15 他国の令嬢達
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ミリアリア様に頼まれた飲み物を片手に立ち尽くす。
「婚約者と踊ってどうだった?」
笑顔の先王陛下がオレに感想を聞く。なんて言えば良いのだろうか。毒舌が酷く、苦痛の時間帯でした。とは言えないので、
「楽しく、素晴らしい時間でした」
正反対の言葉を述べる。オレの言葉に「そうか、そうか」と言って、
「ミリアも婚約者と踊れて楽しい時間を過ごせたと思うぞ。昨夜は楽しみでなかなか眠る事が出来なかったと言っていたぞ。ミリアが戻ってきたらもう一度、踊ってくれ」
オレにそう言って王族指定のテーブルに座らせようとするが断り、他の貴族と会話している先王陛下の後ろにいるゴーイングさんの横で待機する。エスコートするミリアリア様が居ないからこの場所に居れば大丈夫だろう。
大広間には次のダンスが始まろうとしており、ベルファルト様が他の令嬢と踊ろうとしている。
他国の令嬢達は踊らないで陛下と話をしている。
そういえば王妃様も居ないな。ミリアリア様と一緒に席を外したのかな?
妹は……父上達の側にいるな。あ、目が合った。……けどすぐに外された。今度は妹と踊ろうかな? でもミリアリア様の許可が必要になるのだろうか?
「どうした? アルム」
「なんでもありません。それよりもミリアリア様と王妃様は?」
先王陛下が考え事をしている最中に声をかけてくるので、席を外しているミリアリア様と王妃様の事を聞いた。
「席を外しているだけだ。すぐ戻ってくるだろうから心配いらんよ。それよりもエルドラージ王国の令嬢達と会話でもしておけ。今後の為になるだろう」
……エルドラージ王国の情報を聞き出せという事なのかな?
「分かりました。頑張ってエルドラージ王国の情報を聞き出します」
そう言って陛下と喋っているエルドラージ王国の令嬢達の所に向かった。後ろで先代陛下が飲み物を噴き出してゲホゲホと咳をしていたが、ゴーイングさんがフォローしているので大丈夫だろう。
陛下と会話をしているのは確か、……ドリル髪が特徴のオルグーム公爵家のマユーラ様だ。他の二人は一歩下がって会話を聞いている。
「漁夫の利と言われていますが、ヨーデンポリー王国を占領しましたが、財政は崩壊寸前で建て直しをする為に、我が国は更なる出費をして赤字になってしまったのです」
「そこまで酷い状態だったとはな……。ヨーデンポリーは我が国に戦争を仕掛けた理由を敵将から聞いたときは、虚偽だと判断したが……」
「はい、そちらに攻め込んだ理由は、遊ぶ金が欲しくて攻めて来たと言っても過言ではないでしょう」
数ヵ月前の戦争の事について語っているよだ。ヨーデンポリー王国がバルデハイム王国のルックナー砦の見取り図を奪って戦争を仕掛けてきたけど、オレが総大将を誤って拉致して勝ったけど、その隙にエルドラージ王国がヨーデンポリー王国を攻めて占領したんだよな。
そんな事を思い出しながら陛下の近くに寄ると、陛下が声をかけてくる。
「どうした? アルム」
「いえ、改めてエルドラージ王国の方々に挨拶をと思いまして。ドックライム公爵家の次男のアルムエルグです。マユーラ様、フレデリーア様、シャルロッテ様、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願い致しますわ。シャルロッテ、フレデリーアもご挨拶を」
「ユーガムス伯爵家のフレデリーアです。改めてよろしくお願いします」
「シャルロッテです。よろしくお願いします」
マユーラ様に促されて前に出る令嬢二人。長い黒髪の最年長のフレデリーア様と、マユーラ様から姫様と呼ばれて身分を偽っているシャルロッテ様。
そしてシャルロッテ様からジロジロと顔を見られる。……どうしたのだろうか?
「シャルロッテ、殿方の顔を凝視しているのですか? マナーが悪いですよ」
「ご、ごめんなさい。アルムエルグ様の雰囲気が、私の知っている人に似ていたので」
「気にしていませんよ。私に似ている人ですか。どんな方ですか?」
オレに似ている人か。少し気になるな。性格もオレに似ているのなら友達になれるかな? 仕事の事や家族の愚痴を聞いてくれる人ならいいな。
「えーと、いつも変な事を考えていますが優しい人です」
優しい人というフォローが入っているが変人指定されている。王族であるシャルロッテ様とはどのような関係の人物だ? エルドラージ王国側のマユーラ様達はその人物に心当たりがあるようで表情を固めている。
これは深く検索した方が良いな。先代陛下の任務である他国の情報を聞く事が出来るし、国の為にもなる。
「なるほど。シャルロッテ様達を想っている優しい男性なのですね。では今は御心配をされているのではないでしょうか?」
「心配していると思いますが、仕事が忙しいので助けに来る事は出来ないでしょうね」
なるほど。男性という事を否定してないな。そして仕事が忙しいという事は成人の役職についている人間だな。
「ですが、私達の心配をしている事は確かです。シャルロッテも悪く聞こえるような事を言ってはいけません」
「ごめんなさい」
マユーラ様に頭を下げる妹役のシャルロッテ様。公爵家出身のマユーラ様も知っている人間なら王族か爵位の高い人間だな。
「でも本当に素晴らしい方なのですよ。私達には思いもつかないような事を思いつく御方で、何にでも集中する事が出来て、頭脳明晰で運動神経万能で、容姿端麗のスタイリッシュで、婚約者にも優しいハートフルな方で、それで……」
