23 エピローグ
帰りの船の与えられた客室で私達は叱られています。
「この大馬鹿者が!」
私達は目の前の男性に叱られている。エルドラージ王国王太子であり、私の婚約者であるコンキデムス様は今回の件について説教されている。
「気球を勝手に使って! 操作ミスして他国に飛ばされ! 盗賊に捕まって! お前達は何を考えている!」
「申し訳ありません。すべては私の責任です」
「私にも責任があります。マユーラだけの責任ではありません」
私は頭を下げて謝罪する。そして隣にいた伯爵令嬢であるフレデリーアも頭を下げてコンキデムス様に謝罪する。
国の機密道具を勝手に使った罪で処罰されるだろう。婚約解消され、修道院で一生を過ごすかもしれない。それとも死罪で毒酒を飲んで自害するのでしょうか……。
「マユーラ、フレデリーア。マリアベルが我儘で気球を使いたいと言って命令したのだろう。この我儘妹のせいで城がどれだけ混乱したと思っている? 気球を用意した者達は全員処罰の対象となり、現在は牢獄の中で処遇待ち。気球を管理している責任者は『死んで詫びる』と言って自殺した。そしてお前達が護衛していた騎士や侍女達も牢獄の中だ」
コンキデムス様の発した言葉は私の心を傷つける。隣のフレデリーアも顔面蒼白です。
「マユーラとフレデリーアは妹を止める立場であったが、止める事が出来ず、王国を混乱に陥れた。一つしかない気球を壊して、運良く無事だったが、お前達の罪は重いぞ」
「お兄様、罪は気球を操作した者で私達のせいでは」
コンキデムス様の妹であり、王女のマリアベル様が発言したが、その言葉を聞いてマリアベル様はコンキデムス様に頬をビンタされる。どうして怒られたのか分からないといった表情でマリアベル様はコンキデムス様を見るが、コンキデムス様の表情が更に怒りをあらわにした。……怖いです。
「気球を操作した者を命令したのは誰だ! お前のせいで死んだんだぞ! オレの部下がお前の我儘によって死んだ! オレは奴の家族にどう謝罪をするのだ! 『妹の我儘で死んだ』とでも言うのか!」
怒りをあらわにしてマリアベル様に怒鳴るコンキデムス様。
「お前のせいで二人の部下が死んだ! もしもお前達が死んでいたら気球を用意した者達、護衛騎士、使用人や侍女達も処罰されるところだったのだぞ! この大馬鹿者!」
コンキデムス様は大声で叱り、呼吸が荒い。その気迫に怯えてマリアベル様は泣き出し、フレデリーアが慰めようとする。そしてコンキデムス様は呼吸を整えて私に聞いた。
「気球を操作していた者は?」
「私達を守ろうとして盗賊に殺されてしまって……」
「そうか……。だが三人とも本当に無事で良かった」
怒りを抑えて、いつもの表情で私達の無事を安堵してくれた。
「帰ったら全員、説教が待っているぞ。国を混乱に陥れたのだからな。処罰待ちの者達もお前達が無事だったから、死刑はないだろう」
「本当に申し訳ありませんでした」
「本当に、本当に三人が無事で良かった。運良くバルデハイム王国に落ちて良かったな。敵国だったらどんな目にあった事だろう」
本当に無事に帰れる事が嬉しい。コンキデムス様が私を抱きしめてくれた。今までの苦労が報われる思いです。
マリアベル様も泣き止み、コンキデムス様に改めて謝罪する。コンキデムス様は頭を撫ぜて無事だった事を喜んだ。
「コンキデムス様、バルデハイム王国との同盟の件ですが、本国が良く納得しましたね」
フレデリーアが同盟の件を聞く。確かに私も驚きました。バルデハイム王国は次に戦う国だと聞いていたからです。
「仕方がないだろう。お前達の無事と、相手国との思惑を考えたら同盟が一番だったからな。それに期限付きの同盟だ。問題ない」
そう言って窓の外を見るコンキデムス様。この船は魔力を使って動いており、コンキデムス様が開発した魔道船です。空飛ぶ気球だけではなく、魔道船までも作るエルドラージ王国の王太子は、どんな敵にも打ち勝ち、この五年間で国土を数倍にした英雄。その英雄である婚約者である私は彼を支えなくてはいけません。
「小さき守護者か……」
独り言の様に呟いたコンキデムス様。私達を最初に助けたのは小さき守護者だった。守護者が来てくれたから私達は助かった。仮面を被っていて顔は分からないが確かに小さかった。背の小さい大人だろうか? それとも子供だろうか?
