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3 狂った暗殺者

 王妃様とのお茶会から数日後、現在オレは王宮の一番高い見晴らしの良い場所にいる。

 この場所は王都が一望出来て、遠くの森まで見えることが出来るオレのお気に入りの場所だ。

 視力強化でいろんな出来事が見えるし、聴力強化で様々な声を聞き取れる。

 王都の平和を守る小さき守護者と言われて、敵国密偵や賊を退治して簀巻きにする見回り、各施設への配達作業。報告書書類の作成、先王陛下の話し相手などなど。

 毎日休む暇もなく働いている気がする。

 少し休んで気分転換をした方が良いかもしれないな。公爵領に行ってのんびりするかな? でも公爵領にはガガーロン叔父上が居るからな。あの人がオレを見る目がどうも好きになれないし。従兄の クルックスにも嫌われていそうだし……。


「どうした、アルム?」


 テオドールが来た。この数日間、陛下達から仕事を頼まれて砦や他領の配達係をしていたから、テオドールと会うのは久しぶりだな。


「ここは見晴らしが良いな。王都の外まで見えるし、気持ち良いな」

「そうだね」


 オレは王都の居る賊を調べる為にこの場所に居る。最初の頃はこの場所から遠望できる景観に感動していたが、今では感動を感じない。……この景観に慣れたのだろうか?


「アルム、大丈夫かい? 顔色が優れないけど」

「……大丈夫だよ」

「そうかい? アルムはいつも働いているからね。疲れが溜まってないかい?」

「疲れか……。少し溜まっているかもしれないな。今度、ゆっくり休もうかな?」

「それが良いよ。ゆっくり休んだら、体調も良くなるさ」


 テオドールの言う通り、今度ゆっくり休むか。……睡眠をとって、美味しい物を食べて、屋敷でゆっくりと過ごして英気を養おうかな?

 そんな事を考えていたら、王都の近くの森で不審な物を見かけた。良く見ると、誰かが人を殺そうとしている!

 聴力強化で声を聞こうとしたけど、範囲外で声が聞こえない。

 オレは小さき守護者の格好に着替える。いきなり着替えだしたオレにテオドールは驚き、何事かと聞く。


「王都の近くの森の小屋の所で誰かが人を殺そうとしているから、確認してくるよ」


 そう言ってオレはその場から飛び降り、王宮を出て、森に向かった。



 目的地に着くと、その場は惨劇だった。

何人もの人間が無残に殺され、血まみれで立っている男が一人。服も手に持つナイフも血で汚れており、全身真っ赤に染まっていた。


「誰だ? こんな場所に来る奴は?」


 ゆっくりとオレを見て男は笑う。


「お前が、バルデハイム王国にいる、小さき守護者か。本当に小さいな!」


 男は笑いながらオレに近づく。逆にオレは無意識に後ろに下がった。


「こいつらはバルデハイム王国の貴族の依頼で、お前を暗殺する為に集まった者達だ。お前が何十人も貴族や賊達を捕まえてから、恨みを買っているからな」


 ナイフに付いた血を拭いながら、更にオレに近づいてくる。オレも後ろに下がった。


「噂の小さき守護者を取り囲んで殺すなんて、勿体ないだろう。だからオレがこいつらを殺した。前菜にしてはまあまあだったぞ」


 どうしてオレは後ろに下がっているのだろか? 無意識に下がっていたオレは立ち止まる。

 その瞬間、ナイフが飛んで来た! 男が手に持っていたナイフだ! このままでは仮面に当たる! オレはナイフをつかみ取る。

 驚いた! 男がナイフを投げたのは分からなかった。 投げる動作が全く分からなかった。


「さすがは小さき守護者だ。普通の奴なら死んでいたが、ナイフを掴むとはな」


 今度は両手でナイフを持って男は嬉しそうに言った。


「やはり、殺し甲斐があるな! 他の奴に渡さなくて正解だった!」


 素早い動きでオレに近づき、ナイフで首を狙ってくる! 今までで一番早い男、いや暗殺者だ!

 それでもオレよりも遅い! 襲ってくるナイフを避けて、今まで通り気絶させるだけだ。

 手刀を首に打って気絶させようとしたが、暗殺者は避けてオレに切りかかる! ナイフがマントを少し切り裂いた! この暗殺者は今まで戦ってきた相手よりも強い!


