11 結婚式前日
屋敷で体調を整えて数日経った。もうすぐ兄上が結婚をする。
お相手はチャイエルバ伯爵家のご令嬢だ。
結婚式後はドックライム公爵領で領地経営をする予定だ。
王都から兄上たちが居なくなるのは寂しいが、兄上は「王都まではそんなに距離はないし、ちょくちょく帰ってくる予定だから心配はいらないよ」と言ってくれた。
そしてバルデハイム王国の上位貴族であるドックライム公爵家の結婚なので大々的な結婚式だ。
神殿で神に誓い合い、その後はパーティー関係者を呼んでパーティーをする。
一年前から結婚式の準備をしており、父上や母上や兄上は忙しかったようだ。そして妹も少しだけ手伝っていたそうだ。
ちなみにオレは結婚式の準備は手伝っていない。理由は小さき守護者として先王陛下や陛下の手伝いをしていたからだ。そしてオレが倒れたので結婚式の延長まで考えていたそうだ。……足を引っ張ってすいません。
そして親族である叔父のガガーロンとその息子のクルックス。先代ドックライム公爵であるお爺様も領地から出てきて参加するので、到着日に予定がなかったオレと兄と妹のラルーシャは屋敷の玄関まで出迎えをする。
お爺様に会うのは二回目かな? 一回目は物心つく前だったらしいから初めて会う。
「お久しぶりです。お爺様、叔父上。今回は私の結婚式に参加して頂き感謝いたします」
「久しぶりだな。オーラムヴェル。結婚おめでとう」
ガガーロン叔父上はにこやかにな表情で兄上を祝福するけど、なんか表面上だけって気がするんだよな。オレの勘違いなのかな?
「まったく、オーラムヴェルの婚約者をワシが決めようと考えていたが……」
お爺様は独り言のように言っている。しかし周りに聞こえるように言っている。……声の大きい独り言だな。
「お久しぶりです、お爺様、叔父様、クルックスお兄様」
妹は笑顔で挨拶をしている。……オレがラルーシャの兄なんだけどな。
ラルーシャは領地でお爺様たちに会っているからな。オレは領地には物心つく前にしか行ったことない。ドックライム公爵領には郵送係としても行ったことないからな。
「久しぶりじゃな、ラルーシャ。大きくなったな」
「お爺様もお変わりなく、嬉しく思います」
妹に声をかけられて嬉しそうな祖父。機嫌が良くなったようだ。お爺様と孫の会話だな。オレも孫として会話しないと……。
「お前がアルムエルグか。噂は聞いているぞ。魔法が使えない無能力者だとな」
可愛い孫を見る目から汚物を見る目に変わったお爺様。……嫌われているようだ。
「父上、まずは屋敷に入りましょう。兄上に会って相談しないといけない事がありますから。他にも王都での用事もありますので時間がありません。すまないな、また改めて話そう。行くぞ、クルックス」
不機嫌になったお爺様と見下した目で見る従弟のクルックスを連れて叔父は屋敷に入った。
兄上とラルーシャは叔父達に付いて行き、オレは玄関前で一人立っている羽目になった。……叔父達が連れてきた使用人の荷物運びに邪魔になるから玄関から移動して叔父達が居るであろう父上が居るところに向かった。
部屋に入ろうとしたら、ちょうどクルックスとラルーシャが部屋から出てきた。
「クルックスお兄様を客間に案内します」
「アルムエルグ。また後でゆっくり会おう」
と言って二人は仲良く廊下を歩いて行く。……二人は本当に仲が良いな。少し嫉妬してしまいそう。
改めて部屋に入ろうと思ったが、お爺様の声が廊下まで響いた。
「どうして無能力者を養っているのだ! 早く追放しろ! 魔法の使えない貴族なぞ嘲笑の対象だ! ドックライム公爵家の者として相応しくないじゃろう!」
「アルムエルグは私の大事な息子です。父上には関係ありません。オーラムヴェルの結婚式だから特別に王都に戻ってくる事が出来たのですから、人目を引く言動は控えてもらいたいです。出来なければ領地に戻ってもらいます」
「ライドクリフ! お前は親に向かってなんて事を!」
「父上、落ち着いてください! 兄上も落ち着いてください」
「私は落ち着いているぞ、ガガーロン。アルムエルグは先王陛下から直々にミリアリア様の婚約者に指名されている。アルムエルグを放逐するという事は、先王陛下に泥を塗る事になる。ただでさえ、父上は先王陛下から睨まれているのだ。また先王陛下の怒りに触れたらドックライム公爵家はどうなると思う?」
お爺様は先王陛下に睨まれている? 初めて聞いた事だ。先王陛下の怒りに触れるなんて何をしたんだ?