「コンキデムス様は小さき守護者の事をどう思われていますか?」
「……何度も国難を退けた者だ。小さき守護者が居る限りバルデハイム王国に手を出すのは被害が出るだろう。まずは情報収集だが、……密偵の件も同盟内容に入れたんだよな~」
真面目な表情と声で私に説明したが、最後に情けない言葉で落ち込んでいるコンキデムス様。この人は子供っぽくてギャップが可愛い。そんな彼が私は好きです。
「こっそり調べようとしても、もし見つかったら同盟破棄だし、どうしよう……」
情けない声で話すコンキデムス様は、先ほど私達を叱ったとは思えないほど情けない声だ。
「でしたら、商人を使ってみてはどうでしょうか? バルデハイム王国を相手にしている商人に情報を集めてもらうというのか?」
フレデリーアがコンキデムス様に提案すると、
「それ! 採用! 流石はフレデリーア!」
明るい表情になるコンキデムス様。彼が元気になり嬉しく思う反面、フレデリーアに少し嫉妬する。
その後、コンキデムス様は考え込む。どの商人に頼むか考えているのだろう。
「お兄様、自分が商人に変装して、情報を集めるなんて考えていないでしょうね?」
「も、もちろん、そんなこと、考えてないよ」
マリアベル様は兄の考えを的確にとらえる。……公では王太子として、英雄として振舞い、私達の前では歳相応な私の婚約者。そんな彼ですが、行動が分かりやすいです。
※閑話 姫様頑張る 時を飛ばす姫様
本日から加護を封じる魔法を習う為に神殿で習得します。なんとか学院入学までに習得してアルム様と仲良く学院生活を過ごす為にも頑張らなくては!
「ミリアリア様、落ち着いてください。寝起きの髪を梳かしている最中です。これが終わったら着替えて、朝食をとり、午前中は勉強をして昼食後、午後から神殿に向かいますから、気合いを入れるのは午後からにしてください」
「エリスお姉さまの言う通りです。目の隈もどうにかしないといけません。ミリアリア様、眠れなかったのですか?」
「ファムの言うとおり、興奮して寝付けませんでした。やっと加護を封じる魔法を習得できるのですから。やっとアルム様に毒を吐かずにお話が出来ると思うと嬉しくて」
「化粧で目の隈を隠しますから、ジッとしてください。ファム、化粧道具の用意をお願い」
「コレート、手伝ってください」
「分かりました」
髪を整え、着替えをし、化粧で目の隈を隠す。鏡を見て髪型も服装もチェックをする。目の隈も化粧で隠れて大丈夫です!
アルム様に見てもらいたいです。アルム様は今何をしているのでしょうか? まだ寝ているのかしら? それとも朝食を取っているのかしら? きっと私の事を想いながら寝ていて、私が出てくる夢を見ているに違いありません。その夢の私は毒など吐かず、優しくアルム様に接しているでしょう。そして二人でお茶会をしてアルム様は優しく微笑んで、私の淹れたお茶を飲み「美味しい」と言って……。
「……様、姫様! こっちに戻って来てください!」
「どうしました? ファム」
「もうすぐ勉強の時間ですよ。大丈夫ですか? もしかして眠いのですか?」
「え? 朝食は?」
「朝食は先ほど陛下達と一緒に食べたでしょう。今から勉強の時間ですよ」
……アルム様の事を想っていたら時間が飛んだみたいです。まったく朝食を取った事を覚えていません。
「勉強にはアルムエルグ様の妹君であるラルーシャ様も参加しますからしっかりしてください。ミリアリア様の事をラルーシャ様からアルムエルグ様に伝える作戦の為にもしっかりしてください!」
そうですね。未来の義妹に変に思われない様にしないといけません。少し眠いですが一生懸命勉学しましょう。
「午前中の授業内容は歴史と地理と音楽です。頑張りましょうね、コレート」
「はい、ファム。頑張りましょう」
ファムは勉強が得意ですが、コレートは苦手です。やはり騎士の家系なので頭を使うよりも、体を使う事が得意です。私の学友として真面目に授業を受けていますが、授業が終わると疲れ切った表情をします。本当に大丈夫なのでしょうか? 学院での授業について来る事が出来るが少し心配です。
アルム様の勉強はどのくらい進んでいるのでしょうか? お兄様の学友として過ごしていましたが、周りの学友に無能扱いされてイジメられていたと聞いた時は、その学友を殴ってやろうと思っていました。宰相と騎士団長の子供だろうと関係ありません! 全力でぶん殴ります!
