配しなくて良い」と言って頭を撫ぜる。……もう頭を撫ぜなくても良いよ。
神殿で兄上とチャイエルバ伯爵令嬢ヴィーラ義姉上の最大の見せ場である、神に誓い合う場面だ。
「オーラムヴェル・ドックライムよ。汝はヴィーラ・チャイエルバを妻とし、幸せな時も困難な時も、ともに助け合い、お互いを愛すると誓いますか?」
神殿に響く司祭の声に兄上は「誓います」という返事をして神殿に響いた。
「ヴィーラ・チャイエルバよ。汝はオーラムヴェル・ドックライムを夫とし、幸せな時も困難な時も、ともに助け合い、お互いを愛すると誓いますか?」
「誓い……」
「その誓い待った!」
誓いの言葉を遮る大声が聞こえた。声の方を見ると、入り口の扉の前に礼服を着た男が両手を広げて、
「ヴィーラ! 迎えに来たよ! 私と一緒に行こう!」
……あれかな? 愛の逃避行的なヤツかな?
ざわめく神殿内。そして兄上の友人関係者が男を走り寄って、
「お前馬鹿か! 結婚式場でなにしている!」
「正気なのか! 気でも狂っているのか!」
「サプライズ演出にしても笑えんぞ!」
兄上の友人達に捕まり出て行った……。何だったんだ?
「……あー、ヴィーラ・チャイエルバよ。誓いの言葉を」
司祭が誓いの儀を進める。
「誓いま……」
「お待ちください! 私こそがオーラムヴェル様の本当の結婚相手です!」
……また来たよ。派手なドレスを着た女性が神殿関係者のドアから入ってきた。
今度はヴィーラ義姉上関係者が早歩きで近づいて、
「貴方! いったい何考えているのですか!」
「神聖な結婚式を邪魔して!」
「入ったら二度と出る事が出来ない修道院に連れて行くわよ!」
義姉の友人達に捕まり出て行った。
結婚式は初めて参加したけど、我が国の結婚式は邪魔が入るのが当たり前なのか?
「……ヴィーラ・チャイエルバ、早く誓いなさい。これ以上、邪魔が入らないうちに」
やる気をなくした司祭が誓いの催促をする。
「は、はい。誓います」
「汝らの誓いは神に聞き入れました。……乱入者に結婚を認めてもらうことが、二人の最初の共同作業です。頑張ってください。これにて誓いの儀を終わります」
司祭の言葉で新郎新婦は司祭と一緒に退出した。
「私は結婚式に初めて参加しましたが、これが普通の結婚式なのですか?」
妹のラルーシャが両親に聞く。オレも聞きたい内容だった。
「違う」
「違います」
両親はため息をつきそうな表情だ。やはり普通の結婚式ではなかったようだ。……次のパーティーは大丈夫だろうか?
