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4 その後

 目が覚める……。

 怖い夢を見た……。

 暗殺者に殺されそうになる夢……。血のように真っ赤な夢……。

 その暗殺者の顔は……、

 思い出した! 暗殺者の顔も! 笑い声も! 血の匂いも! 人を殺した感覚も! すべて思い出した!

 気持ちが悪くなり、吐き気がする。 胃液が口の近くまで登ってくるのを我慢する。

 気分が悪い。気持ち悪い。すべてを吐き出した!

 ……ここはどこだ?

 ベッドで寝ていたようだ。王宮のオレの休んでいる部屋か?


「アルムエルグ殿! 起きられましたか?」


 ……ゴーイングさんだ。ここは王宮なのか? あの森で暗殺者と殺し合いをした後の記憶が思い出せない。


「アルムエルグ殿、今の気分は? 体調は?」

「水をください」


 喉がカラカラで声が出しづらい。

 ゴーイングさんはベッドの近くに置いてある水差しから水を汲んで、オレに渡した。

 一口飲んで喉の渇きを取る。


「アルムエルグ殿、気分は如何ですか?」

「……最悪の気分です」


 素直に今の気分を言った。寝汗もかいて体中がベトベト。胃が痛くて吐き気がする。そして暗殺者の笑い声が頭に響いている。


「まだ休んでください。今から医者を呼びますので」


 ゴーイングさんは部屋を出て行った。部屋にはオレ一人だ。窓の外を見る。昼間のようだ。……暗殺者と戦ったのは昼過ぎだった。丸一日寝ていたのか。

 頭の中で暗殺者の笑い声が響く。耳を塞いでも聞こえる笑い声が癇に障る。

 壁側に血まみれの暗殺者が居る! オレはコップを投げて撃退するが、コップは暗殺者を通り過ぎて壁に当たってコップは砕けた。そして暗殺者は霧のように消えた。……あの暗殺者は幻だった。

 コップが割れた音に反応して、ゴーイングさんとディーアが部屋に飛び込んできた。

 オレがコップを投げて割ってしまい、二人は何事かと聞く。


「何でもありません……」

「アルムエルグ殿、顔が蒼白ですよ。大丈夫ですか!」

「大丈夫ですか? アルムエルグ様!」


 何でもないと言ってベッドで横になる。それでも暗殺者の笑い声が聞こえてしまう。両手で耳を塞いだけど笑い声は頭の中で響いていた。

 ……医者が来たと、ゴーイングさんが伝えた。

 オレは医者に体調を聞かれたので、「吐き気がして気分が悪い」と答えた。

 医者は薬を渡し、オレはそれを飲んだ。……早く吐き気が治るように薬に願う。


「アルムエルグ殿、汗をかいて気持ち悪いでしょう。寝間着を着替えませんか?」

「……自分でします」


 人に触られたくない。のろのろと着替えをしてベッドで横になる。


「今はゆっくりと休んでください。私かディーアが部屋の外に居ますので、何かあれば呼んでください」

 ゴーイングさんとディーアは部屋を出る。

 また一人になった。暗殺者の笑い声が聞こえ始めた。

 耳を塞いでも暗殺者の笑い声が聞こえる。

 笑い声を無視して寝る事は出来なかった。……オレはずっと頭の中で響く暗殺者の笑い声に悩まされた。





 執務室でアルムが目を覚まし、体に異常が無いという報告を聞いた。

 その報告を一緒に聞いた陛下と宰相は安堵した。

 私も安堵した。息子が暗殺者と一緒に倒れていると聞いた時は心臓が止まりそうだった。


「ドックライム公爵、アルムが無事で良かったな」

「さようです。」

「息子の心配をして頂き感謝致します」


 陛下と宰相を心配させたアルム。

 心配させたのはこの二人だけではない。

 先王陛下も寝ているアルムを見舞いに行ったと聞く。

 ゲックハルト宰相とダムボックス騎士団長はアルムの為に暗殺者を依頼した貴族を調査している。

 ゴーイングとディーアも現場からアルムを助け出した。二人は今もアルムの護衛をしている。

 陛下はアルムの為に緊急事態宣言を王国中に出そうとした。……やり過ぎだと言って全員で止めた。


「アルムからの報告を聞けたのか?」

「体調が戻っていないようで、休ませているとの事です」

「あのアルムが、歩く非常識が体調不良とは……。現場では何が起きたのだ?」


 陛下がアルムの事をどんな風に思っているのか、分かる言葉だ。うちの息子は少しばかり強いだけの、心優しい息子だぞ!