今では独学で勉強をしているので、どのくらい勉強が進んでいるのかわかりません。ラルーシャに調べてもらった方が良いでしょうか?
出来れば私と一緒に授業を受けてほしいですが、父様やお母様達から反対されています。
きっとアルム様と一緒に授業を受ける事が出来るのなら、アルム様の分からない問題を教えてあげたり、逆に私が教わったり、ダンスの授業もパートナー役がアルム様と一緒に踊って、幸せな時間になるでしょう。
休憩には二人で一緒にお茶を飲んで、私が淹れたお茶のアルム様が微笑みながら飲んで「美味しい」と言ってくれるでしょう。そして私はアルムさんが持ってきたお茶請けのお菓子を食べて「美味しい」と言うと、アルム様は微笑んでくれるでしょう。そして私の手を握って……。
「……様、姫様! こっちに戻って来てください!」
「どうしました? ファム」
せっかく良い雰囲気でしたが、またファムに邪魔されました。
「昼食の時間です。食事をとって神殿に行く用意をしましょう」
「え? 授業は?」
「授業でしたら先ほど終わりました。本当に大丈夫ですか? 体調が悪いなら今回の神殿は御止めになりますか?」
「大丈夫です。……そういえばラルーシャは?」
「……ラルーシャ様はミリアリア様に与えられた試練の為に、お帰りになりました。神殿から帰ってきたら、王妃様とドックライム公爵夫人からの説教があると思いますので覚悟してください」
「え? 私がラルーシャに試練を与えた? 説教?」
「学友である私とコレートも手伝いますが、それでも出来るかどうか……」
「ファム、私の知り合いの令嬢達に手伝ってもらいましょうか?」
「……駄目です。ラルーシャ様が頼まれたのですから、手伝えるのは私達学友だけです。コレート、大変だと思いますが頑張りましょう!」
「はい、頑張りましょう。ファム」
私は何を言ったのでしょうか? まったく覚えていません……。説教を受けるくらい酷い事を頼んだのでしょうか? 急いでラルーシャの頼み事を撤回した方が良いのではないでしょうか?
「アルムエルグ様とのデートプラン。それも平民に変装して城下街を回るプランなんて公爵令嬢には作れないムチャ振りです。それも一人で調べるって。前にアルムエルグ様と城下街観光をしたからってラルーシャ様を嫉妬して作らせているのですか?」
ファムが私を見る。ちょっと怒っているみたい。……しかし、ラルーシャに何を頼んだのかまったく覚えていません。
「ではみんなでデートプランを考えましょう。エリス達の考えも聞きたいし」
「もちろん、私達学友で考えた計画は、エリスお姉様に見てもらって、合格を貰ったら王妃様に提出する予定です。しかし却下されるのは目に見えています」
「どうしてなの?」
「アルムエルグ様と一緒にデートさせるなんて許可が下りる訳ありません。お茶会でも毒吐いてアルムエルグ様を落ち込ませているのですよ」
「では、お茶会で毒を吐かなければ、デート出来ますか?」
「そんな事を考える前に、昼食を食べて神殿に行く用意をしましょう。毒舌を封じる魔法を覚えてから提案しましょう。すべてはそれからです!」
「分かりました! 頑張ります!」
「頑張ってください、ミリアリア様」
「ありがとう、ファム、コレート。絶対に城下街デートが出来る様にプランを練るわよ!」
「ミリアリア様は参加できません。ラルーシャ様が作成し、私とコレートが手伝い、側近達に確認してもらって、王妃様に判断してもらいます。ミリアリア様は毒を吐かないように魔法を習得してください」
「……はい」
私もみんなと一緒にデートプランを考えたかったです。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