「先王陛下の代理人も結婚式に参加するのだから、父上はその事を踏まえて行動してほしい。ガガーロンよ、父上の面倒を頼んだぞ。私はオーラムヴェルの結婚式で忙しいからな」
「お前は! ワシの言う事が聞けんのか! アルムエルグはドックライム公爵家に必要ない人間だ! 放逐が無理なら病気で死んだことにして、ミリアリア様の婚約者の代わりにクルックスを推薦しろ! その程度の事が出来なくて何が公爵だ!」
……過激な事を考えているな。でもミリアリア様の毒を喰らわないで良いのなら、婚約者変更は良い考えだと思うのはオレだけではないはずだ。
「父上、今の会話は先王陛下の耳に入ったら、ドックライム公爵家は爵位剝奪されてもおかしくない言葉ですよ。父上はドックライム公爵家を潰したいのですか? ふざけるなよ! 手錠をはめて、領地に戻すぞ!」
うわぁ! ここまで怒った父上の言葉を聞くのは生まれて初めてだ! 怒気が壁越にも伝わるよ。
……ここにオレが居る事がバレたらヤバい気がする。逃げよう。部屋に戻ろう!
これ以上は聞かない方が身のためだ。
オレは部屋に戻って一息つく。
……しかしオレってお爺様からも嫌われていたんだな。本当に欠陥魔法使いであることが情けなくなった。
どうしてオレは魔法が放出できないのだろうか? 身体強化なら得意というかそれしか使えないからな。どうにかして魔法を放出する事が出来ないかな?
※
私は先代ドックライム公爵である父上を長男の結婚式に参加させた事を後悔している。
父上の現役当主のときは貴族を纏める公爵として、派閥を拡大し、爵位の低い貴族を騙し利用して権力を増やし続けた。
政敵であったジャルブランド公爵と揉め続け、最後は先王陛下の怒りに触れてしまい、当主変更のうえドックライム公爵領に隠居という名の幽閉という事になった。
結婚ほやほやの私が当主の座に就いたときは、先代当主の後処理が大変だった。その時の陛下だった先王陛下ににらまれ続け、先代ドックライム公爵のやらかした後処理を続けた。
弟のガガーロンから父上を結婚式に参加させようと手紙をもらい、親として子の結婚式に招待した。
しかし父上は領地に幽閉で王都に戻る事は陛下の許可が必要だ。
私は陛下に頼み込んで「先代ドックライム公爵を孫の結婚式に参加させる」と許可を貰った。
あのときの陛下の言葉を思い出す。
「父上は先代ドックライム公爵の事を恨んでいるし、私も恨んでいる。しかしアルムの兄の結婚式だから特別に参加を許すとのことだ。ドックライム公爵よ、先代に目立った行動をさせない事だ。結婚式にはゴーイングが父上の代理として来る予定だ」
「分かっています、陛下」
「ゴーイングも先代ドックライム公爵を快く思っていない。ゴーイングは先代ドックライム公爵の監視役だから気を付けて行動させろ」
「……ゴーイングは父上にどのような事をされたのですか?」
「……ゴーイングもあの事件の事を知っているのだ。真実をな……」
先代陛下の過去最大の怒りを買った事件。箝口令が引かれており、真実を知っているのはその場に居た関係者だけだ。しかしゴーイングも関係者だったとは。
「分かりました。もしもの場合は先代を結婚式に参加させず監禁します」
「孫の結婚式に参加させたいという公爵の想いもわかるが、先代ドックライム公爵の言動は薬にも毒にもなる劇薬だ。毒を浸透させないでくれ。主にアルムの為にな」
「アルムの為?」
「密偵からの報告だが、先代ドックライム公爵は欠陥魔法使いのアルムを好ましく思っていない。「どうしてアルムを追放しないのか」と言っているそうだ」
「そのようなことは初めて聞きました」
「父上が密偵を使って先代ドックライム公爵を監視しているのだ。その報告は私も聞いている」
今更ながら先王陛下の先代ドックライム公爵の恨みの深さに身が震える。先代陛下はそこまでしていたのか!