「マユーラ様、落ち着いてください。アルムエルグ様が引いていますよ」
その人の素晴らしさを凄い剣幕でプッシュするマユーラ様を抑えるフレデリーア様。
引いてはいないけど、そんな万能人間がオレに似ているとは……。お世辞ではなくて比較対象だよ、シャルロッテ様。
その後も三人の令嬢達からエルドラージ王国の事を教えてもらった。
エルドラージ王国は農業の盛んな風土で、その土地を狙っている他国が多い。そして鉱山が多いヨーデンポリー王国を吸収して領土が拡大したけど、今は内政で忙しく他国と戦争が難しい状態らしい。その事で他国から戦争を仕掛けられそうになっているそうだ。
ヨーデンポリー王国を占領したエルドラージ王国は難しい舵取りをする事になった。
しかしエルドラージ王国の士気は高い。何故なら王太子が難敵の指揮をとっているからだ。
いろんな政策をとり、エルドラージ王国を豊かにして兵力を充実させた。
戦争を仕掛ける他国を撃退して、エルドラージ王国の英雄と言われているそうだ。
「とても素晴らしい方で、戦争で親を失った子供達の為に、国が運営する孤児院を設立したり、福祉や医療制度の改革などをして、平民からも人気が高いのですよ」
マユーラ様の熱の籠った説明を聞いていると、王妃様とミリアリア様が戻ってきた。
「アルムエルグ。マユーラ様達のお相手をしてくれて感謝するわ」
王妃様からの御言葉に頭を下げる。そしてミリアリア様はニッコリとほほ笑むだけだった。
「ミリアリア様、新しい飲み物をお持ちしますので、少しお待ちください」
前に貰った飲み物よりも、新しい飲み物を用意しようと思って、移動しようとしたら、
「ありがとうございます。アルムエルグ様。私がお渡しします」
必死の雰囲気を纏った学友のファムさんが素早く飲み物を取ってミリアリア様に渡した。そうだ!
「ミリアリア様にお菓子を……」
「私がとってきます!」
決死の雰囲気を纏った学友のコレートさんがお菓子を取りに行き、オレの分まで持ってきた。
「あの、ミリアリア様……」
「ミリアリア様に何か御用ですか?」
微笑みに怖い雰囲気を纏った側近のエリスさんが間に入った。……オレの対応にミリアリア様の側近達が怒って喋らせてくれないのかな? 側近達が纏っている雰囲気は尋常ではない。オレの行動がみんなを怒らせていたのだな。本当に申し訳ない。
「い、いえ、何でもないです」
「ではミリアリア様の隣でエスコートをお願いします。何か用事があるときは私達が対処します」
そう言って微笑み続けるミリアリア様の隣で、オレはこれ以上嫌われない様に石像の様に立つ事にした。
マユーラ様達が王妃様とおしゃべりをしていると、父上達がこっちのほうに来た。母上と妹はマユーラ様に挨拶をして会話に加わる。父上は陛下と会話をして、オレの方に来た。
「アルム、お勤めご苦労。頑張っているか?」
「はい」
何を頑張っているか疑問だが返事する。父上はミリアリア様にも声をかけた。
「ミリアリア様もアルムと踊って頂いて感謝します」
「婚約者として当然です。とミリアリア様は言っております」
ミリアリア様が返事をする前に、側近のエリスさんが答えた。勝手にそんな事を言って良いのか?
「そ、そうか。少しアルムと話したいのだが良いかな」
「大丈夫です」
ミリアリア様の代わりにエリスさんが答えて、オレと父上は少し離れて会話をする。
「……どうしたのだ? ミリアリア様やその側近たちは?」
「申し訳ありません、私がミリアリア様とその側近達を怒らせたようなのです」
ダンスを踊った後で、ミリアリア様と側近達が席を外して、戻ってきたら全部側近達が怖い雰囲気で対応しているので、みんなを怒らせたと父上に伝えた。
「ミリアリア様達が勘違いをしているだけだ。私が説明をするからアルムは少し席を外していろ。戻ってきたらいつものように対応してくれるはずだ」
いつもの対応って……。ミリアリア様の毒舌で心が折れそうになるんだけど。
「……ミリアリア様は恥ずかしがっているんだよ。アルムの優しい広い心で受け入れるのだ!」
「……頑張ります」
そう言って親子の会話を終えて会場から出て中庭に行く。
中庭にも貴族達が酒を片手に会話をしており、貴族の子供達も集団に集まって話をしていた。
オレの子供だからその集団に入りたいのだが、
「あれってドックライム公爵家の欠陥品だよな」
「権力を使って姫様の婚約者なった奴か?」
「情けない面しているな。姫様もこんな奴と婚約しないといけないなんて可哀そうだ」
……友達にはなれないか。他の所に行こう。
会場に戻って壁のシミになろうと思っていたら、貴族の子供達を連れたベルファルト様と出会った。
「……久しぶりだな、アルム」
「お久しぶりです、ベルファルト殿下」
そう言って子供達を連れて中庭に向かった。その取り巻きの子供達に勝ち誇った顔をされたり、舌打ちされたりした。
中庭にいる貴族の子供達の集団の輪に入って中心でみんなと会話をしている。
……あっという間に中心に入ったベルファルト殿下。貴族の子供達に嫌われているオレ。
やっぱり欠陥魔法使いだから学校でも友達が出来なくて、虐められる可能性が……。どうすれば良いかな? 今のうちに友達を作っておけば……。
そろそろ会場に戻ろうと思ったら城門の方から騒がしい声が聞こえてきた。詳しく聞こうと思って耳を傾けたら……。
誤字脱字、文面におかしな所があればアドバイスをお願いします。