※
私は神殿の衛兵をしているただの一般市民です。
神殿の結婚式に乱入した男女が、その知り合いの者達に囲まれて説教をされています。
「お前は何を考えているんだ! オーラムの結婚式に乱入してヴィーラ嬢を連れ去ろうとしたなんて! 頭にウジでも沸いているのか!」
「貴方もよ! 何が本当の結婚相手よ! そのお花畑の頭が腐ったの!? 頭だけじゃなく心や魂も腐りきったの!?」
……令息令嬢とは思えないような単語が聞こえるが聞き流します。
「ドックライム公爵の結婚式に乱入して、そして神殿長の言葉を遮って、関係者に目を付けられたんだぞ! お前達の将来は終わりだぞ。家族から絶縁されて放逐されて平民になるのか? 今後はまともな職にも就くことが出来ないぞ!」
「貴女も婚約者がいるのに馬鹿な事をしているの! 婚約破棄されて修道院で一生を過ごすの? 婚約者と御両親が悲しむと思わなかったの?」
……平民の私の居ない場所で説教をしてほしいな。飛び火しそうで怖いよ。
「ドックライム公爵家には無能の次男がいるんだぞ。そんな奴と一緒に縁を結ぶヴィーラが可哀そうだと思わないのか!」
「そうよ! 欠陥魔法使いがいるのよ。オーラムヴェル様を解放して差し上げないといけないわ!」
ドックライム公爵家の次男。確かアルムエルグ様だったかな? 数年前に広まった噂では、無能の次男は親の権力を使って王女の婚約者になり、好き勝手している物語に出てくる悪役令息のような子供だと。
ドックライム公爵家次男の噂は、その後の貴族の悪事が広まって上書きされたけど、ベルファルト殿下の学友だったが、自分勝手で我儘だったから殿下が学友を辞めさせたという噂が再度広がったんだよな。
平民はゴシップ記事が好きだから無能貴族のドックライム公爵家次男は有名だ。酒場でも話題にあがるし、子供を説教するときもドックライム公爵家次男の無能を話題にする家族もいるそうだ。
「それにドックライム公爵家はジャルブランド公爵と政敵関係だ。ヴィーラの実家であるチャイエルバ伯爵はジャルブランド公爵側だぞ! 敵対関係であるドックライム公爵家に行ったら酷い目に合うに違いない!」
「そうよ! オーラムヴェル様は敵対関係のない私と結婚した方が良いに決まっているわ!」
確かに平民でも結婚するときは相手の両親や親族と付き合えるか確認するが、貴族の結婚は平民には想像もつかないような腹の探り合いをしているのだろうな。
ついでにジャルブランド公爵とは王妃の実家で現当主は王妃の父親だ。現当主は高齢なので近いうちに王妃の兄である次期公爵が継ぐという噂がチラホラ。
「だからと言って結婚式に乱入する馬鹿がどこにいる! ドックライム公爵がお前達の家に苦情の連絡が行くぞ!」
「ふん。私の家はジャルブランド公爵側だ。そんなモノ関係ない」
「関係ある! ジャルブランド公爵側の貴族がドックライム公爵家に喧嘩を売ったという事になれば、ジャルブランド公爵はお前や実家を切り捨てるぞ!」
「そんなことがある訳ないだろう。ジャルブランド公爵家に長年忠誠を尽くしている由緒正しい子爵家だぞ」
「そんな訳ある! ジャルブランド公爵はドックライム公爵家と対立しない! 王家が許さない! 先王陛下が許さない! もしも両公爵家の対立が陛下と先王陛下の耳に入ったらどうなるか知っているだろう! 十六年くらい前の両公爵家の対立を!」
……あの頃は職に就く前だったな。ドックライム公爵家の先代当主とジャルブランド公爵家の現当主が対立したときだ。王国中の貴族を巻き込んで内戦一歩手前までだったとか。
最終的に先代陛下が間に入ってことを収めた。ドックライム公爵家は先代当主が引退して領地で隠居、十代で公爵家当主になった現ドックライム公爵。ジャルブランド公爵家は王宮への登城禁止となり、例外は陛下の婚約者であった王妃のエルリーシャ様だけだ。
なぜ両公爵が対立したのかは分からない。噂では王妃様が関係しているのではないかと言われている。
……平民は貴族の事情など知らない方が良い。だからこれ以上オレに貴族の事情を聞かせないでほしい。
「ジャルブランド公爵家は王族の血を引いている由緒正しい家系だ。絶対にジャルブランド公爵に付いた方が良いに決まっている!」
「何を言うの! ドックライム公爵家も王家の血を引いているのよ! ジャルブランド公爵よりも家柄も地位も資産も何もかも上よ!」
今度は乱入者同士の口喧嘩が始まった……。いい加減にしてほしい。
周りの友人達も呆れていますよ。
今日は厄日だ……。
※
乱入者が現れるという結婚式が終わり、今度はドックライム公爵家ではパーティーが予定されている。
ホスト役であるドックライム公爵当主である私は珍しい客人と面会している。
「久しぶりだな。ドックライム公爵」
「……そうだな、次期ジャルブランド公爵」
会談の相手はジャルブランド公爵家の次期当主であるシロムバルコだ。
「此度はチャイエルバ伯爵のヴィーラ嬢と御子息の結婚おめでとう」
「ありがとう。貴殿に祝辞を貰えるとは嬉しい限りだ」
微笑んでいるが目は笑っていないシロムバルコ。私もきっと同じような表情だろう。
「こちらに来たという事はパーティーに参加してくれるのだろう。後で息子に紹介させてくれ」
政敵の本陣に乗り込んできた者は、どんな返事を返すかな?