「ドックライム公爵よ。父上はお前やアルムを信頼している。しかし先代ドックライム公爵は別だ。先代が良からぬ事をしたら最悪の事態を考えてくれ」
……最悪の事態を考えて、父上には結婚式には参加させない方向で進めるか。
アルムにも会わせない方が良いだろう。アルムに毒を吐くのはミリアリア様だけで十分だ。
ガガーロンに父上の面倒を見てもらおう。屋敷ではなく離れに家に……。アルムの生活用品があるから駄目か。仕方がないからアルムには会わせないように執事長のデミル達に命令するか。
しかしずっと会わせない訳にもいかない。出迎えには子供達に挨拶をさせよう。
……出迎え時の報告を聞いたら父上はアルムを毛嫌いしているとの事だ。父とアルムを会わせたの失敗だったかもしれない。
そしてオーラムヴェルと父上の会話では。
「お久しぶりです、お爺様。ご健勝でなによりです」
「オーラムヴェル。ジャルブランド公爵家の派閥の貴族と結婚するとはな。ドックライム公爵の次期当主ならば相手を考えないといかんだろう。どうしてワシに相談しなかったのだ」
「私がヴィーラを愛したからです。彼女となら派閥の垣根を乗り越える事が出来ると考えて結婚しました」
「ワシに任せたらもっと良い良縁を結べたのに。惜しいことをしたな」
「自分の目で確認し、ヴィーラの性格を観て私は決めました。貴族の事情や派閥など関係なく、ヴィーラを愛しました。ヴィーラも私の事を愛してくれており、友人達も祝福してくれています」
「……ジャルブランド公爵派閥の女がドックライム公爵家のルールが守れるか心配だな」
「大丈夫です。ヴィーラは賢くて美人で気立てが良いので問題ありません」
オーラムヴェルは父上の皮肉を歯牙にもかけず流している。それに段々とイラつき始める父上を止める。
「父上、オーラムヴェルは明日に備えないといけません。父上も旅の疲れが溜まっているでしょうから部屋で休んでください」
そう言ってオーラムヴェルとの会話を辞めさせて、父上を部屋から退出させた。あのまま会話を続けたら父上がキレてしまうからな。
「お爺様は相変わらずですね。自分が一番正しいと信じている。……昔と違うのに」
同情するように父上が出て行ったドアを見続けるオーラムヴェル。……オーラムヴェルは父上のような当主にはならないだろう。出来ればジャルブランド公爵と敵対せずに協力してバルデハイム王国を支えてほしい。
しかしオーラムヴェルをドックライム公爵領に行かせて大丈夫だろうか? 二人が喧嘩しないように、父上にはドックライム公爵領のさらに景観の良い別荘で療養させた方が良いかもしれんな。
「父上、私が領地で生活する場合には、爺様を他の屋敷に移ってもらおうと思います」
「私も同じことを考えていた。領地内の別荘に移ってもらおう」
……父上は嫌われたものだな。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