「さすがだな! それでそこ! 殺し甲斐がある!」


 暗殺者は地面に何かを叩きつけたら、周辺に煙が広がる。……視界が煙で遮られて暗殺者の姿が見えない。

 ナイフが飛んで来た! 掴んだナイフには液体が付いている。毒か!

 投げナイフくらいで、オレの身体強化で強化した皮膚に傷一つ負う事はないが、あまり良い感じはしない。

 その場を移動して、接近戦で暗殺者と戦う事にした。 早く気絶させて無力化しよう!

 暗殺者は何処だ? ナイフが投げられた方向に走る! すると右側からナイフが飛んで来た! 右側に居るのか!

 ナイフを避ける。すると避けた場所には死体があった! つまずきそうなところにナイフが迫ってくる! 腕で防御してナイフを弾いて、暗殺者を追う!


「なんて奴だ! 毒付きナイフが効かないとは! ではこれはどうだ!」


 暗殺者を見つけた! 暗殺者は短い剣でオレに切りかかる。それを避けて、剣を持つ腕を殴りつけて骨を折る!

 腕が折れたはずなのにオレに切りかかる暗殺者。その剣を腕で受け止めて相手の腹を殴る。暗殺者は「グフッ」とうめき声を立てながらオレの腕を掴んだ!


「凄いな、小さき守護者。刃物が効かない人間をどうやって殺せばいいんだ! 殺し甲斐がある!」


 オレの体に剣を突き立てる暗殺者。それでも身体強化されたオレの皮膚には傷つかない。

オレは暗殺者の剣を叩き壊して、掴んでいる腕を折った。暗殺者は両腕とも腕が折れているのに笑っている。……嬉しそうに笑っている。


「楽しいね! これならどうだ!」


 腕が折れているにもかかわらず、折れた剣でオレに襲いかかる暗殺者。

痛みを感じないのか笑いながら切りかかるが、それを避けて首筋に手刀を叩きこむが、暗殺者は気絶しない。それどころが、更に狂ったように笑いだす。……気でも触れたか?


「どうしてオレを殺さなない! オレ達は殺し合いをしているんだぞ! お前を殺すから、お前もオレを殺せ! 気絶させようなんて思わないでオレを殺せ!」


 最後の方は怒鳴りながら言い切った暗殺者。そんな暗殺者の鬼気迫る気迫に、オレは後ろに下がる。……怖いという感情がオレを後ろに下がらせた。

 オレの感情なんて無視して、暗殺者は襲いかかる。

 足が動かなくなり、避ける事が出来なくなった。腕で防御して剣を受ける。狂ったように笑いながら何度も剣をオレに切りかかる暗殺者を相手に、オレは何度も剣を受けて身を守る。


「なにやっている! どうしてオレを殺さない! どうして殺気を出さない!」


 暗殺者はオレの仮面を取った! しまった! 剣に対する防御に夢中で仮面を取られた!


「……なんだ、小さい大人だと思っていたが、子供だったとはな。どうりで温い攻撃しかしなかったはずだ」


 片方の手で顔を隠したが、暗殺者には顔を見られてしまった! どうしよう……。


「子供を殺す事になるなんて……。嬉しいね! 笑いが止まらないぜ!」


 更に狂気的な顔をする暗殺者。ナイフでオレの目を狙ってきた! さすがに目は鍛える事が出来ないから反射的にナイフを弾いたら、運悪く暗殺者の胸に刺さってしまった。

 ……刺さったナイフを暗殺者が取ると、傷口から血が流れる。その血を見てオレは更に怖くなった。


「どうした? 血を見て怖くなったのか? まさか血を見たこと無いなんて言わないだろう。血まみれの小さき守護者!」


 こんな至近距離で血を見たのは、ゴーイングさんが倒れたきりだ。ローデンファング公国で襲った暗殺者を撃退したときは遠かったから血を見ていない。基本的に気絶させて簀巻きにするから血を見ていない。

 ……血を見て震える。怖い! 暗殺者も怖いけど、流れる血が怖い!


「本当に血が怖いのか? 子供だから体から出る血が怖いのか? 坊や」


 傷口から流れる血を顔に塗り、ナイフにも塗り付ける。

 顔が血で真っ赤になった暗殺者はオレの表情を見て笑っている。

オレは怖かった。暗殺者の血を流しながら笑っている事が……。どうして笑いながら人を殺せるのか、どうして笑いながら人を傷つける事が出来るのか。


「どうした、坊や? 血が怖いのか? それでも英雄と呼ばれる小さき守護者か?」


 ……血が怖かった! 初めて知った! 暗殺者も怖いけど、それよりも流れ続ける血が怖い!