「ありがとう。なら私の息子も紹介させてもらおう。年齢も一緒だからな」
……息子がいる? 彼には娘はいたが、息子がいたという話は聞いた事ない。
「親族の子供だが養子にしたのだ。その子が私の後継者になるだろう」
「そうだったのか。貴方の目に留まるとは、さぞかし優秀な子だろう」
後でジャルブランド公爵家の事を調べないといけないな。この数年いろいろと忙しくて、主にアルム絡みで忙しく調査するのを怠っていた。
「実は数日前に当主であった父が亡くなってな。今回はその事を陛下に告げに来たのだ。父が亡くなり、私がジャルブランド公爵家を継いだ。それによって登城禁止も解かれた」
「そうだったのか。ジャルブランド公爵のご冥福をお祈りいたします。そして当主就任と登城禁止が解かれて喜ばしい事だ。公爵としてバルデハイム王国を繫栄させていこう」
ジャルブランド公爵家がどのような立ち位置になるのか? 王宮ではどのような職を与えられるのか? 陛下達はどんな考えなのか? 確認しないといけないな。
「そういえば、公爵の次男は王女の婚約者だったな」
「その通りだ。先王陛下の願いでアルムはミリアリア様の婚約者になりました」
「実を言うと私の娘がベルファルト殿下の婚約者になるのですよ。そうなれば私達は親族となりますな」
「そうなのですか! ベルファルト殿下には婚約者が居なかったので喜ばしいですな」
表情は穏やかだと思うが、内情は驚きで表情が隠れているか不安だ。陛下からも宰相からも誰にも聞いていないぞ! ジャルブランド公爵令嬢とベルファルト殿下の婚約なんて! アルムは知っているのか? 先王陛下は許可したのか?
「陛下からは『公言するな』と言われているので、まだ他言はしないでくれ」
「……分かりました。しかしいろいろと驚かされましたな」
本当に驚いた。いったいどうすればこんな状態になるのか?
そしてジャルブランド公爵はただこの話をする為に訪問したのか?
「では私は出直すとしよう。息子をドックライム公爵家のパーティーに連れてこないといけないからな」
そう言って立ち上がるジャルブランド公爵。そして屋敷を後にした。
私は執事長のデミルにアルムを呼ぶように命令する。アルムはジャルブランド公爵家の事を知っているだろうか?
少ししたらアルムが部屋にやってきた。
「どうしましたか? 父上」
「アルム。ジャルブランド公爵家について知っているか?」
「ジャルブランド公爵家? 王妃の実家ですよね。陛下の頼みでジャルブランド公爵家に書類を郵送していますよ」
陛下は、ドックライム公爵家の政敵にどうして私の息子を使うのだ!
「さすがに書類の内容までは知りませんよ。……父上、どうされましたか?」
「……アルム、ジャルブランド公爵はどんな人物だと思う?」
「ジャルブランド公爵ですか? 会った事ないので詳しい事は知りませんが、体を壊して寝込んでいると聞いた事あります」
それは数日前に亡くなった公爵だな。……アルムにも情報はほとんどないようだ。
アルムにジャルブランド公爵の情報を調べさせるか? しかしあの出来事をアルムに伝える事になる。あの出来事を先王陛下から箝口令が引かれているかな。
アルムを下がらせてジャルブランド公爵家をどうするのかを考えていると、妻からパーティーが始まっている事を聞いた。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