「本人からの報告がまだですが、ディーアからの報告によれば暗殺者は六人、五人は切り傷・刺し傷で死亡。一人は両腕骨折で腹に穴が開いて死亡との事です」


 宰相から報告を聞くが、素手で敵を無力化するアルムの仕業ではないな。


「死んでいる者達は全員暗殺者で、数人は賞金がついています。賞金は誰に渡せば良いか悩みますな。秘密にしている小さき守護者に渡す事は出来ませんし」

「賞金はドックライム公爵に預ければよかろう」

 賞金はアルムの将来の為に取っておくか……。

「それで、暗殺を依頼した者達は?」

「まだ調査中です。暗殺者が所持していた依頼書から調べていますが、まだ時間がかかりそうです」


 ……アルムの暗殺を依頼した者達か……。小さき守護者は王国だけではなく、他国でも噂が広がっているし、他国の密偵を捕まえているから、自国だけではなく他国にも恨まれている。


「エルドラージ王国の可能性は?」

「調査中です。エルドラージ王国よりもアスタテスラ王国の可能性があります」


 アスタテスラ王国か……。ローデンファング公国の隣国で、国境に兵を集めていると報告を受けている。……しかしアスタテスラ王国が依頼者だと判断するのは情報が不足している。


「アスタテスラ王国の監視を厳しくしろ! ローデンファング公国と協力をして、こちらも兵を派遣する」

「分かりました。準備を進めます」


 陛下はアスタテスラ王国へ兵を派遣する事に決め、宰相も頷く。

アルムを害したのがアスタテスラ王国と決まったわけではないが、あちらに不審な動きがあるのは間違いない。前もって準備するのは良い事だと思う。

 今考えるとエルドラージ王国と同盟を結んで良かった。

 エルドラージ王国とアスタテスラ王国の二国を相手にするのは難しいからな。相手側から結んだ同盟だ。一ヵ月も経たないうちに破棄する事はしないだろう。

 ……部屋に先王陛下が入って来た。ミリアリア様と一緒に。

 先王陛下はミリアリア様にアルムが倒れた事を話されたのか? アルムが倒れた事は上層部にしか知らせておらず、妻にも知らせていないのに。


「会議中にすまんな。……アルムの様子がおかしいのだ」


 先王陛下が難しい表情で私達に話す。……アルムに何かあったのか? ミリアリア様も暗い顔をしている。


「見舞いに行ったときは、アルムに異常が無いと思っていたが、目を覚ました後に見舞いに行ったら、様子がおかしい」

「それよりも、先王陛下。ミリアリア様にアルムの事を伝えたのですか? アルムの事は内密だったでしょう」


 ミリアリア様が体調を壊しているアルムの見舞いに行き、毒を吐いて更に寝込んだら、体調も治らないだろう。見舞いなら妻がアルムに見舞いできる許可も貰いたい。


「……すまん。ミリアはアルムが倒れた事を知り、ワシに見舞いの許可を貰いに来たのだ。ワシと一緒に離れた所から、アルムの様子を見るだけという条件だったのだが……」


 まったく孫には甘い。いやミリアリア様に甘い御方だ。その十分の一くらい私達にも優しくしてほしい。


「部屋に入ったとき、アルムが苦しんでいるのだ。悪夢を見ているようで叫んでいた。「止めろ、近づくな、離れろ」と言ったような言葉を叫び続ける。ワシはアルムの近くに行き確認をした。汗で体はビッショリで、うなされ続けている」


 陛下も宰相も私も先王陛下の話しを聞く。……アルムが悪夢に悩まされている? そんなこと今まで無かった。


「ミリアを下がらせてゴーイングを呼び、アルムを揺すって目を覚まさせた。起きたアルムは吐き気を催して、ベッドで胃液を吐いた。顔色は酷い状態だったので、医者を呼んで診断したが、身体には問題無いとの事だ」


 その後、何とか落ち着きを取り戻して、アルムは薬を飲んで寝た。薬は睡眠薬を飲ませて寝かせたと、先王陛下は言う。しかし、


「寝たあともアルムは悪夢を見ているようだった。うなされており、ミリアが神聖魔法の心を落ち着かせる魔法を使ったが……」

「少しだけ安静になりましたが、すぐにうなされて……。苦しんでいるアルム様を助ける事が出来ないなんて」


 泣き崩れるミリアリア様。先王陛下がミリアリア様を慰めている。

アルムに何が起きている? 睡眠薬を飲んでも悪夢を見るアルムの異変に深刻な事態だと改めて認識した。

そして私は陛下にミリアリア様の神聖魔法の師である妻にも来てもらって診て貰おうと考え許可を得る。


「ワシも知り合いの神聖魔法の使い手を呼ぼう。ミリアも来なさい」


 そう言って先王陛下とミリアリア様は退出した。私も妻を呼ぶために退出して屋敷に戻る準備をした。




誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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