 呼吸が荒くなってきた。血の匂いを思い出す。ゴーイングさんが目の前で血を流して倒れた時と同じ匂いだ。

 一歩、一歩後ろに下がる。何かに躓いて尻もちを付く。……躓いたのは死んだ人間だった。今度は吐き気がする。胃液が逆流しそうだ。気持ち悪い。


「どうした? 小さき守護者。かかって来いよ」


 血で汚れた顔で近づいてくる暗殺者。逃げようと思っても立てなかった。

 一歩ずつ近づいてくる。座りながら逃げようとするが、死体が邪魔して逃げる事が出来なかった。


「おい! 坊や。立ち上がって、オレを殺さないと大変な目に遭うぞ! 殺意を抱いてオレを殺さないと、死んじゃうぞ!」


 暗殺者が目の前に来た。ナイフを大きく振りかぶってオレの体に突き立てた。しかし身体強化魔法で体には傷がつかない。


「……本当に人間か? 渾身の一撃なのにかすり傷一つ、つかないなんて」


 皮膚には傷つかないが衝撃が走った。身体強化魔法の力が弱くなっているのか?


「だったら目や口はどうだ?」


 今度は顔を、目を潰そうと襲いかかる。顔を防御して一撃を凌いだ。

 次は防御の隙間をぬって顔に当たった! 恐怖が走る! オレは無意識に立ち上がって暗殺者に体当たりをしていた。

 体当たりの衝撃で暗殺者が倒れた。オレは馬乗りになって殴る。

 殴った衝撃で口から血を吐き、体が血で汚れた。

 血よりも、暗殺者が怖かった。暗殺者の顔を殴り、拳に血が付く。

 拳に付いた血を見て怖くなり動きが止まる。そして暗殺者ひっくり返され、オレは地面に倒れる。


「良い殺気だ。ようやくオレを殺す気になったな」


 嬉しそうに笑う暗殺者。どうして命のやり取りで笑うのか分からない。オレは暗殺者に恐怖する。

 殴られて口から血が流れ、体からも血が流れている。両腕は折れているはずなのに、痛みを感じないのか笑いながら立ち上がる暗殺者。


「さあ、ゴフッ! 殺しあうぞ、坊主 ガフッ!」


 血を吐きながら喋る暗殺者に、オレは恐怖を通り越した。

 無意識に暗殺者を殴りつけた! 本気で殴った!

 オレの拳は暗殺者の体を貫通して腕が生暖かい。暗殺者の体温を腕で感じている。


「なんだよ、殺気を出せよ。ガフッ!虫を払う様にオレを、ゲフッ! 殺しやがって……」


 暗殺者に致命傷を与えた……。血がオレに……。


「初めて人を、殺したのか? 坊主。嬉しいね、お前の初めてが、オレだとは」


 体を貫通されてもまだ喋る暗殺者。腕を抜こうとしたけど、暗殺者に封じられた。


「初めての、人殺しは、楽しかったか? グフッ、気持ち、良いだろう」


 手を抜けない。体が動かない。血が気持ち悪い。暗殺者が怖い。


「坊主が、初めて、殺した、相手は、オレだ。忘れるな」


 暗殺者の声が小さくなっていく……。その声が良く聞こえる。聞きたくないのに頭に響く!


「楽しかったぜ、小さき、守護者。また夢の中で。殺し、合おう……」


 その言葉を最後に暗殺者は力尽きた。オレに体を預けて死んだ。

 オレは動けなかった。暗殺者の言葉が頭に響いて動けなかった……。

 ……どのくらい時間が経ったのだろうか? 暗殺者の体が冷たくなった気がする。オレは腕を抜いて、暗殺者を地面に倒した。

 服もマントも顔も腕も血だらけだ。暗殺者の血だ。

 そう思ったら、暗殺者の言葉が蘇る。『坊主が、初めて、殺した、相手は、オレだ。忘れるな』と。

 体は吐き気を思い出して、その場で吐いた。

 血の匂いが凄く鼻につく。

 暗殺者の最後の言葉が頭に響く。

 眩暈がする。体がクラクラする。地面に立っているのかの感覚がない。

 ……地面が近づいている。倒れたんだと思った。

 そしてオレは意識を失った。


誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。

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